続・最後の男

深冬 芽以

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9 女の闘い

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「早速ですが、第一弾のタンブラーについてご提案があります」

 挨拶の後、益井課長が切り出した。

「我が社といたしましては――」

「課長」

 私は課長の言葉を遮り、鞄からクリアファイルを取り出した。

「まず、資料を見ていただいてよろしいですか?」

「そうね」

 私はクリアファイルからホッチキス止めしたA3用紙三枚を二部、企画部長と主任に手渡した。それから、益井課長と荻野さんにも。

 益井課長の顔色が変わる。

 奥山商事ここに来る前、益井課長に指示されて作成した見積書のチェックは済んでいた。だから、私が『資料』と言った時、課長は見積書のことだと思ったはず。けれど、手渡されたものは見積書ではなく、イラストレーターで作成されたデザイン画。

「前回の打ち合わせでいただいたデザイン画を工場側に見てもらい、サンプルを作製中です。ただ、気になる点がありまして、私の一存で蓋の作製は待ってもらっています」

「飲み口の形状ですか」

「はい。開閉しやすいようにと飲み口を小さく、ファストフードのカップの蓋に似せましたが、半月の形状はどうかと思いまして」

 隣で、益井課長が歯ぎしりしている。ような気がした。していても、当然だ。

 部下が、完全に自分を無視して場の主導権を握っているのだ。プライドの高い課長には、屈辱だろう。

 まして、私は見積書を作成し、課長を油断させた。

 卑怯、と言えるかもしれない。

 けれど、課長を説得する時間もなく、時間があっても説得できる気がしなかった。

 私が飲み口の形状についての考えを話している間中、益井課長の怒りが静電気のようなピリピリとした圧となって私をチクチクと攻撃していた。

「なるほど。お客様としての意見、と言われると、説得力があるね」

 部長の言葉に、主任も頷く。

 ファストフードでホットを注文した時、私は決まって蓋を外す。一センチ角ほどの穴から口の中に飛び込んでくる飲み物の熱さに、いつも驚いてしまうから。やっぱり、液体の熱さが徐々に上唇に迫ってきて、心構えができる方がいい。フワッと湯気が鼻先をくすぐるのも。

「そんなものかな、とは思っていたけれど、実は私もあの飲み口は苦手でね」と、部長がうんうんと頷いた。

「どうかな。堀藤さんの案を検討してみては」

 部長に言われ、主任が大きく頷いた。

「ぜひ、検討をお願いします」

「失礼だが、この案を益井課長はどうお考えですか?」

 私たちのギクシャクした空気を察したのか、部長が聞いた。

「赴任されて間もないそうですが、我が社の担当をされるにあたり、ノベルティーに使うコーヒーは飲んでいただけましたか?」

 これには、益井課長がたじろいた。

 当然だ。

 昨日も今日も、利益を上げることばかりで、手がける商品には興味を示さなかった。
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