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4 提案
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しおりを挟む出来上がったおにぎりを食べながら、弟が生まれたことを伝えると、真心は喜びのあまり持っていたおにぎりを落としそうになった。
食べ終わってからもしばらく興奮して、部屋の中を飛び跳ねていた。
少し落ち着かせようと真心のバッグに入っていたアニメのDVDを見せると、すぐに大人しくなった。
「やっと静かになったな」
「嬉しかったんですよ、すごく。それに、安心したんだと思います。お母さんが元気だと聞いて」
彼女に差し出されたカップを受け取り、口に運んだ。彼女が俺の正面に座る。
「そう言えば、いつから『お母さん』て呼ぶようになったんだ? この前までは『ママ』って呼んでたはずだけど」
「お姉ちゃんになるからって変えたんじゃないですか? 今朝、泣いてた時は『ママ』って言ってましたよね」
「なるほど」
ついこの前まで『おじちゃん』も上手く言えてなかったのにな、と少し感傷的になった。
「真心ちゃんのお迎えは何時頃になりますか? 病院に行かれるなら、私は――」
「あ――ー……。それなんだけどさ」と、俺はため息をついてカップを置いた。
「迎えが明日になりそうなんだよ」
「え? けど、明日は月曜日ですよ?」
「そうなんだよ……」
「あの、ご両親は遠方にいらっしゃるんですか?」
「あ、いや。親はいないんだ」
彼女が、気まずそうに下唇を噛んだ。
「すみません」
「いや」
両親は死んだ、と彼女は思ったろう。正しくはないけれど、似たようなものだから訂正もしなかった。
「けど、そういうわけで、真心は俺が見るしかないんだ。仕方ないから、明日は休むか」
休みたくないけれど、仕方がない。何事も思い通りにいかないことはある。
「あの……。私が真心ちゃんを見てましょうか?」
「は? あんたも明日は仕事だろ」
「そうですけど、私は……課長ほど重要な仕事を抱えているわけじゃないですし」
思いがけない提案を、俺が断る理由はなかった。
「いいのか?」
「はい。明日、課長が出勤される頃に来ます」
「助かる」
「けど、今日の夜は課長と真心ちゃん、二人で過ごさなきゃいけないんですからね」
「それは……何とかするよ」
「頑張ってください」と、彼女が微笑んだ。
結婚てこんな感じかな、と思った。
休日に子供が寝そべってテレビを見て、両親がコーヒーを飲みながらそれを眺めている。一緒に買い物をして、食事をする。
なんか……いいかもな。
ふと、そう思った。
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