最後の男

深冬 芽以

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12 暴かれた欲望

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 課長が腰をずらし、モノが太腿に触れた。ヌルリ、と。



 私、の――?



 恥ずかしいのに、涙が出るほど恥ずかしいのに、課長から目を離せない。

「気持ちを聞かせてください」

 足の間が湿っているのが、わかった。

「あなたは、どうしたい?」

 触られてもいないのに、濡れてる。

 触られたくて。

「俺が、欲しい?」

 苦しくて、息が出来ない。

「ねぇ、言って?」

 こうして、また、昨夜の繰り返し。

「ほし……い……」

「ん?」

「挿れて――!」

 キスで唇を塞がれていなければ、きっと廊下に響く奇声を発していたと思う。

 一気に奥まで突き上げられて、目の前が真っ白になる。

「あと何回抱いたら、俺を好きになってくれますか?」

 口を開いたら喘ぎ声が止まらなくなりそうで、私は固く唇を閉じていた。

「彩さん……」

 課長の浅く早い息づかいに比例して、リズムが早くなる。イキそうになって、思わずお腹に力を込めた。

「あっ――……。もう……」

 課長の喘ぎ声に、抵抗も虚しくイってしまった。けれど、課長の動きは止まらない。

「彩さん……、俺……」

 イキながら、更に突き上げられ、全身が痙攣する。どこが、とかいうレベルじゃなく、どこもかしこも気持ちいい。

「か……ちょ――」

「最後の男になりたい――!」

 ぎゅうっと抱き締められると同時に、課長の動きが止まった。私の膣内なかで、課長が力強く脈打つ。

「もう……、なかったことになんか出来ないよね……?」

 出来るはずがない。

 ほんの三十分前まで、小会議室ここは智也とキスした場所だった。

 けれど、もう、小会議室ここに来る度思い出すのは、千堂課長とのセックス。赤面せずにいられるか、自信がない。

 服装を正し、汗が引くのを待って、私たちはデスクに戻った。別々に。

 智也は一日外勤で、定時に帰った私とは顔を合わせることがなかった。

 良かった、と思った。

 今はまだ、千堂課長との関係を説明できる余裕がない。

 それに、どんな関係にしろ、同時期に二人の男性に身体を許すだなんて、私自身信じられなかった。

 智也と一緒にいるのが心地よく思えてきた。心を乱されることがないから。穏やかに会話を楽しめるし、互いに素を見せられるようにもなってきた。セックスですら、楽しい。

 恋人のようで、でも違う。

 親友のようで、それも違う。

 曖昧だけれど、それでも構わないと思える関係。

 けれど、千堂課長は違う。

 一緒にいると常に心拍数が上昇し、平常心ではいられない。感情を乱されるのが怖くて、踏み込めない。セックスも、ドキドキしっ放しで、楽しいとか考える余裕すらない。終わった後の羞恥心や後悔ばかり。それでも、思い出さずにはいられない。

 求められれば嬉しいけれど、期待させたくないから応えられない。だけど、身体だけは正直に受け入れてしまう。

 子供っぽさに安心する時もあるし、可愛いと思う時もある。

 愛人のようで、でも違う。

 弟のようで、それも違う。 



 私は、誰と、どうなりたいのだろう……?



 智也に『別れた夫が最後の男でいいのか?』と聞かれた時、『嫌だ!』と思った。智也に抱かれたのは、きっとそれが最大の理由。



 じゃあ、千堂課長に抱かれた理由は?



『彩さんの気持ちはどうなんですか?』

 私はまだ、その答えを見つけられない。
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