最後の男

深冬 芽以

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12 暴かれた欲望

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 年度末、年度初め。

 仕事は多忙を極め、私は智也の家に食事を作りに行くこともままならなかった。

 もちろん、千堂課長と二人きりになる暇もあるはずがない。

 それで、良かった。

 私の中で結論が出ていない以上、また流されることは避けたい。

 千堂課長とセックスしたことを、智也にはまだ話していなかった。

 鍵とお金を返す時に、話すつもりだった。

 今後、千堂課長との関係がどうなるにせよ、智也との関係は解消するべきだと思った。

 正社員となれば残業も多く、食事を作りに行く暇もなくなる。

 どちらにしても、潮時だったのだと思う。

「堀藤さん、西野ストアの納品に同行してください。時間変更で風間が行けなくなったので。四時に出ますから、直帰の準備でお願いします」

「わかりました」

 現在は午後一時四十八分。

 私は今日中に確認しておかなければならない在庫のリストを抱えて、倉庫に駆け込んだ。

「お、お疲れ」

 奥の棚から顔を出したのは、智也。

「お疲れ様です」

 ドキッとしたのは、まともに顔を合わせるのが久し振りだったから。

 私はリストを見てから、棚を見上げた。

「そっちも忙しそうだな」

「はい」

「お陰で俺は、毎日コンビニ弁当だよ」

 私は脚立を使って、頭上の段ボールを下ろした。

 リストと棚、段ボールの番号を照らし合わせて、中身を確認していく。

「鍵を……。鍵とお金をお返ししに行こうと思ってました」

 私はわざと、他人行儀な言い方をした。

「……」

 智也から、反応はない。

 私は確認し終えた段ボールを、また棚に戻そうと持ち上げた。が、私が触れていないのに、段ボールは浮いた。

「千堂と付き合うのか?」

 智也が軽々と持ち上げ、棚に戻す。

「だから、俺と別れる?」

 顔を、見れなかった。

 私は視線を落とし、智也の靴を見ていた。

「付き合う……かは、わからないけど……」

「セックスはした?」

 言葉にされると、恥ずかしさがよみがえる。

 頷くのが、精いっぱい。

「ほだされたのか」

 もう一度、頷く。

「はぁーーー」と、智也が大きな声と共に、息を吐いた。

「他の男に抱かれるためのリハビリをしてやったとはな……」

「……ごめんなさい」

 適切かは分からなかったけれど、その言葉が口をついた。

「いくら『ごっこ』でも、同時進行はナイよな」

「ごめんなさい……」

「いや? 同時進行したくないから、俺と別れようとしてるんだろ?」

 頷く。

 こういう、智也の冷静さというか、察しの良さに、一緒にいて安心できる。全てを口にしなくても理解し合える人は、そういない。

「だから、鍵を――」

「千堂とは?」

 今度は、首を振る。

「鍵と金は持ってろ」
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