103 / 212
12 暴かれた欲望
7
しおりを挟む年度末、年度初め。
仕事は多忙を極め、私は智也の家に食事を作りに行くこともままならなかった。
もちろん、千堂課長と二人きりになる暇もあるはずがない。
それで、良かった。
私の中で結論が出ていない以上、また流されることは避けたい。
千堂課長とセックスしたことを、智也にはまだ話していなかった。
鍵とお金を返す時に、話すつもりだった。
今後、千堂課長との関係がどうなるにせよ、智也との関係は解消するべきだと思った。
正社員となれば残業も多く、食事を作りに行く暇もなくなる。
どちらにしても、潮時だったのだと思う。
「堀藤さん、西野ストアの納品に同行してください。時間変更で風間が行けなくなったので。四時に出ますから、直帰の準備でお願いします」
「わかりました」
現在は午後一時四十八分。
私は今日中に確認しておかなければならない在庫のリストを抱えて、倉庫に駆け込んだ。
「お、お疲れ」
奥の棚から顔を出したのは、智也。
「お疲れ様です」
ドキッとしたのは、まともに顔を合わせるのが久し振りだったから。
私はリストを見てから、棚を見上げた。
「そっちも忙しそうだな」
「はい」
「お陰で俺は、毎日コンビニ弁当だよ」
私は脚立を使って、頭上の段ボールを下ろした。
リストと棚、段ボールの番号を照らし合わせて、中身を確認していく。
「鍵を……。鍵とお金をお返ししに行こうと思ってました」
私はわざと、他人行儀な言い方をした。
「……」
智也から、反応はない。
私は確認し終えた段ボールを、また棚に戻そうと持ち上げた。が、私が触れていないのに、段ボールは浮いた。
「千堂と付き合うのか?」
智也が軽々と持ち上げ、棚に戻す。
「だから、俺と別れる?」
顔を、見れなかった。
私は視線を落とし、智也の靴を見ていた。
「付き合う……かは、わからないけど……」
「セックスはした?」
言葉にされると、恥ずかしさがよみがえる。
頷くのが、精いっぱい。
「ほだされたのか」
もう一度、頷く。
「はぁーーー」と、智也が大きな声と共に、息を吐いた。
「他の男に抱かれるためのリハビリをしてやったとはな……」
「……ごめんなさい」
適切かは分からなかったけれど、その言葉が口をついた。
「いくら『ごっこ』でも、同時進行はナイよな」
「ごめんなさい……」
「いや? 同時進行したくないから、俺と別れようとしてるんだろ?」
頷く。
こういう、智也の冷静さというか、察しの良さに、一緒にいて安心できる。全てを口にしなくても理解し合える人は、そういない。
「だから、鍵を――」
「千堂とは?」
今度は、首を振る。
「鍵と金は持ってろ」
15
あなたにおすすめの小説
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる