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12 暴かれた欲望
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しおりを挟む課長が少し苦しそうに眉間に皺を寄せて、はあっと息を吐く。それから、キス。
押し付けるだけで、挿入ってくるわけでもなく、擦るわけでもない。
不意に昨夜を思い出した。
舌を押し付けられ、我慢が出来なくなったのは、私。
今も、同じ。
課長は、私を待ってる。
何をしなくても、私が受け入れたくなるのを、待っている。
『受け入れてください』って、そういうこと!?
嫌でも、思い出してしまう。
課長の感触。リズム。形。強さ。
「昨日の答え、聞かせてください」
「……答え?」
「理屈じゃない、あなたの気持ちは?」
『理屈ばっかだけど、彩さんの気持ちはどうなんですか?』
確かに昨夜、聞かれた。
「俺に抱かれても、何も感じなかった?」
課長がまた、苦しそうに息を吐く。
ほんの少しの力加減で挿れられるのに、思い留まるのが辛いのかもしれない。
それを言うなら、私も同じ。
ほんの少し腰を下げるだけで、挿れられるのに、出来ない。
「ヤバ……」
「かちょ――」
「会社で、制服で、課長って呼ばれると……」
「え?」
「すげー悪いことしてるみたいで、興奮する」
だから、名前――。
「俺は諦められる気がしないんだけど……。堀藤さんは忘れられるの?」
あんなセックス、忘れられるはずがない。
それを口にしてしまったら、もう戻れなくなる――。
「ねぇ、どうしたい?」
「え……?」
「今はそれだけでいいから……教えて?」
私は、どうしたい――?
こんな場所で、こんな状況で、そんなことを考える余裕なんてあるはずもなく。私の意識は足の間に押し付けられた課長のモノに集中してしまって、上手くこの場から逃れる言葉を見つけられない。
壁の向こう、廊下に響く靴音にハッとした。ゆっくりと近づいてくる。足音は二人。多分、男女。声も、聞こえる。
私は思わず、手で口を覆った。
「ねぇ……」
課長が私の耳朶を咥えながら囁いた。
「挿入っちゃいそうだよ」
壁に押し付けられているとはいえ、片足を持ち上げられて、立っている方の足が震える。
必死で息を潜める私とは裏腹に、課長はこの状況を楽しんでいるようで、チュッチュッと、わざと音を立てて耳や首にキスをする。
この人、実はドSだ――!
どこに触れられているわけでもない。ないのに、身体が火照る。汗ばむ。
昨夜の快感が、身体を、思考を、浸食する。
「なんか……」
課長が口を覆っていた私の手を壁に押し付けた。
まつ毛同士が触れそうな距離。課長の瞳に、私の瞳が見える。
課長を映す、私の瞳。
「触ってないのに、濡れてるね――?」
え――?
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