最後の男

深冬 芽以

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【番外編1】千堂隼の恋

恋の終わりと始まり-7

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 彩さんが釧路に行って、一週間。

 それまで以上に悶々とした日々を送っていた。

 ここまでお膳立てしたんだから、いい加減覚悟を見せてくれると思った。

 それでも、一抹の不安が拭えずにいた。

 金曜の夜、二十一時。

 俺は明日の出勤を回避するために、一人で残業していた。

 明日は、彩さんの誕生日。

 まさか、溝口さんが彼女の誕生日を知らないなんてことがあるだろうかと、心配になった。

『もしもし』

 一週間振りに聞く、彩さんの声。

「お疲れ様です」

『お疲れ様です』

 彼女の声の向こうは静かで、会社にいるのではないとわかった。

釧路支社そちらはどうですか? 忙しいですか?」

『はい。私はデスクワークをしているのでそうでもないですけど、風間さんは忙しくなると思います』

「溝口部長のご機嫌はどうです?」

『……忙しいので、いいとは言えないですね』

 疲れているのか、彼女の声に元気がない。



 まさか、この一週間、本当に仕事しかしてないなんてことはないよな……?



「そうですか。風間は溝口部長の下で働くのは初めてなので、心配してるんです」

『風間さんの具合はどうですか?』

「今日から出勤したんですけど、まだ本調子じゃなさそうです」

 俺は溝口さんからの応援要請に、風間がいく、と応えた。彩さんが行くことを知らせて、喜ばせてやるのは癪だった。

 で、適当な理由をつけて、彩さんに交代したことにして、驚かせてやるつもりだった。

 ところが、風間は先週末からインフルエンザで欠勤し、それをそのまま伝えるように彩さんには言ってあった。

 自分が行くことを隠している俺を、意地悪だ、と彼女は笑った。

「なので、風間が行くまでに溝口部長の機嫌がものすごく良くなったりしてると、安心なんですけど」

『……難しいかもしれません』



 やっぱり――!



「けど、明日は彩さんの誕生日だし――」

『知らないんじゃないですかね』

 彩さんの声には、既に諦めが見えた。

「まだ一週間ありますから。俺はまだ、負けを認めませんよ」

 挨拶を交わして、電話を切った。



 溝口あの男は何をやっているんだ――!



 俺は、釧路支社に電話をかけた。

「はい。Freeフリー Styleスタイル Productionプロダクション、釧路支社営業――」

 目的の人物の声だと、すぐに分かった。

「溝口部長ですか?」

『ああ』

「お疲れ様です」

『お疲れ。なんだ、こんな時間に』

 彩さんの言った通り、溝口さんは不機嫌そうだった。

 当然か。

 お互い、金曜の夜に聞きたい声じゃない。

「彩さん、まだ仕事してたりします?」

『とっくに帰った』

 俺が『彩さん』と呼んだことが不満だったのだろう。ぶっきら棒な言葉が返ってきた。

「そうですか。スマホに出ないから、まだ仕事してるのかと思ったんですけど」と、俺は嘘をついた。

『お前、あ――堀藤を諦めてないのか』



 焦ってる、焦ってる。


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