最後の男

深冬 芽以

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【番外編1】千堂隼の恋

恋の終わりと始まり-8

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「……もう一度プロポーズするつもりです」

『は?』

 自分から聞いたくせに、驚いたよう。

『しつこすぎるだろ!』

「泣きの一回です。誕生日にプロポーズなんて、女心揺れません?」

『たん……生日?』



 ホントに知らなかったのか――。



「あれ、知りませんでした? 明日、誕生日なんですよ、彩さん」

 なんだか、楽しくなってきた。



 ここまでしてやってるんだ。

 これくらいの意地悪は許されるだろう。



「なんで、明日の朝一で会いに行こうかと――」

『来んな!』

 耳をつんざくような感情的な声に、俺は思わず受話器を耳から離した。

「は?」

『彩は、渡さない!』   

 一方的に、通話は切断された。

 まったく、世話が焼ける。



 これで、ゲームは俺の勝ちだ。



 嬉しいような、寂しいような、でも、やっぱり嬉しいような、複雑な心境。

「やっぱり、いい男ね」

 エレベーターホールとのパーテーションから、冨田課長が顔を出した。

「また、立ち聞きですか」

「偶然よ」

 冨田課長は自分のデスクに持っていたファイルを置き、帰り支度を始めた。

「自棄酒に付き合ってあげましょうか」

 俺もPCの電源を切って、立ち上がった。

「自棄になってないので、結構です」

「そぉ? 残念」

 全然残念そうに見えない。

「普通に、付き合ってください」と、俺は言った。

「いいわよ? どこに――」

「この前のホテル」

 冨田課長は少し驚いて、けれどすぐにいつもの余裕の笑みを浮かべた。

「随分ストレートな誘い方ね」

「あなたより年下ガキなんで、綺麗な誘い方とか知らないんで」

 もう、開き直るしかない。

「どう思われても構いません」

 あれだけ格好悪いところを見られたんだ。どう繕ったって、彼女が俺を王子様のように見てくれることはない。

 俺はもう、夢の中で彼女を抱くだけなんて、耐えられない。

「俺、凪子さんとセックスしたいです」

 彼女が、フフッ、と笑った。

「今夜はゴム、何個持ってるの?」

 さすがに、言えない。

 あの夜から、毎日五つを持ち歩いていることは。

 いつでも最多記録を更新できるようにと、そのチャンスが訪れるのを待っていたことは。

「何個使わせてくれますか?」

 彩さんが言ったことは、正しい。



 俺は、新しい恋をしている。



 綺麗な始まり方じゃないけれど、彩さんと溝口さんのようにじれったい感情じゃないけれど、意外と俺には合っているのかもしれない。

 身体から始まる恋。

 とりあえず、エレベーターを降りる前に、彼女にキスをした。



----- END -----




あとがき


『最後の男【番外編1】千堂隼の恋』を最後まで読んでくださって、ありがとうございます_(._.)_

 どうでした?
 智也派の皆さん、隼の株も上がりました?
 いい仕事をしたと、褒めてあげてください(*´艸`*)

 元々、隼は甘え上手なキャラのはずだったんですけど、本編では智也と張り合って背伸びしちゃう感じになっちゃったんで、凪子相手にはワンコになって欲しいなぁと思いました。

 さて、『【番外編2】甘いひと時』へと続きます(≧◇≦)

 こちらは、本編の続きとなる温泉での彩と智也のお話です。
 ラブラブな二人をお楽しみください(≧∇≦)
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