最後の男

深冬 芽以

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【番外編2】甘いひと時

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「私、あんまり景色とかに感動しないんだけど――」

 あやが白い息を吐きながら、言った。

「これはすごいかも」

 発情期の獣のように、彩の制止も聞かずに腰を振った結果、一緒に風呂に入るのを拒まれたが、もちろん、それを認めるわけはない。

 食事までベッドから出ようとしない俺に呆れた彩に、大浴場に行くからと置き去りにされそうになり、半ば無理矢理に部屋の露天風呂に押し込んだ。

 円形の檜の風呂から、夕日が浮かぶ阿寒湖を望む。

 俺は後ろから彩を抱き締めて、ベッドでの続きをしたかったのに、彩からお触り禁止を言い渡されてしまった。

 見渡す限りが湖で、まるで自分たちが湖の上にいるよう。

 十一月にもなると、湯から出ている首から上が寒い。俺は顎まで湯に浸かった。

 対して彩は、腕を風呂の淵にのせているから、肩が寒そう。

 日没までにはまだ時間があり、夕日はキレイな円を湖に映していた。雲は夕日の赤に染まり、少し不気味な影を残して漂っていた。

「そういや――」

 二人の幸せな時間に水を差すような話はしたくなかったが、先延ばしにするのも嫌だった。

「お前の元夫は……、転勤してからも養育費を払ってるか?」

 違う。

 転勤になった元夫と今も連絡を取っているのか、と聞きたかった。

 けれど、今更、元夫の存在を気にしているようで、素直に聞けなかった。

 彩は湖を見つめたまま。

「うん」

「子供たちとは会ってるのか?」

「さすがに月一とはいかないけど、帰る時は連絡するから会わせてほしいって言われた」

「……そっか」

「ちょうど、今日、子供たちと会ってるはず」

 出掛ける前、子供たちに電話をしていた。

 内容はわからないけれど、注意事項を並べる彩が想像できた。

「私が再婚しても、子供たちには会いたいって言われた」

「そっか」

 今更だけれど、現実を突きつけられた気がした。

 離婚しても、彩と元夫の繋がりは切れない。

 例えば、子供たちに何かあったとする。

 それは、病気をしたとか、怪我をしたとか、進学するとか。そういう時、彩が連絡を取るのは俺じゃなく、元夫。どんなに嫌いでも、子供たちの父親だからだ。

 それは、以前、彩にも言われた。

『父親である責任だけは全うさせたい』

 あの言葉は、要するに、そういうこと。

 彩と一緒にいるということは、そういうことも受け入れなければならないということ。

「後悔してる?」と、やはり湖を見つめたまま、彩が聞いた。

「……ん?」

「……なんでもない」

「なんだよ、気になるだろ」

「……子供コブ付きなんて、面倒でしょ」

 考えを見透かされたようで、ドキッとした。と、同時に、恥ずかしくなった。



 彩こそ、逃れたくても逃れられずにいる――。



「面倒だと思うほど、まだよくわかんねーな」

 正直な気持ち。

『そんなことない』とか言うのは簡単だけれど、彩には気休めになるはずもない。

「まだ、一回しか会ったことねーし」

「そう……だね」
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