15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以

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2.知ってるよ?

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「お母さん?」

 女性が入って行ったビルをいつまでも見ていた私は、夫に向き直った。

「お義母さんからの連絡待ちで、コーヒー飲んでたの」

「ああ、そっか。え? この店で?」と、私が出て来たばかりのカフェを見る。

「うん、そう」

「そう……なんだ」と、少しだけバツが悪そう。



 そう、なのよ。



 私は持っているビニール袋を持ち上げた。

「先月は買えなかった季節限定のロールケーキが買えたの」

「和葉が言ってたお土産?」

「そう。街に来ること、あんまりないから」

「そっか」

「うん」



 そう、なのよ。



 私はふっと、女性が入って行ったビルに目を向けた。

「綺麗な女性ひとだね」

「え……? ああ」

「年上とは思えないくらい」と、私は目の前の夫には聞こえないであろう小さな声で言った。

 それでも、唇の動きで私が何か言ったのはわかったようだ。

「え?」と、夫が聞く。

「働く女性は、若いよね」

 今度は夫に向かってハッキリ言った。

「お母さんだって働いてるだろ?」

「文房具店のパートなんて……」

 惨めだ。

 何がって、自分で自分を惨めにしてることが。

 文房具店の何が恥ずかしい。パートの何が恥ずかしい。



 恥ずかしいよ……。

 だって、私は夫と元カノをお似合いだと思っているんだから。



「昼飯でも食う?」

「え?」

「向こうで飯食ってからの予定だったから、弁当いらないって言ったんだけど、なくなったし。ちょうど昼だろ」と、夫が腕時計を見る。

 私と出会う前から使っている、時計。

 お揃いの、時計。

 私じゃない女とお揃いの、時計。

「お義母さんの病院が終わったら、一緒に食べるから」

 見たくない時計を見ながら言った。

「母さんには俺から連絡しておくよ」

 優しい、夫。

 私には勿体ないくらいの、夫。

「早く終わったら母さんも合流すればいいしさ」

「うん」

「お母さんは何食べたい?」



 私の名前を呼んでくれない、夫。



 後でお義母さんが合流しやすいように、すぐ近くの和食のお店に入った。

 釜めしやとんかつ、天ぷらなんかが見本で並んでいる。

「どうしようかな……」

 夫は優柔不断だ。

 いつも、店員さんが来て、急かされてようやく決める。

「私はレディース御膳にしようかな」

「へぇ、美味そうだな」

 レディース御膳は、手毬寿司に季節の天ぷら、ミニうどん、茶わん蒸し、お任せデザート、好きなドリンクのセット。

「ランチセットのAが似てるんじゃない?」

 こちらは手毬寿司が普通の握り寿司で、天ぷらに大エビが入っている。

「天丼も捨てがたいなぁ……」



 そう言って、物足りなくなるくせに。



「Cセットは? お寿司じゃなくてミニ天丼だよ?」

「んーーー……」

 釜めしのBセットは気分でないらしい。

 夫は、時間があればあっただけ悩み続ける。

 私は壁際の呼出しボタンを押した。

 すぐに店員さんがやってきた。

「お決まりでしょうか」

「レディース御膳を黒ウーロン茶でひとつと――」と言って、和輝を見る。

「――天丼にミニうどんとわらび餅をつけてください」

「かしこまりました」

 店員さんは注文を復唱して、立ち去る。
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