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4.逞しさってなに?
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和葉は韓国のりの袋を開け、八枚中二枚をご飯と一緒に食べて、席を立った。
「ごちそうさまでしたぁ」
「お茶碗、下げてね」
「はーい」
結局、私は大量のキャベツと、一切れのかつ、韓国のりでご飯を食べた。
「お母さん、肉足りるのか?」
二人きりになって、和輝が聞いた。
気を遣っているつもりなのだろう。
「これだけキャベツ食べたらお腹いっぱいだから」
こうして子供たちの残した野菜を食べているのに、なぜ痩せられないのだろう。
永遠の謎だ。
「お母さんの店って、S駅の近くなんだよな?」
「うん」
きた、と思った。
私が、和輝が知らないと思っていることを知っていると、彼は知ってしまった。
今更ではあるが、なぜ結婚十五年目になって、と思う。
「そこって――」
「――和輝、印鑑作ったことあるよ」
「え?」
「私の店で、印鑑」
正確には、印鑑の注文を受けて発注するのだが。
あの時、和輝は広田さんと印鑑登録用の、見栄えのいい印鑑に相応しい字体を相談してた。
その時の印鑑を使って、この家を建てた。
「なんで、言わなかった?」
シャキシャキとキャベツを咀嚼しながら、考えた。
なぜ、言わなかったのだろう……?
「言ったら、和輝は私と付き合わなかったでしょ?」と、キャベツを見ながら言った。
「そんなこと――」
「――元カノとよく一緒に行った店の店員なんて、嫌じゃない」
「それは……」
ね? 嫌でしょ?
「どうしたの、急に。広田さんも何か心配してるみたいだったけど、私は別に誤解なんてしてないよ。今は、仕事の関係者なんでしょう?」
「うん」
「別に、私がどこで働いてたっていいじゃない。気になるなら、復帰してないし」
「そうだけど……」
私の苛立ちを察したのだろう。
夫が口ごもる。
こんな風に投げやりな言い方をしたんじゃ、気にしてますって言っているようなものだ。
けれど、ここで弱気になって黙ってしまう夫に、苛立ちは増すばかり。
今も元カノと繋がっていて、元カノから話を聞いていつもより早く帰って来て、元カノから聞いた話が本当か妻に聞いて、事実だとわかったら、妻が不機嫌になったら黙るなんて、無神経じゃない?
「この話、突き詰めていったら、元カノと仕事をしてることをどうして隠してたの? って和輝を責めなきゃいけなくなるよ?」
「隠してたわけじゃない」
「うん、わかってる。和輝は私が広田さんていう元カノの存在を知っていることを知らなかったんだし、わざわざ疑われるようなこと言いたくなかったんでしょ? わかってるよ。だから、もういいじゃない」
私はキャベツを口に詰め込んだ。何もしゃべれなくなるくらい。
そして、キャベツを噛みながら、席を立つ。
みっともない顔をしていると思う。
眉間に皺を寄せて、頬を膨らませてキャベツを噛む妻なんて、私は嫌だ。
それでも、このまま話し続けていたら、言わなくていいことまで言ってしまいそうだった。
そう思って、キッチンに逃げた。
「お母さん……」
こんな時でも、あなたは私を名前では呼んでくれないのね。
このままじゃ、私、本当にあなたの母親になってしまいそうよ。
「ごちそうさまでしたぁ」
「お茶碗、下げてね」
「はーい」
結局、私は大量のキャベツと、一切れのかつ、韓国のりでご飯を食べた。
「お母さん、肉足りるのか?」
二人きりになって、和輝が聞いた。
気を遣っているつもりなのだろう。
「これだけキャベツ食べたらお腹いっぱいだから」
こうして子供たちの残した野菜を食べているのに、なぜ痩せられないのだろう。
永遠の謎だ。
「お母さんの店って、S駅の近くなんだよな?」
「うん」
きた、と思った。
私が、和輝が知らないと思っていることを知っていると、彼は知ってしまった。
今更ではあるが、なぜ結婚十五年目になって、と思う。
「そこって――」
「――和輝、印鑑作ったことあるよ」
「え?」
「私の店で、印鑑」
正確には、印鑑の注文を受けて発注するのだが。
あの時、和輝は広田さんと印鑑登録用の、見栄えのいい印鑑に相応しい字体を相談してた。
その時の印鑑を使って、この家を建てた。
「なんで、言わなかった?」
シャキシャキとキャベツを咀嚼しながら、考えた。
なぜ、言わなかったのだろう……?
「言ったら、和輝は私と付き合わなかったでしょ?」と、キャベツを見ながら言った。
「そんなこと――」
「――元カノとよく一緒に行った店の店員なんて、嫌じゃない」
「それは……」
ね? 嫌でしょ?
「どうしたの、急に。広田さんも何か心配してるみたいだったけど、私は別に誤解なんてしてないよ。今は、仕事の関係者なんでしょう?」
「うん」
「別に、私がどこで働いてたっていいじゃない。気になるなら、復帰してないし」
「そうだけど……」
私の苛立ちを察したのだろう。
夫が口ごもる。
こんな風に投げやりな言い方をしたんじゃ、気にしてますって言っているようなものだ。
けれど、ここで弱気になって黙ってしまう夫に、苛立ちは増すばかり。
今も元カノと繋がっていて、元カノから話を聞いていつもより早く帰って来て、元カノから聞いた話が本当か妻に聞いて、事実だとわかったら、妻が不機嫌になったら黙るなんて、無神経じゃない?
「この話、突き詰めていったら、元カノと仕事をしてることをどうして隠してたの? って和輝を責めなきゃいけなくなるよ?」
「隠してたわけじゃない」
「うん、わかってる。和輝は私が広田さんていう元カノの存在を知っていることを知らなかったんだし、わざわざ疑われるようなこと言いたくなかったんでしょ? わかってるよ。だから、もういいじゃない」
私はキャベツを口に詰め込んだ。何もしゃべれなくなるくらい。
そして、キャベツを噛みながら、席を立つ。
みっともない顔をしていると思う。
眉間に皺を寄せて、頬を膨らませてキャベツを噛む妻なんて、私は嫌だ。
それでも、このまま話し続けていたら、言わなくていいことまで言ってしまいそうだった。
そう思って、キッチンに逃げた。
「お母さん……」
こんな時でも、あなたは私を名前では呼んでくれないのね。
このままじゃ、私、本当にあなたの母親になってしまいそうよ。
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