15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以

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4.逞しさってなに?


 ダダダダダッと階段を駆け下りてくる足音がして、勢いよくリビングのドアが開いた。

「お母さん! シャワー浴びていい?」

「あ、今日はお風呂にしようと思ってたの。洗ってあるから」

「わかった!」

 和葉が、バタバタとお風呂場にいく。

 さすがに、それ以上は和輝も何も言わなかった。

 子供に聞かれるかもしれない食卓でする話じゃない。

 案の定、すぐに由輝も下りてきた。

 晩ご飯を食べたばかりだというのに、冷凍庫からアイスを出すと封を切る。

「由輝! アイスを食べるならキャベツを食べなさい」

「別腹~」

「なにが別腹なの!」

「お母さんは段々腹~」

「あんたねー!」

「それ以上太ったら、お父さんに離婚されるかもよ? だから――」

「――軽々しく離婚とか言うな!」

 ダンッと鈍い音と同時に、和輝が大声で言った。

 私と由輝はビクッと身体を強張らせて、和輝を見る。

 そろぉっとキッチンのドアが開き、和葉もびくびくしながら顔を覗かせた。

 眉間に深い皺を刻み、歯を食いしばっているのか、顎に力が入っているのがわかる。

 鼻でゆっくり息を吸い込む。

「浮気とか離婚とか、軽々しく言うな」

 低い声でゆっくりと言うと、立ち上がった。

「残り、朝食べるから」

 和輝がリビングを出て、階段を上りきる足音を聞きながら、私たちは動けなかった。

 夫があんな風に怒るのを、初めて見た気がする。

「お兄ちゃん、なに言ったの?」

 和葉が涙目で聞いた。

 由輝も目を伏せていて、手に持ったアイスは溶けて指を伝っている。

「この前もチョコを貰ったから浮気だとかからかうようなことを言っちゃったし、嫌だったんだよ」

「冗談、じゃん」と、由輝が呟いた。

 和葉は初めて本気で怒った父親に驚き、ぽろぽろと涙をこぼす。

 私がそっと近づくと、腰に腕を回してしがみついてきた。

「最近は本当に離婚する夫婦がたくさんいるじゃない。冗談に思えなかったんじゃない?」

「なんで? お父さんとお母さんは離婚なんかしないよね?」

 和葉が私のエプロンで涙を拭く。

 私は、娘の頭にそっと手を置いた。

「しないよ」



 バカね。

 あんなにムキになって怒ったら、やましいことがあるみたいじゃない……。



 和葉をなだめてお風呂に入るように言い、私は食事の後片付けをした。

 父親を怒らせてしまったと気にする息子は、しばらくリビングのソファに座って動かなかった。

 敢えて、慰めるようなことは言わなかった。

 落ち着きがなく、ふざけ半分で思ったことを口にしてしまう息子には、いいお灸だろう。

 それに、今年十五歳になるのだ。自分で考えて行動すべきだ。

 和葉の後で由輝がお風呂に入ったのを確認して、寝室に行く。

 夫は着替えもせずにベッドに腰かけて項垂れていた。

 膝に肘をのせ、両手で腕時計を握っている。

 元カノとお揃いの腕時計を見つめながら、いや、睨みつけるように鋭い目つきで見下ろしたまま、夫が口を開いた。

「由輝と和葉は?」

「びっくりしていた」

「……ごめん」

「どうしたの?」

「なんか……イラついて」

 私は、自分のベッドの端に座った。

 和輝は手元の時計を見たまま。
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