15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以

文字の大きさ
37 / 89
5.知らなかったでしょう?

しおりを挟む
「聞いて欲しかったの?」

 ふふっと笑いながら、ぬるくなったコーヒーに口をつける。

「考えもしなかった」

「なにを?」

「お母さんがそんなことを気にするなんて」

「……?」

 今度は夫がコーヒーをすする。

 それから、頷くように小さく頭を下げた。

「ごめん」

「……なにが?」

「色々、無神経……だった」

「だから、なに――」

「――初めてのデートとか、プレゼントとか、その――」



 ああ、なるほど。



「――色々、気が利かなくて……」

 娘から聞いたのだろう。

 自分が妻にとってハジメテの男だということを。

 正確には、『お父さんてお母さんの初カレなんでしょ~』とか言われただけだろうが、必然的に辿り着く。

 私は言わなかった。

 煩わしいと思われたくなかったから。

 元カノのようにお似合いにはなれなくても、せめて隣にいて恥ずかしくないよう、邪魔にならないように頑張った。

 だが、今更だ。

 十七年も一緒にいて、二人の子供までいるのに。

「十七年前のことなんて、憶えてないのが普通だよ」

「けど――」

「――和葉に呆れられた?」

「え……。あ、うん」

「男の子はどうしてるのかしらね、あの宿題」

 由輝の時にあんな質問はされたことがない。

 いや、宿題はあった。



 由輝は確か――。



 原稿用紙五行分の手紙だ。

 産んで育ててくれた感謝と、お陰でこんなに大きくなりました、みたいな手紙。



 男の子と女の子じゃ、こうも違うのね……。



「和葉も中学生か……」

 なに、ということもなく言葉が漏れた。

「ちょっと……感傷的になってるのかもね」

 子供の成長は嬉しい。

 同時に、自分の老いを思い知らされる。

『私も年を取るはずよね~』というやつだ。

 私が今、その時なのだろう。

 子育てはまだまだ途中だけれど、手のかかる時期を終え、ふと自分に目を向けた時、自分を見ているはずなのに、夫と元カノが並ぶ姿に見えた。

 あの頃、憧れていた元カノには遠く及ばない容姿、キャリア。

 夫はさほど変わらないのに、私は随分変わってしまった。

 それでも、子育てを理由に出来ていればまだ救われた。

 けれど、もう、言い訳出来ない。

 子供に手がかかるから自分のことは後回し、なんて言えるほど子供に手はかからない。

 お金に余裕がないからなんて、毎日遅くまで働いている夫に言えるはずがない。

 そうやって思いつく言い訳を消去法で少なくしていけば、何も残らなかった。

 結局、甘えだ。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

花も実も

白井はやて
恋愛
町で道場を営む武家の三男朝陽には最近、会うと心が暖かくなり癒される女性がいる。 跡取り問題で自宅に滞在したくない彼は癒しの彼女に会いたくて、彼女が家族と営む団子屋へ彼は足しげく熱心に通っているのだが、男と接客している様子を見ると謎の苛立ちを抱えていた。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

【完結】この胸に抱えたものは

Mimi
恋愛
『この胸が痛むのは』の登場人物達、それぞれの物語。 時系列は前後します 元話の『この胸が痛むのは』を未読の方には、ネタバレになります。 申し訳ありません🙇‍♀️ どうぞよろしくお願い致します。

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

あなたが遺した花の名は

きまま
恋愛
——どうか、お幸せに。 ※拙い文章です。読みにくい箇所があるかもしれません。 ※作者都合の解釈や設定などがあります。ご容赦ください。

処理中です...