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5.知らなかったでしょう?
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「夏頃に茶色のふわふわの髪が、ストレートになってびっくりしたの。あのカフェの前で、随分身なりを気にしてた。そしたら、あなたが来た」
和輝が言った、再会した八か月前のことかもしれない。
「あなたは無表情で、気まずそうだった。けど、広田さんの笑顔につられて、笑ってたわね」
見られていただなんて、知らなかったでしょう?
和輝は驚きと、少しのショックを滲ませた。それから、苛立ちも。
「二人が並んで歩く姿を見て、お似合いだなぁって眺めてた」
「なんで、お似合いだとか思えるんだよ!?」
「なんでかしら……ね」
お似合いの彼女を連れて歩くあなたを好きになったから……かな?
結婚して、すぐに妊娠して、子育てして。
どこの夫婦でも同じように、私たちも変わった。
二人きりの時はソファで並んで座れば触れ合っていたし、キスもした。そのままセックスもした。一緒に出歩けば手を繋いだり腕を組んだりもした。和輝は元々気軽に「好きだ」なんて言ってくれる人じゃなかったけれど、私が言えば言ってくれた。
それが、つわりでキスが出来なくなり、大きくなるお腹を心配して抱き合って眠らなくなった。一緒に出掛けても和輝が荷物、私は子供を抱いて、両手が塞がった。キスは子供にするようになり、会話も子供のことばかりになった。
私たちはそうして、夫婦二割、両親八割の関係になった。
それで良かった。
四十を過ぎた妻が若い男と不倫するドラマを見てもまったく共感できなくて、むしろ忙しい毎日の中で不倫に割く時間があるなんて信じられないとさえ思っていた。
逆も然り。
決して多くはない小遣いの中で若い女と浮気できる夫は、どれほどいるのだろうと思ったほどだ。
それが、一瞬で崩れた。
元カノと一緒にいる和輝を見た時、気持ちが戻ってしまった。
二人をお似合いだと、羨ましいと憧れていた頃の気持ちに。
そして、願ってしまった。
もう一度、愛されたい――。
その矢先、和輝が広田さんとお揃いの腕時計を引っ張り出した。
それからずっと、私の気持ちは悶々としている。
ぼんやりと手元のカップを眺めながら、千恵の言葉を思い出した。
『聞いたらいいよ』
なにを……?
私と結婚したことを後悔してないか?
元カノと別れたことを後悔してないか?
どれも、今更だ。
結婚して十五年。
昔は唇を尖らせて拗ねていた、女性のいる飲み会なんて気にしなくなり、代わりに帰りのタクシー代を気にするようになった。
昔は寂しいと枕を濡らした出張も、今は晩ご飯の手抜きが出来ると喜び、ついでにお土産を楽しみにする始末だ。
今更、女の顔なんてできない。
「お母さん、付き合ってた頃から俺の元カノのこととか聞いたことなかったよな」
「え?」
瞬きをしながら顔を上げると、それまで合っていなかった焦点が夫の顔に合った。
「和葉から、お母さんは何人目の彼女かって聞かれて、気が付いた。そう言えば、そんなこと聞かれたことなかったなって」
和輝が言った、再会した八か月前のことかもしれない。
「あなたは無表情で、気まずそうだった。けど、広田さんの笑顔につられて、笑ってたわね」
見られていただなんて、知らなかったでしょう?
和輝は驚きと、少しのショックを滲ませた。それから、苛立ちも。
「二人が並んで歩く姿を見て、お似合いだなぁって眺めてた」
「なんで、お似合いだとか思えるんだよ!?」
「なんでかしら……ね」
お似合いの彼女を連れて歩くあなたを好きになったから……かな?
結婚して、すぐに妊娠して、子育てして。
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それが、つわりでキスが出来なくなり、大きくなるお腹を心配して抱き合って眠らなくなった。一緒に出掛けても和輝が荷物、私は子供を抱いて、両手が塞がった。キスは子供にするようになり、会話も子供のことばかりになった。
私たちはそうして、夫婦二割、両親八割の関係になった。
それで良かった。
四十を過ぎた妻が若い男と不倫するドラマを見てもまったく共感できなくて、むしろ忙しい毎日の中で不倫に割く時間があるなんて信じられないとさえ思っていた。
逆も然り。
決して多くはない小遣いの中で若い女と浮気できる夫は、どれほどいるのだろうと思ったほどだ。
それが、一瞬で崩れた。
元カノと一緒にいる和輝を見た時、気持ちが戻ってしまった。
二人をお似合いだと、羨ましいと憧れていた頃の気持ちに。
そして、願ってしまった。
もう一度、愛されたい――。
その矢先、和輝が広田さんとお揃いの腕時計を引っ張り出した。
それからずっと、私の気持ちは悶々としている。
ぼんやりと手元のカップを眺めながら、千恵の言葉を思い出した。
『聞いたらいいよ』
なにを……?
私と結婚したことを後悔してないか?
元カノと別れたことを後悔してないか?
どれも、今更だ。
結婚して十五年。
昔は唇を尖らせて拗ねていた、女性のいる飲み会なんて気にしなくなり、代わりに帰りのタクシー代を気にするようになった。
昔は寂しいと枕を濡らした出張も、今は晩ご飯の手抜きが出来ると喜び、ついでにお土産を楽しみにする始末だ。
今更、女の顔なんてできない。
「お母さん、付き合ってた頃から俺の元カノのこととか聞いたことなかったよな」
「え?」
瞬きをしながら顔を上げると、それまで合っていなかった焦点が夫の顔に合った。
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