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5.知らなかったでしょう?
4
同じ年頃で、同じ年頃の子供を持っていても、自分磨きを怠らない綺麗な母親はたくさんいる。
由輝も言っていたように、子供が自慢できるような母親だ。
子供ができた頃は、そんな自分を思い描いていた。すぐに、現実を思い知ったけれど。
そして、今の私がいる。
どんなに目を背けたくても、私は私でしかない。
そう。問題は私。夫じゃない。
「卒業式、ビデオ回す?」
「え?」
急に話が変わり、和輝が何のことかと聞き返す。
「発表会の時、動き悪かったじゃない」
「ああ」
「充電も、しておかなきゃね」
「……うん」
和輝はなにも悪くない。
彼は良き夫で、父親だ。
名前を呼んでくれなくても、触れてくれなくても、ちゃんと私を、家族を大事にしてくれる。
悪いのは、私――。
負のオートループに足を踏み入れそうになり、ハッとしてコーヒーを飲み干した。
そして、カップを持って立ち上がる。
「コーヒー、まだ飲む?」
「お母さん、話はまだ――」
「――ただいまぁ」
娘のご帰宅だ。
和輝がリビングのドアを振り返る。
「おかえりー」
「おかーさーん」
娘の力ない呼びかけに、カップを置いて玄関に出た。
「どうした?」
「お腹痛い」
ベルトをいっぱいいっぱいに伸ばして背負っているラベンダー色のランドセルを下ろしながら、呟いた。
「薬飲む?」
「うん……」
大丈夫。
まだまだ、子供に手がかかる。
大丈夫。
私はまだ、必要とされている。
大丈夫。
ランドセルを受け取り、娘の頭を軽く撫でた。
「おかえり」と、和輝が顔を出す。
「お父さん、どうしたの?」
「ん? あー……」
困った表情で、夫が私を見る。
隠すようなことじゃない。
有休を消化しなきゃいけなくて、と言えばいい。
理由もなく有休を取ったことがないから、仕事をサボっているような後ろめたさがあるのだろうか。
妻と話をするために、は彼の中で有給取得の正当な理由ではないのだろう。
だとしたら、真面目な夫らしい。
「お父さんも、ちょっとお腹が痛くなっちゃったんだって。有休も溜まってるし、無理して悪化したら大変だからって帰って来たの」
「薬飲んだ?」
「ああ、うん」
「じゃあ、寝た方がいいよ。お兄ちゃんが帰って来たらうるさくて寝られないよ?」
まるで私の言い方そのものだ。
私がハハッと笑うと、和輝も苦笑いした。
「私も薬飲んで寝るぅ」
「そうしなさい」
手洗いに洗面所に向かう娘の小さな背中を見ながら、私は呟いた。
「もう、あのカフェには行かないね」
夫は、何も言わなかった。
由輝も言っていたように、子供が自慢できるような母親だ。
子供ができた頃は、そんな自分を思い描いていた。すぐに、現実を思い知ったけれど。
そして、今の私がいる。
どんなに目を背けたくても、私は私でしかない。
そう。問題は私。夫じゃない。
「卒業式、ビデオ回す?」
「え?」
急に話が変わり、和輝が何のことかと聞き返す。
「発表会の時、動き悪かったじゃない」
「ああ」
「充電も、しておかなきゃね」
「……うん」
和輝はなにも悪くない。
彼は良き夫で、父親だ。
名前を呼んでくれなくても、触れてくれなくても、ちゃんと私を、家族を大事にしてくれる。
悪いのは、私――。
負のオートループに足を踏み入れそうになり、ハッとしてコーヒーを飲み干した。
そして、カップを持って立ち上がる。
「コーヒー、まだ飲む?」
「お母さん、話はまだ――」
「――ただいまぁ」
娘のご帰宅だ。
和輝がリビングのドアを振り返る。
「おかえりー」
「おかーさーん」
娘の力ない呼びかけに、カップを置いて玄関に出た。
「どうした?」
「お腹痛い」
ベルトをいっぱいいっぱいに伸ばして背負っているラベンダー色のランドセルを下ろしながら、呟いた。
「薬飲む?」
「うん……」
大丈夫。
まだまだ、子供に手がかかる。
大丈夫。
私はまだ、必要とされている。
大丈夫。
ランドセルを受け取り、娘の頭を軽く撫でた。
「おかえり」と、和輝が顔を出す。
「お父さん、どうしたの?」
「ん? あー……」
困った表情で、夫が私を見る。
隠すようなことじゃない。
有休を消化しなきゃいけなくて、と言えばいい。
理由もなく有休を取ったことがないから、仕事をサボっているような後ろめたさがあるのだろうか。
妻と話をするために、は彼の中で有給取得の正当な理由ではないのだろう。
だとしたら、真面目な夫らしい。
「お父さんも、ちょっとお腹が痛くなっちゃったんだって。有休も溜まってるし、無理して悪化したら大変だからって帰って来たの」
「薬飲んだ?」
「ああ、うん」
「じゃあ、寝た方がいいよ。お兄ちゃんが帰って来たらうるさくて寝られないよ?」
まるで私の言い方そのものだ。
私がハハッと笑うと、和輝も苦笑いした。
「私も薬飲んで寝るぅ」
「そうしなさい」
手洗いに洗面所に向かう娘の小さな背中を見ながら、私は呟いた。
「もう、あのカフェには行かないね」
夫は、何も言わなかった。
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