39 / 89
5.知らなかったでしょう?
5
しおりを挟む*****
和輝は納得できていない様子だった。
じゃあ、どうすれば納得できるのだろうと考えても、きっとそもそも納得なんて出来ないのだろうと、私はそれ以上話さなかった。
だって、和輝の知りたい私の気持ちは、私にもよくわからない。
だからか、翌日の夫は少しだけ不機嫌そうに出社した。
彼が不機嫌そうだと気づいたのは、私だけだったろう。
いつもようにパートに出て、和葉が帰る時間に間に合うように帰宅し、和葉を連れてまたパート先に行った。今度は車で。
年に一、二度しか会わない和葉の成長に、哉太くんはいつも驚く。
そして、決まって言う。
「柚葉の若い頃に似てんな」
和葉はそれが嫌らしい。
それがわかっているのに、哉太くんは必ず言うのだ。
「性格は全然違うみたいだけどな」と、楽しそうに。
哉太くんの言う通り、娘は私とは性格がまるで違う。
似ているところもあるが、それは娘ならば大抵が似るであろう母親の口調や仕草。
それ以外は、父親に似ていると思う。
その一つが、優柔不断さ。
因みに、由輝は誰に似たのかズボラな性格で、悩むのにも飽きてしまう。
とにかく、悩み出したらとことんで、この日も、サイン帳とお友達三人へのプレゼント選びに一時間半かけた。
私がラッピングした。
「愛華ちゃんのは何色のリボンにする?」
「……ピンク」
娘の表情が浮かないことに気づいたが、ひとまずは急いで帰ることにした。
「あの店長さんとお母さん、仲いいよね」
家まであと十分ほどの場所で、しばらく黙っていた和葉が言った。
「うん? そうね。店長が子供の頃から、お母さん働いてたし」
「ふーん」
「どうしたの?」
チラッと、バックミラーで私のすぐ後ろに座っている娘を見る。
口を尖らせながら窓の外を眺めている。
「愛華ちゃんと喧嘩でもした?」
「……してない」
「そう? 同じ中学なんだし、卒業が寂しいわけじゃ――」
「――愛華、卒業式に出られるかわかんないんだって」
「え?」
「昨日も今日も休んでた」
卒業式は来週の土曜日。
十日後の式に出席できるかわからないなんて、インフルエンザにしても有り得ない。
「先生が言ってたの? 卒業式に出られないかもしれないって」
「ううん。実紗」
「実紗ちゃん?」
実紗ちゃんは、三年生からずっと同じクラスだが、和葉が嫌っているグループの子だから仲良くはない。
実紗ちゃんのお母さんは噂好きのお喋り好きで、驚くほど情報通。私は苦手だ。愛華ちゃんのお母さんと仲が良い印象もない。
「なんで実紗ちゃんが――」
「――あ、お兄ちゃん!」
すぐに見つけられなかった私は、後続車と間隔が空いているのを確認して、ハザードランプを点け、路肩に停車する。
「おにーちゃーん!」
和葉が窓を開けて手を振った。
右手の住宅街から歩いて来た学生服の男の子二人が和葉の声に気が付き、こちらを見た。
由輝と嵐くんだ。
嵐くんと愛華ちゃんの家は、二人が来た方向に向かって二丁先。
由輝と嵐くんは手を振って別れ、嵐くんは私たちに背を向けて走り出した。
18
あなたにおすすめの小説
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
それぞれの愛のカタチ
ひとみん
恋愛
妹はいつも人のものを欲しがった。
姉が持つものは、何が何でも欲しかった。
姉からまんまと奪ったと思っていた、その人は・・・
大切なものを守るために策を巡らせる姉と、簡単な罠に自ら嵌っていくバカな妹のお話。
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
どうかこの偽りがいつまでも続きますように…
矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。
それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。
もう誰も私を信じてはくれない。
昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。
まるで人が変わったかのように…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる