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7.15年目のホンネ
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しおりを挟む「俺たちはきっと、くだらないお喋りとか、深く考えずに思ったことを話すとか、そういうのが……足りてなかったんだよな」
別に会話のない夫婦なわけじゃない。
ただ、夫はそれほど口数も多くないし、仕事のことなんかは特に話さない。
私も、話すのがあまりうまくないから、考えて話さないと脈絡やオチがなくなってしまい、思ったままをくどくどと話すのは好きじゃない。
他の夫婦と比べて会話が少ないのかはわからない。
ただ、夫がそう感じるのなら、そうなのかもしれない。
「それから、お互いに気を遣って我慢するのはなし。ちゃんと、ホンネで話そう」
私は頷く。
「あ、これは帰るまでじゃなく、これからずっとってことな」
「え?」
「不満とか、疑問とか、頼み事とか、何でもいいから、思った時に言い合えるようになろう」
そんな、理想の夫婦に、なれるだろうか。
なりたい、と思う。
和輝と、これからもずっと一緒にいたいから。
夫もそれを望んでくれている。
ならば、聞いてもいいだろうか。
ずっと、聞きたかったこと。
ずっと、聞くのが怖かったこと。
隣にワゴン車が止まった。
バックで入ったから、どんな人たちかはわからないけれど、きっと家族連れ。
賑やかな声が聞こえて、遠のいていく。
「俺たちも行こう。席が――」
「――私とっ――」
ハンドルから手を離し、ドアに手をかけた夫の服の裾を掴んだ。
「――結婚したこと、後悔してない!?」
聞いてしまった。
夫が振り向き、視線が絡む。
思ったより、緊張していたようだ。
勝手に涙が溢れ、夫の顔が揺れる。
これこそ、今更だ。
結婚して十五年も経って、後悔してるなんて言える人じゃない。
きっと、なに言ってんだって、思ってる。
けれど、これが私のホンネだ。
十五年間、ずっと思ってたわけじゃないけど、ずっと忘れなかった不安。
「私のお父さんが……、け、結婚するんだろうな、なんて……言ったせいで……、私たち結婚しちゃったじゃない? だからっ、もし、あの時お父さんに見つからなかったら、和輝は私と結婚する気……にならなかった……んじゃないか……とか――」
「――そんなわけないだろ!」
狭い車内に和輝の、苛立ちを露わにした声が響く。
「確かに、柚葉のお父さんに言われたのがきっかけではあったけど、仕方なくとかで結婚なんかしないだろ。俺は、柚葉のお父さんに聞かれた時、全然迷いなんかなく、もちろんです、って言えたんだ」
付き合って一年ちょっとが過ぎた頃、友達の家に泊まると言っていた娘が夜、男と手を繋いで歩いているのを見た父は、その場で私を家に連れ帰った。
親に嘘をついて男と外泊するなんてと怒鳴られた。
父はお堅い考えで、外泊するような付き合いの相手なら、まずは挨拶に来るのが筋だと言うのだ。
和輝は、私と父を追って来てくれた。
「結婚を前提に付き合ってるんだろうな!」と父が和輝に詰め寄り、和輝は「もちろんです」と答えた。
和輝は真面目で責任感が強い。
だから、あの時、私との結婚を決めたのであって、父に見つからなければ結婚する気はなかったのではないか。
だって、それまでは一度も、結婚なんて話はなかった。
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