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7.15年目のホンネ
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付き合っていればいずれそういう話も出たかもしれない。
プロポーズされて、OKして、親に報告して、っていう普通の流れで幸せを噛みしめられたかもしれない。
けれど、私は申し訳なさが先だった。
ずっと申し訳なく思っていたわけではないし、和輝が私や子供たちを大事に想ってくれていることはわかっているけれど、それでも、本当は聞きたかった。
和輝の意思で、私と結婚したいと、言って欲しかった。
「ずっと、そんなこと気にしてたのか?」
瞬きをしたら、涙が零れた。
呆れられたのではないかと怖くなり、何となく視線を落としてしまった。
最近、本当に変だ。
自分でもわかる。
情緒不安定。
いくら夫が元カノと一緒にいるところを見たって、夫が元カノとお揃いの腕時計をしているのを見たって、ここまで気持ちを乱したり、泣き出したりするなんて、変だ。
「柚葉」
頬が大きな手に包まれ、持ち上げられた。
涙で視界不良だが、和輝が私を見ているのはわかる。
「柚葉との結婚を後悔したことなんて、一度もない。柚葉のお父さんに急かされた感は確かにあるけど、急かされただけで押し付けられたわけじゃない」
お父さんに見つからずに付き合い続けていても結婚したかなんて、わからない。
だって、私と和輝は結婚した。
どんな答えを貰っても、確かなものなんて何もない。
だから、とても子供染みたことを言っているのはわかっている。
それでも、私にとっては『お父さんのお陰』で、和輝にとっては『お義父さんのせい』なら、苦しい。
「プロポーズは……もうやり直せないけど、これからもよろしくってこと……じゃダメか?」
「……っ?」
シュッと乾いた音が聞こえ、頬に柔らかな何かが触れた。それがティッシュであることはすぐに分かった。
夫はティッシュで私の涙を拭う。
ようやく、夫の顔が鮮明に見えた。
「和葉の質問の、プロポーズの言葉……をずっと考えてたんだけど、やっぱり、もう、それはどうにもならないから、代わりにはなんないかもしれないけど――」
気まずそうに、はっきりしない口調でそう言うと、和輝はふぅと息を吐き、ひゅっと短く息を吸った。
明らかに頑張って真顔を作り、緊張した表情で口を開いた。
「――これからも、死ぬまでずっと、俺の奥さんでいてください」
また、瞳に涙の膜が張る。
夫がどんな顔で私を見ているか、見たいのに、見えない。
瞬きしたら、やっぱりまた涙が下瞼から溢れて、頬を伝い、顎からポタポタと落ちてゆく。
またシュッとティッシュを引き抜く音が聞こえて、やっぱり涙を拭われた。
「もうずっと柚葉が泣いてるとこなんて見てなかったのに、今日は泣いてばっかりだな」
そうね。
何年分も泣いていると思う。
「柚葉?」
「ん?」
「返事は?」
「え?」
「だから――」
和輝の言葉を遮って、私のお腹が盛大に唸った。
私は恥ずかしいやら泣き過ぎて疲れたやらで、笑うしかできない。
今度は自分でティッシュを取ると、涙を拭き、鼻をかんだ。
そして、顔を上げて、涙で化粧が剥げるだけでなくカピカピに乾燥したボロボロの顔で夫を見た。
「――死ぬまでずっと、一緒にいる」
結婚して十五年。もうすぐ十六年目。
私は夫に、プロポーズの返事をした。
夫は、安心したように目尻を下げ、笑った。
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