15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以

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番外編*十五年目の煩悩

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「気をつけて、楽しんで来いよ」

 修学旅行当日。

 いつもより一時間早く家を出る息子を見送るため、俺も早く起きた。

 靴を履く由輝に声をかける。

 背中より大きなリュックと、身体半分ほどの大きさのボストンバッグを持ち、玄関ドアを開けた息子が振り返る。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

「気をつけてね? お金の遣い方考えてよ? お土産は和葉とお祖母ちゃん家の三つね?」と、二日前から言い続けている注意事項を繰り返しながら、柚葉もスリッパをつっかけて玄関を出る。

「ホントに気をつけてね」

 母親は大変だ。

 父親より心配する項目が多い。

 去年の和葉の修学旅行の時も、何かと心配して、三回は荷物の確認をしていたし、当日は薄暗い時間に起きていた。



 あの時も……由輝と三人で飯に行ったな。



 どこの家もそうだろうか。

 とにかく、今日から息子は二泊三日の修学旅行だ。

「ふぅっ」と肩で息を吐きながら、柚葉が戻って来る。

「行ったか」

「うん。さ! 次は、和葉」

 パッと表情が切り替わる。

「切り替えはや……」

 思わず気持ちが漏れた。

「行くまでは心配だけど、行っちゃったら私にはどうしようもないもの。あとは、何かあっても自分で何とかしてもらわないと」

 確かに。

「ほら! 和輝もご飯食べて。かずはー! ごはんー」

 母親の顔をした柚葉は、実に逞しい。

 俺は和葉と共に、由輝のお弁当と同じおかずを食べて、いつもより三本早い電車に乗って出勤した。

 いつもより少し空いている電車の吊り皮を握り、ぼうっと昔を思い出した。

 結婚する前。

 年下で男に慣れていない風の柚葉に格好悪い所を見せないように、俺は大人のデキる男を装っていた。

 別に嘘をついていたわけじゃない。

 男なら誰にでもある見栄の張り方が徹底していただけだ。

 前に付き合った広田が、俺以上に見栄っ張りで、男の見栄をへし折るのが特技のような女だったから、素直に俺を認め、褒めてくれるのが嬉しかった。

 だから、だ。

 小さな嫉妬は情けない。何事にも動じない。がっつくようなセックスはみっともない。

 なんて、勝手にルールを作ってしまった。

 柚葉の勤め先にしてもそうだ。

 付き合っている時、何度も店に迎えに行くと言ったのに、「中間の方が早く会えるから」なんて言葉に喜んで、それ以上追求しなかった。

 初めてのセックスもそうだ。

 リードしなければ、余裕を見せなければと必死になって、柚葉がハジメテだと気づけなかった。

 結婚する時も、だ。

 お義父さんに見つかって、パニクッて、肝心の柚葉本人へのプロポーズを蔑ろにしてしまった。



 つくづく……、柚葉はよくこんな男に愛想を尽かさないな。



 挽回したい。

 ちゃんと、妻の気持ちを繋ぎ止めておきたい。

 俺は吊り革を強く握り、大きく息を吸い込んだ。

 脇目も振らず仕事をして、定時のチャイムが鳴ると同時に席を立った。

「課長、今日は早いですね?」と部下に聞かれ、「家族と約束があるんだ」と答えた。

 今まで、そんなことを言ったことがなかったから、ちょっと驚かれた。

 別に仕事人間なわけじゃない。

 ただ、平日に家族と出かけることが滅多になかっただけだ。

「課長!」

 タイムカードを押し、エレベーターを待っていると、青野に声をかけられた。

 手ぶらなところを見ると、帰るわけではなさそうだ。
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