15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以

文字の大きさ
82 / 89
番外編*十五年目の煩悩

10

しおりを挟む

 店内に客は俺と、和葉より少し年上に見える制服を着た女の子が三人だけ。雑貨を見て笑っている。

「柚! それは後で俺か瞳がやるから、もう帰れって」

 店長の声。

「でも――」

「――そうですよ、永吉さん。俺がやっときますから」と、学生らしい男。

「じゃあ、お願いします」

 もうすぐ出てくるようだ。

 俺は替え芯を持ってレジに行く。

 眼鏡をかけた真面目そうな、俺よりも背の高い男が、小さな替え芯のバーコードを打ち、小さな袋に詰めた。

「ありがとうございました!」

 元気だな、と思った。

 俺は受け取った袋を鞄に入れる。

「じゃあ、お先に失礼します」

「おう、お疲れ」

 レジの後ろから柚葉が出てきて俺と目が合う。

「あ、和――」

「――柚! 首になんかついてる」

 後ろからぬっと伸びてきた筋肉質な手が、柚葉の首に触れた。

「えっ? ひゃ――」と、柚葉が肩を竦める。

「――値札! どっからつけてきたんだよ」と、店長が指先に張り付いた値札を笑って見せた。

「え? やだ。値札取れてる商品ある?」と言いながら、柚葉が首筋を押さえる。

「いや? 金額入ってないから、ラベラーから取れたんだろ」

「そ? ならいいけど」

 ははは、と笑った店長が俺を見た。

「あ! 柚の旦那さん。こんにちは」

「こんにちは」と、俺も返す。

 うまく笑えている気がしない。

「え? 永吉さんの旦那さん? あ、えと、奥さんにはいつもお世話になってます」と、学生が頭を下げる。

「いえ、こちらこそ」と、俺も頭を下げる。

 やはり、ぶっきら棒になってしまっていると思う。

「じゃな、柚。お疲れ」

「うん。お疲れさまでした」

「お疲れさまでーす」

 店長と学生に見送られて、俺たちは店を出た。

 なんだろう。

 悶々とする。

「どうしたの? 先に帰ってるんじゃなかった?」

「ちょっと遅くなったから、駅前で軽く食ってた」

「あ、そうなの? 大丈夫? 仕事」

「大丈夫」

 家に帰ると、ちょうど和葉が帰って来た。

 俺は着替えて、一泊と明日の学校の準備を済ませた和葉を、柚葉の実家に送って行った。

「ね? なに食べに行くの?」

「んー……」

 考えていなかった。

「昨日は焼肉だしねぇ」

「んーー……」

 いつも、外食は子供たちの食べたいもの優先で、特にこだわりも好みもない俺は言われるがままに車を走らせるだけ。

「せっかくだから、子供たちが一緒じゃ食べられないものがいいよね」

「んーーー……」

 ふと気が付く。



 こういう時、柚葉が何を食べたがるか、知らないな。



 己の不甲斐なさに、また落ち込む。

 だが、ため息が出そうになって、ひゅっと止めた。



 あ……!



「昔よく行った定食屋、まだあるかな」

「え?」

「俺んの近くの」

「ああ!」

「行ってみるか」

「うん」

 柚葉が好きだった。

 好きな総菜が選べる定食屋で、夜は酒も提供する。

 柚葉は酒を飲まないけれど、当時俺が住んでいたマンションが徒歩圏内だったから、その店でだけ俺はビールを飲んだ。

 懐かしさ半分と、変わってしまった街並みに寂しさ半分で思い出話なんかしながら店を目指す。

「あ……った」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

【完結】この胸に抱えたものは

Mimi
恋愛
『この胸が痛むのは』の登場人物達、それぞれの物語。 時系列は前後します 元話の『この胸が痛むのは』を未読の方には、ネタバレになります。 申し訳ありません🙇‍♀️ どうぞよろしくお願い致します。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

悪役令嬢が行方不明!?

mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。

処理中です...