その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社

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1章 敵国の牢獄

1-20 貴方から目が離せない

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「ええっと、何と言ったらいいのかなあ」

 どう言えば、この魔導士クロウに正確に情報が伝わるのか。
 規格外だということを正しく伝えるにはどうしたら良いのか。
 ナナキが苦労しているのはこういう点か。こういう状況に自分が置かれないとわからないことは多い。

「魔力充填しきれてませんでした?うーん、コレで満充填のようですが」

 クロウがじっとキラキラな魔石を見ているが、俺が言いたいのはそういうことではないことに気づけ。
 他の看守も何事かと関心が集まり始めた。

 ここにいるのが皇帝だから、遠巻きながら様子を窺う範囲で。
 多くに知られる前に。

「クロウ、別室に行こうなあ。この魔石のことでえ」

「え?壊れてはいないようですが」

 だから、そういうことじゃねえって。

 近くにいた看守一人を連れて、クロウを個室へ。
 小さい部屋だが、ここは牢獄。取調室のような簡素な部屋だ。
 捕虜たちは作業に夢中なようだ。さすが脳筋族の集まり。扱いが楽である。

 小さいテーブルを挟んで、クロウを向かいの椅子に座らせる。
 看守は俺の斜め後ろに立たせておく。
 まさしく取り調べのような雰囲気。

 クロウによって魔力充填されたキラキラ魔石をクロウの前に置く。

「クロウ、これは普通の魔導士が魔力充填すると半日は寝込む代物だ」

「あの、いえ、皇帝陛下、普通は三日ほど寝込む代物だと思いますが」

 看守が後ろから口を挟んできた。
 普通の魔導士の解釈が違うようだ。

「帝国の普通の魔導士のレベルはそのくらいなんですね」

 クロウが笑顔で答えた。
 ぎょっ、とするが、表情には出さない。出さなかったのに、看守のお前が顔芸してどうする。無表情を貫け。

「そうか、そうだよな。うんうん。あのリンク王国の魔法障壁、お前一人の魔力だったよな。それに追加して王宮の魔道具もお前がすべて充填していたのだから」

「いえいえ、まさか、全部ではございません。王族が使用する魔道具は触らせてももらえませんでしたよ。黒髪ですから」

 クロウは平然と言った。
 平然と言ったが、黒髪が触ったからといって魔道具がどうなるものでもない。

 あの王国は色素が薄いことが至上。
 生まれながらの白髪銀目が一番尊いと平気で言う国である。
 黒髪黒目は最底辺の色だ、あの国では。
 黒髪の者を視界に入れることさえ嫌がる者たちもいると聞く。

「あ、なんかムカつく」

「皇帝陛下、話が脱線しますので、身分関係はひとまず置いておかれるのがよろしいのでは」

 この看守、できるな。

 リンク王国への怒りはリンク王国に向けるとして。
 王族の魔道具の魔力充填は魔導士団のお偉方が行っていたのだろう。王族とお近づきになるために。
 とは言っても、このように魔力充填用の魔石を取り外してしまえば、クロウにさせることも可能である。ということは絶対にクロウにやらせていたに違いない。さも、自分がやっているかのように見せかけて。

 それはともかくとして。

「それもそうだな。で、俺は失念していたんだが、その首輪」

 俺は自分の首元を指でトントンと指し示す。

 それは魔法を使えないようにするための枷。
 確かに魔法は使っているようだと報告は受けていたが。

「、、、今さらじゃないですか?」

 何を今さら。

 お前は何を言っている、昨晩会っただろう、魔法が使えないならどうして牢獄の外で会えたんだ、とクロウの顔が言っている。

 確かにそう。

 昨晩、魔法を使っているのを確認したばかり。
 だが、首元はマフラー巻いていたから首輪を外しているものと。。。
 枷の首輪はあのときも健在だったというわけだ。

 うん、捕虜のはずのクロウが許可なく首輪を外しているわけもない。
 鍵を使ったのなら報告が必ず来る。

 ふっ。

「ええっ、その首輪をしたまま、このサイズの魔石に魔力を充填したんですかっ。体調は大丈夫ですかっ」

 看守が大声でクロウを心配する。
 せっかくニヒルに笑って、何とか表面上は体裁を保ったつもりだったのに、すべて打ち壊すな。

「大丈夫ですよ、この程度の魔石なら充填しても。それに、この首輪よりもえげつない枷はリンク王国にも大量に存在してますから」

 笑顔で答えるな、怖いぞ、クロウ。
 加えて、存在させるな、そんな枷。
 リンク王国は人をどれだけ殺す気だ。

 クロウは、リンク王国にも、と言った。これ以上の物が帝国にもあると勘違いしているようだ。勘違いしているなら訂正はしないけど。

 うちは殺すつもりなら、そもそも枷なんかわざわざつけさせない。

「その首輪は支障ないのか」

「さすがに強大な魔力を流すと壊れてしまうので注意してますよ。これを超える枷を持って来られないために」

 だから、これを超える枷なんてうちにはないっちゅうねん。
 ツッコミを口には出せないのが辛いところ。
 しかも、簡単に壊せることをポロっと白状したなあ。

「ぶっちゃけるなー、お前」

「現場を押さえた皇帝陛下には今さらですから、処罰されないために正直に申しました」

 だよねー。

「ご提案ですが、今後労役として俺が魔力充填を行なうのでしたら、その時間だけ枷を外していただいた方がお互いによろしいのではないでしょうか」

 お互いに。

 物怖じしない目がそこに存在する。
 自分より身分のある者に対する態度にしては、堂々としている。

 身分偏重主義のリンク王国では、必要な提案でも喜んでは受け入れられなかったようだ。
 理屈ではなく感情。
 彼らも黒髪の平民に対して表にこそ出さなかっただろうが、だからこその第四王子部隊への配属。

「ああ、そうだな」

 俺はほんの少しだけ目を伏せる。

 本当に必要だからこそ、クロウは自分の上司へと提案したに違いない。
 それが必要最小限であろうとも口を開くのさえ許さない、黒髪の平民はただ這いつくばって命令を聞いていればいい、そんな暴言がリンク王国から聞こえてきそうだ。

 リンク王国には言葉の真意をつかめない愚か者がいる。

 クロウは自分が黒髪黒目の最底辺に住まう者だと自覚している。
 どんな仕事をしていようとも、仕事をしている以上改善をしなければならない点は出てくる。
 黙っていれば良かったのだろうか。
 リンク王国では沈黙が最善だったのだろうと推測できてしまう。

 第四王子部隊に送り込まれた結末の理由を、クロウも察してはいるのかもしれない。
 それでも、まだ俺に提案してくれる彼に、長年リンク王国にいながら心が折れなかった彼に称賛する。

「許可証に皇帝印を押してやるから、書類を出せ」

「はっ、はいっ」

 俺は看守に伝えておく。

「クロウ、お前は欲しいものはないのか?」

「そうですねえ。手持ちの本をもうそろそろ読み終えてしまうので、本屋に寄って来れば良かったですねえ」

 そういう意味で聞いた質問ではないが、クロウの返しにも慣れてきた。
 クロウは誰かが与えてくれるとは露ほども考えていないのだ。

 クロウは夕食後から就寝までの時間をほぼ読書で費やしていると報告されている。
 どこから現れた本かは知らんが。
 捕虜の私物はほとんど取り上げたのだから。クロウだって服以外は例外じゃない、はずだったのだが。

「本屋に行かずとも、我が城には書庫もある。禁書以外なら貸し出してやる。後で目録を届けさせるか。目録だけでもかなりの量になるから読みたいジャンルとか考えておけ」

「そうですねえ。では、まずはこの国について書かれている本が読みたいです。歴史とか地理とか何でも。勉強不足で他国のことはほとんど知らなくて」

「ここまで来て勉学に励むか」

「、、、リンク王国での平民は国外の情報を手に入れることも、戦時でもなければ国外に出ることも叶いませんでしたから」

 あ、ものすごーくリンク王国の国王のツラを殴り倒したくなってきた。
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