その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社

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1章 敵国の牢獄

1-45 墓参りに行きたい

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 俺は愕然として、本を床に落とした。
 大教会の屋上に手をついた。

 や、やられた。
 エセルにしてやられるとは不覚。

「ま、まさか、二十巻で完結じゃなく、この話には続きがあるのかっ」

「この次の巻はまだ販売されておりませんー」

「なんてことだっ。中途半端なところで終わっていると思ったらっ。早く続きが読みたいっ」

「それは作者に言ってくださいー」

 ちっこいエセルの一匹がしてやったり風な万歳しながら言うので、両手で胴体を持って前後にブンブン振ってやる。
 くそっ。
 策略にのってしまった。
 続きが気になる。

「今度、本を貸すときは完結した物をよこせっ」

「僕のひちばんお気に入りのものを貸ひまひたー」

 振り過ぎたか。

「クロウ様ー、沼にはまりましたねー?」

「どっぷりとー」

「こちら側の世界へようこそー」

「歓迎いたしますー」

 黒い笑顔もちっこすぎて可愛いぞ。
 五匹ともぐりぐりと撫でてやる。
 闇に引きずり込むにしろ、本の世界なら可愛いものだ。

「さて、冗談はさておき」

「冗談の境目がわかりませぬー」

「お前たちの液体はしっかり仕事をしているようだな」

「それはもうしっかりー」

「クロウ様にこきつかわれておりまするー」

「過労死寸前ー?」

「我々もついでに死にそうですが?」

 うんうん、言い方が微妙だぞー。しっかり仕事をしているようで何よりだが。

 潰して液状化したエセルを固めて動けなくしていたが、大教会の大修繕工事のために溶かして液体に戻して、絶対服従の紋をつけてこき使っている。
 状態としてはスライムのように姿を保てるわけではなく、限りなく緩いゼリーに近い感じ。とろみがついている液体と言った方がわかりやすい表現か?
 実際のところは液体でもないのだが、光の粒子のような魔力を魔法によって密集させられているのが液体のように見えるエセルなのである。

 あの地下を安全に工事するためには、ここの支配権を持つエセルに率先して動いてもらった方が都合がいい。
 地獄の門とやらも開くのを結果的に阻止しているから、エセルが悪巧みしてもどうにかなるだろう。

 俺はエセルとして絶対服従の紋をつけたのだが、先に分離していたこの五体には紋がつかなかった。
 この五匹はエセルとはまったくの別個体になってしまったのか?
 謎が深まる。

 だが、コイツらはずるーいと俺にすがった。鬱陶しいくらいに。
 自分にも絶対服従の紋をつけてほしいと。。。
 本人が望むならと普通につけたが。

 ホクホク顔して喜ぶことじゃないだろうに。

「それにしても、ラウトリス神官も寄って来る男で満足していればいいのに」

 なぜ俺まで誘うんだろう。
 最近、ラウトリス神官に艶っぽさが出てきたと信者のなかでも評判らしい。
 つまり、エロさが表に出てきてしまっているということである。
 美形ではあるが、彼は別に女性っぽくもなく中性的なわけでもなく、確実に男性のお顔立ちであるし、体型もしっかり男性である。女性らしい言動や仕草をするわけでもない。
 筋肉騎士たちよりは確実に細身であるにしても。

 まあ、俺も女性的、中性的かと問われたら、確実に否定できてしまう。
 腰回りもしっかりしているしなあ。筋肉もなく細身だけど、お腹まわりが怪しくなってきているが。。。

 確かにセリムと比べたら仕方ないことなんだけどっ。

「好奇心旺盛ー」

「毒を食らわば皿までー」

「入れ食い状態ー」

「クロウ様も食っちゃえば良かったのにー」

「、、、いや、食わんだろ」

 俺、今でも妻のこと愛しているし。
 あ、墓参り行きたいなあ。
 春になったら妻の命日がある。もうそろそろだ。お墓を綺麗にしてあげたいが。
 帝国で捕虜となっている我が身、妻も許してくれるだろうか。

 、、、長距離空間転移魔法陣、リンク王国の教会のも生きていたな。
 あの教会のどこに魔法陣が設置されているんだろ?
 やはり地下かな?

 さすがに夜しか牢を抜け出せないだろうけど。
 昼に墓参り行くのは難しいか?
 昼間のお祈りのときはゴートナー文官が教会にもれなくついてくるし。
 ゴートナー文官も一緒にリンク王国に連れていくわけにもいくまい。

 、、、いや、なんとかならないか?
 魔導士ではないゴートナー文官一人ならなんとか誤魔化せるかもしれない。なんとか。なんとか。
 皇帝陛下か皇弟殿下でどうにかならないかなあ。
 命日までに頭をひねってアイディアを考え出そう。

 夜に墓参り行くのって、なんか不気味だし。最終手段だ。

 そういや。

「ラウトリス神官って、人の頭上に視線を向けるんだよな」

「それはー、信仰心の数値が見えるからー」

「クロウ様はゼロからイチになりましたー」

「おめでとうございますー?」

 エセル、、、首をひねるくらいなら祝福の言葉を言うな。

「今までの最高値は教会長なのですー」

「シエルド氏もわりとお高めですー」

「ゴートナー氏は低いですー」

 口々にエセルたちが誰がどのくらいか言っていく。
 ラウトリス神官ってそういう能力を持っているんだ。

 うわっ、俺の信仰心ないのバレバレじゃん。
 何で教会に通ってんだよ、とか思っているんだろうな。

「ん?俺、信仰心ないのは変わってないけど」

 何でイチになっているんだ?
 自分でも気づかない部分の深層心理での変化?

「ラウトリス神官がクロウ様に恩を感じたので、オマケのイチですー」

 何なんだよ、オマケって。

「それって、ラウトリス神官の心情で上下するってことじゃないのか」

「その通りですー」

「信仰心+ラウトリス神官の好感度ですよー」

「じゃあ、教会長が最高値なのはラウトリス神官が普通に好きだからじゃないか」

「ラウトリス神官はー、信仰心の高い人がー、元々お好きなのですよー」

 あー、そうですか。
 特に必要のない情報をありがとう。俺では絶対に役に立たない。
 神への信仰心を育てようと思ったことはない。

「本当はー、ゼロにいくら数字をかけたってゼロー」

 いや、好感度を足しているんだから、掛けるなよ。

「永遠にゼロのままー」

「本当は絶対に関わり合うことのないクロウ様ー」

 そうっすね。
 捕虜にならなければ、教会で祈ることもなかった。
 聖職者と話すことなんて一生なかっただろう。

「エトノア氏のようにゼロー」

「ゼロはゼロのままー、つながらないー」

 シエルド氏の従者?
 あの人も信仰心がゼロなのか。
 親近感湧いちゃうなー。

「湧いちゃー、いけませんよー、クロウ様ー」

 あれ、俺、口に出していたか?

「あれはー、地獄の門の門番なのですー」

「ん?」

「だから、若いままなのですー」

「クロウ様のようにー、他人の魔法の重ね掛けで保たれている若さではないのですー」

 なぜ知っている?

「あれはまがいものですー」

「人ではないのですー」

「クロウ様が忌み嫌う人外ですよー」

「目を覚ましてくださいー」

「人外好きになるならー、我らを愛してくださいましー」

「我らに愛をー」

「我々に恵みをー」

「僕らに魔力をくださいー」

「ごはんー、ごはんー」

 わーわーわー。
 情報過多だが、流されてはいけない。
 落としてはならない情報が山ほどあった。
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