その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社

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1章 敵国の牢獄

1-44 大教会の秘密10

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「教会長、、、もっと」

「ラウトリス、」

 暗い廊下に喘ぐ声とベッドが軋む音が響く。

 大教会の居住区域。
 誰もいないはずの空間の廊下に、侵入者。つまり、俺。

 あー、あの二人めでたく結ばれたのですな。

「うーん、お盛んですなあ」

 他人の行為を覗く性癖は持ち合わせていないので、居住区域からつながっている地下から持ち出した魔導書数冊を手に抱えて、いそいそと急ぐ。
 俺の後ろからちっこいエセルたちがちょこちょこついてくる。

 しっかし、他には誰もいないとはいえ、部屋の扉ぐらい閉めてくれ。
 お互いを求めすぎていて、まわりなんて視界に入らんと?
 困ったもんだ。


 宗教国家の上層部の聖職者というのは、酒池肉林であることが少なくない。
 上の者は逆らえない下の者に手を出すことなんて日常茶飯事。

 だが、そんな中でも運良く手を出されず、純粋培養された神に祈る青少年たちは性欲を抑圧される。
 となるとどうなるかというと、歪むんでいくし、性欲に際限がなくなる。

 あの二人はお互いを非常に求めあうが、歪んだ愛でつながっている。




「嬉しそうですねー、クロウ様」

「昔の魔導書が読めるのはそりゃ嬉しいね」

 誰にも邪魔されない大教会の屋上で、俺は座ってペラペラと頁を進める。
 大教会なのでかなりの高層で、風も強く冷たいが、俺には関係ない。

 最先端の今の魔法の方が進んでいるのではないか、とたいていの者が思っているが、禁忌の魔法と指定されて埋もれてしまった魔法は多い。
 今の国家に規制されているなかで研究されている魔法より、昔の魔法の方がぶっちゃけ面白い。
 ただただ時の政権に不都合と思われたから世の中から消された魔法というのは数多いことが知れる。

 エセルが魔導書を横から覗き込んでいる。
 膝の上やら肩やら適当にちっこいエセルたち五体がのっているが、存在はあるが重さは感じない。

「クロウ様は世界を征服でもしたいのですか?」

「いや、面倒」

「でも、それらの魔法を使用すれば、世界を征服するのも簡単ですよ」

 ちっこいエセルたちがなぜこの本を熱心に勧めたのか理由がよーくわかった。

「別に俺は国を治めたいわけじゃない。そういうのはそういうのが大好きな奴がやればいい。今の帝国の皇帝のような」

「クロウ様は今の皇帝に世界を潰されるのはお嫌なんですよね?」

「だから、皇帝には我々の存在を教えなかったんですよね?」

 おおっとー、人外さんたちにはきちんと説明しなきゃわかってもらえないようだ。

「俺は魔法を使えるが、別にこの世界で一人きりで閉じ籠って生きていきたいわけじゃない。残された人生、どうせなら今まで見られなかった世界を見に行きたいんだっ」

 力説。

 うっ、拳まで握って語ったのに、ちっこいエセルたちはキョトンとした顔で俺を見ている。
 世の中、すべての人間が世界征服を夢見ていると思うな。

 それに組織の一番上の人間は責任をとるためにいる。
 上の方の地位にはなりたいが、責任を取るのも忙しいのも俺は嫌なのである。

「僕はお供できないですー」

「我々はこの教会から離れられないゆえー」

 悲しい声で俯いたエセルたちが言った。
 うん、そんな気がしてた。
 牢獄までちまちまうろつかれたら、ちょっと怖い。
 彼らは他の人には見えない。
 周りから見ると、俺は独り言を話す危ない人となってしまう。

「残念ですー」

 小さい手が袖口を握っている。
 うっ、かわいい。息子も小さい頃は究極的に可愛かったよなあ。

「まあ、でも、長距離空間転移魔法がこの大教会にある限り、俺の拠点は帝城の牢のままだ」

「おおーーーっ」

「必ず大教会に来るー」

「僕たちのところに戻って来るー」

「クロウ様、ばんざーい」

 喜んでいるのか、立ち上がって万歳してる。
 しかし、しばらくするとエセル一体が首をコテンとした。

「帝城の牢のまま?」

 すると他のエセルたちも首をひねり始める。

「なぜそんなところに?」

「お屋敷をご用意したほうが?」

「異空間に城を建てる方が快適なのでは?」

 ん?

「牢に帰る意味はどこに?」

「そもそも、クロウ様は脱獄なんてし放題なのではー?」

 エセルたちの視線がぐるんと俺を向く。

 今の状況、脱獄中。し放題ですね、寝ているフリしている夜は。
 バレる前に帰るけど。

「脱獄はバレなければ大丈夫」

 と言ったら。

「ほほーう、さすがはクロウ様」

「スリルとサスペンスー」

「ドキドキがとまらないー」

「それが良いのですなー。執事にはすべてお見通しだぜっ」

 いや、何か違わないか?
 勝手に解釈されるにしろ、明後日の方向へ飛んで行ってないか。
 それに、エセルにはどういう知識が詰まっているのでしょう。

「何か良い物語でも知っているのか」

「こちらがおススメー。おっきいとき暇すぎて市井からいろいろ取り寄せていました」

 魔導書より厚さが薄い本を渡してきた。
 これくらいならすぐに読めるか?

「コレは全二十巻ありますー。乞うご期待」

 うっ。
 けっこうあるな。
 速読するしかないか。

 というか、エセルは普通に買い物してないか?
 他人と話せない設定じゃなかったのか?
 暇な時間をけっこう満喫しているじゃあないかー。

「推理もので、男性同士の恋愛もの?」

 あらすじが小さい文字で書かれている。

「兄弟が敵になりながらも、結ばれることはないとわかっていながらお互いを密かに想い合い、じれったくなるところがいいのですぞー」

「へえ?」

 ん?
 兄弟?
 想い合う?

 、、、うん。
 敵ではないが。敵ではないんだが。
 気づかなかった方が幸せだったかもしれない。
 俺が。

 お互いがお互いのことを考えながらも、おそらく間違った方向にしか行っていないあの双子。
 アッシェン大商会の未来が危ないのだけはわかる。
 どちらも結婚して子をなす気がない。
 それもそのはずだ。

 今の状態で、養子縁組したら、というアドバイスが微妙だということだけは俺もわかるが。
 もう少し話し合え、と言ったところで素直に聞く耳持たないということも容易に想像できる。

「、、、とりあえず、あの双子は放置しておこう」

 時間が解決するのかどうかなんて知らん。
 すれ違ったまま真実を知らずに死ぬことなんて大量に存在する。
 他人の恋愛ごとなど、周囲には迷惑この上ないことなんて山ほどあるのだ。






 大教会の教会長はラウトリス神官が想いを受け入れて、今後自分の肉体で寄付を募ることをしないと考えていたようだが。
 快楽を知ってしまい、自分の肉体で寄付が募れると気づいてしまったラウトリス神官がとまるわけもない。

 それに、なぜ教会長がシエルドとラウトリス神官の行為を知っていたかというと、懺悔室は告白する信者の部屋を聖職者側から普通に覗ける。
 逆にカーテンがされてなくとも、ただ暗くて見えないわけではなく、信者側からは聖職者側の部屋はどんなに目を凝らしてもその窓から向こうが見えない。
 聖職者だけが告白する信者の状態を観察することができる、そういう仕様の部屋なのである。

 ラウトリス神官も懺悔室の鍵を持っているが、教会長も普通に持っている。
 だから、彼らの行為を普通に覗けるのである。


 そして、お互い歪む。

 他の誰かに抱かれるラウトリス神官。
 それを見て、悲しいと思うと同時に次第に興奮してしまう教会長。
 教会長に見られていることに気づき、より乱れてしまうラウトリス神官。

 その歪みはお互いの性癖をさらにうまく結びつけてしまったようである。毎晩一層盛り上がっている。
 別に、俺は二人の歪んだ関係をどうにかしようとか一切思わないので。
 二人が幸せならどうでもいい。

「クロウ様は懺悔室に興味はございませんか」

「いえ、まったく」

「そうですか、告白したいときはいつでも私にお声をかけてくださいね」

 お願いだから、そういう意味で俺を誘うのはやめてくれ、ラウトリス神官。
 ゴートナー文官の笑顔がなーんか怖いから。

 俺、教会に寄付できるほどのお金は持ち合わせてないし。
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