「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

文字の大きさ
11 / 19

11話

しおりを挟む


 ウェンディとフォスターが舞台のホールに姿を現すと、一際大きな歓声が上がり、2人を出迎えた。
 フォスターは余裕たっぷりに笑みを浮かべ、観客席に向かって軽く手を上げ、答えている。

 だが、ウェンディにはフォスターのような余裕など微塵も無かった。
 平常心を保つために必死で。
 だからウェンディは、今までだったらウェンディを見守る為に観客席にいるはずのヴァンの姿が無い事に気付けない。

 平民である国民と貴族は、観覧席が別れている。
 ウェンディの家は侯爵位と言う位の高さから、観覧席は前方だ。
 ヴァンのハーツラビュル伯爵家は、侯爵家より位は劣るものの、領地も隣接しているため席は近い。
 だが、ヴァンの家族──伯爵や、伯爵夫人。ヴァンの二人の兄も観覧席にはいるものの、ヴァン本人の姿はそこには、無い。

 けれど、やはりウェンディは余裕がなく、ヴァンの姿が見えない不自然さには気付かない。



「ウェンディ様、準備はいいですか?」
「──っ! え、ええっ! 大丈夫、よ」

 フォスターの言葉に、ウェンディは深く頷く。

(だ、大丈夫──。鍛錬場では、一度も発動出来た事は無かったけど……っ、四年前はできた、もの。あの時から魔力も、腕も……落ちちゃってるけど、簡単な攻撃魔法ならっ)


 祭典の参加者──、特に国民は、この国一番の魔法騎士であるフォスターの魔法演術を楽しみにしている。
 時折、貴族達から送られる奇異の視線は気になるが、それでもウェンディはぎゅっと胸元で手を握り締め、そっと片腕を頭上に掲げた。

「──雷よ!」

 ウェンディの澄んだ高い声がホールに響いた。



 しかし。
 数秒、数十秒、と時間が経とうとも。
 ウェンディの声に呼応して、魔法は発動しない。

 ウェンディは泣きそうになりながら、もう一度叫んだ。

「──雷よ!」

 だが、結果は変わらない。
 しん、と静まり返っていたホールに、ただただ虚しくウェンディの声が落ちて。そして、消える。

 静まり返っていたホール。
 観客席。
 それが、次第にざわざわと騒がしくなり始めた。

 誰かが「魔法が発動していない」と囁き、また誰かが「あれって、国内で一番力のある魔法剣士の主人……ウェンディ様、だろう」と話し。
 また、誰かが「こんな簡単な魔法すら、発動出来ないのか」と、落胆の声を上げた。

 そこかしこから「これがあの妖精姫?」だとか「噂の出来損ないの妖精姫」と笑う声が聞こえてくる。

 人々のざわめきは、次第に嘲笑に変わって行く。

 ウェンディが必死に声を張り上げ続ける、そんな中。
 大股で歩いて来たフォスターが、腕を掲げて魔法詠唱を叫び続けているウェンディの腕を掴んだ。

「もう、やめてくださいウェンディ様」
「フォ、フォスター……っ」

 もしかしたらフォスターは、全く魔法が発動する気配を見せない自分を助けに来てくれたのかもしれない──。
 ウェンディは、一瞬だけそんな希望を抱いた。
 だけど、その希望は即座に打ち砕かれる。

「もう何も喋らず、動かず、そこに突っ立っていてください。あなたが何かをすると、私まで嘲笑される」
「フォ……」
「──轟け、舞え……!」

 フォスターは、ウェンディの言葉など無視するように彼女から離れると、高らかに叫んだ。
 ウェンディが魔法を発動できないため、フォスターがウェンディの分の演術まで肩代わりしたのだ。

 魔法の同時発動は、繊細な魔力制御と構築が必要なため、とても難しいとされる。
 だが、フォスターはそれを難無くこなし、更には観客を楽しませようと大規模な魔法を展開した。

 フォスターの魔法が発動し、観客からは「わあ!」と大きな歓声が上がる。
 誰も彼もがフォスターの魔法に注目しており、広いホールの中央でぽつん、と佇むウェンディなどもう視界にすら入れていなかった。

 だが、ある人々──。
 ウェンディの父と母だけは、ぽつりと佇むウェンディを何の表情も浮かべていない、冷たい表情で見下ろしていた。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(8/29書籍発売)
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

「私も新婚旅行に一緒に行きたい」彼を溺愛する幼馴染がお願いしてきた。彼は喜ぶが二人は喧嘩になり別れを選択する。

佐藤 美奈
恋愛
イリス公爵令嬢とハリー王子は、お互いに惹かれ合い相思相愛になる。 「私と結婚していただけますか?」とハリーはプロポーズし、イリスはそれを受け入れた。 関係者を招待した結婚披露パーティーが開かれて、会場でエレナというハリーの幼馴染の子爵令嬢と出会う。 「新婚旅行に私も一緒に行きたい」エレナは結婚した二人の間に図々しく踏み込んでくる。エレナの厚かましいお願いに、イリスは怒るより驚き呆れていた。 「僕は構わないよ。エレナも一緒に行こう」ハリーは信じられないことを言い出す。エレナが同行することに乗り気になり、花嫁のイリスの面目をつぶし感情を傷つける。 とんでもない男と結婚したことが分かったイリスは、言葉を失うほかなく立ち尽くしていた。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

見切りをつけたのは、私

ねこまんまときみどりのことり
恋愛
婚約者の私マイナリーより、義妹が好きだと言う婚約者ハーディー。陰で私の悪口さえ言う彼には、もう幻滅だ。  婚約者の生家、アルベローニ侯爵家は子爵位と男爵位も保有しているが、伯爵位が継げるならと、ハーディーが家に婿入りする話が進んでいた。 侯爵家は息子の爵位の為に、家(うち)は侯爵家の事業に絡む為にと互いに利がある政略だった。 二転三転しますが、最後はわりと幸せになっています。 (小説家になろうさんとカクヨムさんにも載せています)

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

処理中です...