10 / 84
一章
10話
しおりを挟む◇
「──ん、んん……?」
「ウェンディ様!? お目覚めになりましたか!?」
ウェンディは、小さく身動ぎをして呻き声を上げた。
すると、メイドのナミアがウェンディの声に反応し、慌てて駆け寄って来た。
「ナミア……? 私……鍛錬場で魔法の鍛錬をしてて……」
そこまで呟いたウェンディは「ああ……」と呟く。
「そこで倒れてしまったのね。ごめんなさい、ナミア。迷惑をかけたわね」
「いえ、いいえお嬢様。ご無事で良かったです」
「ナミアが私を鍛錬場から連れて来てくれたのよね……? 重かったでしょう、ありがとう」
「──っ、い、え……大丈夫ですよ」
ナミアは一瞬だけ言葉に詰まったが、にこりと笑顔を浮かべて答える。
(そっか……ナミアが助けて、運んでくれたのね。……ヴァンの声が聞こえたような気がしたけれど……あれは夢だったのね……)
ウェンディは力なくナミアに微笑む。
無理をしてしまい、魔力が尽きそうになってしまった。
これでは、今日の鍛錬は難しいだろう。
今日はしっかり休んで、明日以降に再びしっかり魔法の鍛錬に励もう、とウェンディはきゅっと拳を握りしめ、決意した。
それから、祭典までの数日間。
ウェンディは一日の殆どを、鍛錬場で過ごした。
だけども、いくらウェンディが鍛錬を続けても、結局祭典までの間に攻撃魔法のような強力な魔法は、終ぞ発動する事は出来なかった。
そして、その間。
今までは時折顔を出してくれていたヴァンの姿も、見る事は無かった──。
◇◆◇
祭典の日、当日。
祭典は、王都にある王家が所在している大きな宮殿で行われるのだ。
その宮殿は、祭典の日だけは国民も出入りが自由で、魔法演術を行う場所にぞろぞろと沢山の人が集まっていた。
その日ばかりは、ウェンディの専属護衛騎士であるフォスターは、ウェンディと揃いの衣装に身を包み、彼女の傍らに侍る。
魔法演術の参加者は皆、宮殿内にある大きなホールの控え室に揃っていた。
ホールは観覧席もあり、天井部分は塞がれず、青空が覗いている。
専属護衛騎士を持たないエルローディアは、ウェンディの父や母と同じく、ホプリエル侯爵家の一員として祭典の観覧席に座っていた。
ウェンディ達の暮らすこの国──オードゥライヤ王国では、四年に一度祭典が行われる。
この祭典は、建国にちなんだ大きなお祭りだ。
祭典は三日三晩行われるため、近隣の国からも大勢の見物客が訪れる。
国外の貴族も多くやって来るため、この三日間はオードゥライヤの王都はとても賑わい、人で溢れるのだ。
そして、この祭典の幕開けとしての催しで、この国で専属護衛騎士と契約を交わした貴族が「魔法演術」を行う。
幻想的な世界を創り上げ、この国に住まう全ての人々の幸せを願うための催し。
その大事な幕開けの魔法演術の最後を締めくくるのが、この国一番の力を持つ専属護衛騎士と、その主人なのだ。
四年前の祭典でも、ウェンディとフォスターは魔法演術の催しの最後を務めた。
その時には既にウェンディの魔法の腕は昔に比べ、大分落ちてはいたが今現在に比べ、まだ簡単な攻撃魔法を発動する事は出来た。
だけど、その時に比べて、今現在のウェンディの魔力も、魔法の腕も確実に落ちている。
ウェンディは自身に重く伸し掛る責任と、緊張感にふるり、と体を震わせた。
「……ウェンディ様。今日はしっかり魔法を発動してくださいよ。国内の貴族が多く集まっている今、この場所で魔法演術を失敗したら……ウェンディ様は国中の笑いものです。それに……あなたのお父様はどう思いますかね」
「わ、分かってる……分かってるわ、フォスター……」
「ふん。本当に分かっているんだか……」
フォスターははぁ、と溜息を零しつつ、ウェンディから顔を逸らす。
フォスターの横顔は、忌々しそうに歪められていて、ウェンディの隣に居るのが心底嫌だ、と言う気持ちを隠していない。
ウェンディとフォスターは、魔法演術を披露する者達が順々に外に出て行くのを見つめた。
ウェンディ達より先に演術を披露している貴族と、専属護衛騎士の華やかな魔法が繰り広げられ、観客席からはわっと歓声が上がっているのが、ウェンディの耳にも届いた。
「そろそろ私たちの出番です。さっさと済ませましょうウェンディ様」
「わ、分かったわフォスター」
フォスターの声に、ウェンディは頷き、先に歩き始めたフォスターに慌てて小走りで着いて行った。
956
あなたにおすすめの小説
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚
里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」
なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。
アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。
【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】
青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。
婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。
そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。
それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。
ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。
*別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。
*約2万字の短編です。
*完結しています。
*11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。
侯爵家を守るのは・・・
透明
恋愛
姑に似ているという理由で母親に虐げられる侯爵令嬢クラリス。
母親似の妹エルシーは両親に愛されすべてを奪っていく。
最愛の人まで妹に奪われそうになるが助けてくれたのは・・・
『悪役令嬢』は始めません!
月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。
突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。
と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。
アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。
ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。
そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。
アデリシアはレンの提案に飛び付いた。
そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。
そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが――
※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。
【完結】姉の婚約者を奪った私は悪女と呼ばれています
春野オカリナ
恋愛
エミリー・ブラウンは、姉の婚約者だった。アルフレッド・スタンレー伯爵子息と結婚した。
社交界では、彼女は「姉の婚約者を奪った悪女」と呼ばれていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる