「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

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一章

51話

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◇◆◇

 場所は変わり、ウェンディとナミアが乗る馬車の中──。

「お嬢様、ここから暫く馬車を走らせるとヴァン様が仰っていました。お腹は減っておりませんか? 小休憩までは時間がありますので、何かお腹に入れませんか?」
「そうね、確かに少しお腹が減っているかしら。ナミアも一緒に食べましょう?」
「ありがとうございます、お嬢様」

 ナミアは持参していた荷物の中から保温ポットとバスケットを取り出し、食事の準備を始める。
 保温ポットから温かいスープをお椀に注ぐ。

「お嬢様、まだ熱いので飲まれる際はお気を付けて」
「ありがとう、ナミア。ナミアも私の事は気にせず飲んでね?」
「はい、お嬢様。ありがとうございます」

 ナミアが用意してくれたスープに口をつけてほっと一息ついていると、他の食事を用意していたナミアがふと口を開いた。

「そう言えばお嬢様。ハーツラビュル伯爵様は、アヌジュの森に契約魔法に精通した方がおられると?」
「ええ、そうなの。伯爵が仰るには、そうらしいのだけど……。アヌジュの森って、私そんなに詳しくなくて」
「そうです、ね……。私もあまりあちらの地域には明るくありませんね……。森の中に住居を構えているのでしょうか?」
「そうなる、わよね? どんな方なのか分からないけど、お会いしてお話を聞ければいいのだけど……」

 ウェンディも、ナミアも。
 アヌジュの森に契約魔法に詳しい大賢者が居る、と言われていたのが数百年前の事だとは知らない。

 だが、その事実を知らない二人はその人物について想像を膨らませ、会話を楽しんだ。



 スープを飲み終わり、軽くお腹に食べ物を入れ終わえたウェンディは、ナミアに小さなバスケットにクラッカーを用意してもらい、御者台に座るヴァンに声をかけた。

「ヴァン、ナミアがクラッカーを用意してくれたんだけど、食べられるかしら?」
「ウェンディ? それは助かる。このまま貰うよ。窓から手渡してもらってもいいか?」

 御者台の真後ろの窓から声をかけていたウェンディに向かって、ヴァンが手を伸ばす。
 だがウェンディはヴァンの伸ばされた手に小さなバスケットを乗せる事はなく、窓から御者台に移った。

「ウェンディ!? 馬車が走っているのに危ないだろう!?」

 突然自分の横に移動してきたウェンディに、ヴァンはギョッとして叫ぶ。

「もし馬車が大きく揺れていたら、ウェンディが振り落とされていたかもしれない……! 頼むから危険な事はしないでくれ」
「ごめんさい、ヴァン。だけど、ヴァンの隣で話したくて」
「──そんな嬉しい事を言われたら怒れないじゃないか……」
「ふふ、ごめんなさい。今後は気を付けるわ、ヴァン」
「ああ、そうしてくれ」

 怒った表情のヴァンに、ウェンディは苦笑いを浮かべつつ小さなバスケットを差し出す。
 ヴァンは手網から片手を離すと、馬車の速度を少し落としつつクラッカーを手にして口に運ぶ。

「そう言えばね、ヴァン。さっき馬車の中でナミアと話してたんだけど、アヌジュの森がある地域の事をあまり知らないなって思って。ヴァンはこの地域の事って知ってる?」
「アヌジュの森があるのって確か……未開の地だと言われているタール地方だよな?」
「ええ、そうなの」
「タール地方に関する文献は騎士隊でも殆ど見た事が無いな……。今思えば、不思議なくらいあの地域については何の資料も無い……」
「そうなの……?」
「ああ。騎士隊でも、あの地域の詳細地図は見た事が無い……。一般隊員が閲覧不可能な場所に保管されている書庫には……確かあの地域の詳細が記載された地図は、……あったような気がする」
「……何か意図的に隠したいのかしら?」
「だが、あの部分は未開の地だぞ? 何を隠したいって言うんだ?」

 二人は暫くうんうんと頭を悩まし、考え続けたが、その答えには辿り着く事はできずに時間だけが過ぎていった。
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