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一章
64話
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ふっ、と意識を取り戻した侯爵は、薄暗さに眉を顰める。
「……寒い、どこだここは」
「あなた……!? 目が覚めましたの!?」
すぐ近くから自分の妻の声が聞こえ、侯爵は声のする方向にぱっと顔を向けた。
そして、体を動かそうとしたがどうにも上手く体が動かせない。
何か、縄のような物が体にくい込んでいるような気がして──。
邪魔をする何かを、魔法で燃やしてしまおうと声を発する。
「──拘束を、燃やせ!」
だが、侯爵の声に呼応して魔法が発動する気配が見えない。
「……? なんだ……? 燃やせ!」
首を傾げたが、もう一度魔法を、と思い侯爵が声を発する。だが、やはり魔法は発動する気配を見せず、もちろん拘束も解けない。
「な、なんだ……っ!? 何が起きている!?」
「お、落ち着いてくださいあなた! どうやら、私たちの魔法が封じられているようですわ」
「何だと!? そんな事──」
一体誰がそんな事をしたのか。
そう思い、叫んだ侯爵の声に答える男の声がすぐ近くでした。
「ホプリエル侯爵、それに侯爵夫人。悪いが、私の判断でお二人を拘束しました。……あなた方二人は許されざる行いをしましたので」
「──ハーツラビュル伯爵!? どうして貴様にそんな権限がある!? 早く私たちを自由にしろ! そうでなければまた痛い目を──」
そこまで叫んだ侯爵は、気付く。
命を奪いはしなかった。それに重症を負わせる事もしなかった。そんな事をしてしまえば、自分達も裁かれる可能性があった。
だから、動けない程度に痛め付けたはずなのに、どうして今目の前に居る伯爵は傷一つ無く、ぴんぴんしているのか──。
どうしてだ、と侯爵が混乱していると、伯爵の後ろから再び違う男の声が聞こえた。
「──ふはっ、そんなの簡単だ。私が治癒魔法で治癒したまで。あの程度の怪我ならば造作もない」
「──は?」
治癒魔法、など聞いた事が無い──。
そう考えた侯爵だったが。正しくは聞いた事くらいはあった。
だが、治癒魔法が使われていたのは数百年も大昔の話だ。
今は、誰も奇跡のような治癒魔法など、使える者はいない。
「な、何を言って……、そんな奇跡のような魔法……いや、だが……実際この男の傷が癒えている……」
「いくら愚かでも、自分の目で確認すれば認めざるを得ないだろう? 奇跡なんかでは無い。治癒魔法は存在する。お前達人間が愚かだから術式を理解出来ず、制御できず、使えないだけだ」
嘲笑混じりに見知らぬ男に言われ、侯爵は己が侮辱された、と感じて怒りで顔を真っ赤に染めた。
「──貴様っ!」
「侯爵と侯爵夫人。あなた方は、我が邸に無理やり押し入り、伯爵家当主たる私と後継者イアンを殺害しようとした……。そして、我が邸で保護しているウェンディ嬢を誘拐しようとした罪により、王家専属の騎士隊に引き渡す事が決まりました」
「……は? 貴様、何を……」
「いくら侯爵家とは言え、我が伯爵家を私情で屠ろうとした事実は重い。ホプリエル侯爵家がなんの咎めも受けぬ、とは思わないでください」
つらつらと言葉を紡ぐ伯爵に、侯爵も、侯爵夫人も唖然としてしまう。
「ウェンディ嬢を侯爵家の籍から抜いたのはあなた方だ。それなのに、彼女を取り戻しに来たと言う理由は正当な理由として認められない」
「だ、だがウェンディは我が邸に帰りたいと思っているはず……!」
「そ、そうよっ! あの子はどこ!?」
侯爵と侯爵夫人は急いで周囲を見回す。
だが、この場には伯爵と見知らぬ男、そして自分達の四人しかおらず、他の人はいない。
「ウェンディ嬢はヴァンと一緒におりますよ。……もう、あなた方には会いたくないそうです」
「うっ、嘘をつくな貴様! ウェンディがそのような事を言うはずが──」
「そうよ! あの子が私たち両親を見捨てるはずがないわ! 伯爵! お前がウェンディを無理やり閉じ込めているんだわ!」
「……何を言ってももう無駄だろう、ハーツラビュル伯爵とやら。この二人は、あの二人と共に王家の騎士隊に突き出してやれば良い。その後、私が王族に一言言っておいてやるさ」
「ヒュフースト様、そんな……あなた様のお手を煩わせる訳には……」
「なに。良い良い。それくらいはな。私も王族に用がある」
ヒュフーストがにんまり、と口角を上げて笑う。
王族? このヒュフーストという男は一体誰なんだ、と混乱する侯爵と侯爵夫人をそのままに、伯爵とヒュフーストはその場から去って行ってしまった。
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