「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

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一章

65話

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 ハーツラビュル伯爵と、ヒュフーストと呼ばれた男が去った後。
 それから侯爵と侯爵夫人が待とうとも、ウェンディが二人の前にやって来る事は無かった。

 そして、王家専属の騎士隊が伯爵邸にやって来た。
 罪人、四人を引き取りにやって来たのだ。


 罪人に装着される魔力封じの枷と、拘束具に体を縛られた侯爵と侯爵夫人が外に連れられてくると、そこでようやくウェンディの姿を見つけた。

「──ウェンディ! やっと会えた!」
「私の可愛い子! お願いだから王家の騎士隊に説明してちょうだい! 三人でホプリエル侯爵家に帰りましょう!」

 侯爵と侯爵夫人は、同じように捕まっているフォスターとエルローディアにも気付いているはずなのに、その二人には目もくれずウェンディに向かって必死に言葉を紡ぐ。

 ウェンディは、二人の言葉を聞き、不意に顔を向けた。

「──ウェンディ」

 ウェンディの隣にいたヴァンが心配そうに声をかけるが、ウェンディは安心させるように微笑んだ。

「大丈夫よ、ヴァン」

 そして、ゆっくり侯爵と侯爵夫人に近付いていく。

 ウェンディが自分達の方に歩いて来るのを見て、侯爵も侯爵夫人もぱっと表情を輝かせた。
 あんな事を言っていたが、結局ウェンディは自分達を見捨てる事は出来ないのだ。
 侯爵はそう考え、にやりと笑みを浮かべる。

 ウェンディが騎士隊に訴えを取り下げるとさえ言えば、あとは偉そうに立っている伯爵とヴァンを不意打ちで攻撃し、誘拐犯だと訴えて逆に騎士隊に拘束させれば良い。

「ウェンディ、やはりお前は私たちの娘だ。愛しい娘だよ」

 にたり、と醜く笑んだ侯爵の顔に、ウェンディは眉を顰めた。

 ──こんな人に、ずっと愛されたいと願っていたなんて。

 ウェンディはそっと侯爵から視線を逸らし、息を吸ってから再び真っ直ぐ視線を合わせる。
 そして、はっきりと言い切った。

「どれだけ侯爵に懇願されようとも、私はあなた方を許す事は出来ません。罰を受けてください」
「──ウェンディ! お前っ、ここまで育ててやった恩を忘れたか!」
「恩を仇で返すつもりなの、ウェンディ!?」

 ウェンディが訴えを取り下げないと分かるや否や、侯爵と侯爵夫人は顔を歪め、ウェンディを罵る。
 だが、どれだけ両親から罵られても。酷い言葉を言われても。
 今のウェンディはちっとも辛くない。

「ええ、確かに私を産んで、育てて下さった恩は一生忘れません」
「──ならば!」
「ですが、罪を犯したのならば償うべきです」

 真っ直ぐ、強い瞳で告げるウェンディ。

 侯爵と侯爵夫人は言葉を失い、ぱくぱくと口を動かすだけ。

 そんな二人に、ハーツラビュル伯爵がゆっくりと歩み寄った。

「お二人とも、もうよろしいですね。……罪人を、お願いします」

 伯爵の言葉に、控えていた騎士隊の面々が四人に近付いて行く。

 一人は、フォスターの前に。

「フォスター・シュバルハーツ。婦女暴行未遂の現行犯と聞き及んでいる。申し開きは王城にて聞こう。連行しろ!」
「ウェンディ様! ウェンディ様! 私はあなたをお慕いしているのです! あの時は、つい行き過ぎた行動を──」

 一人は、エルローディアの前に。

「エルローディア・ホプリエル嬢。あなたはこの国の騎士隊に所属している騎士に対して危害を加えようとした。傷害未遂の現行犯と聞き及んでいる。申し開きは王城で」
「いやあ! 待って、違うっ、私はそんな事していないわ!」

 エルローディアの罪名が、傷害未遂とは──。
 ウェンディがちらりとヴァンを見上げると、ヴァンはひょいと肩を竦めてからウェンディの耳元でこそりと呟いた。

「──ご令嬢が、騎士に夜這いをした、なんて知れ渡ってしまったら……きっとエルローディア嬢は一生表を歩けなくなる。それは流石に酷すぎるだろう?」
「なるほど、確かに……。醜聞騒ぎ所では無いわね」

 そして、一人は侯爵夫妻の前に。

「ホプリエル侯爵、及び侯爵夫人。両名は私的な理由でハーツラビュル伯爵と後継者であるイアン・ハーツラビュルを殺害しようとした事で間違いないな! また、ハーツラビュル伯爵が保護しているウェンディ嬢を誘拐しようとしたとも聞き及んでいる! 申し開きは、王城にて!」
「まっ、待て! 私たちはそんな事──」
「そうよ! 自分の娘を取り戻そうとして、何が──」

 ぎゃん! と喚く侯爵と侯爵夫人に、顔を顰めて話を聞いていたヒュフーストは我慢の限界だとばかりに「醜い」と呟き、指を鳴らした。

 途端に、侯爵と侯爵夫人の口が強制的に閉じられ、二人は驚愕に目を見開き、声にならない声を出していた。

「お手を煩わせてしまい、申し訳ございませんヒュフースト様」
「いい。王城へ行くぞ」
「──はっ」

 王家専属の騎士隊が、ヒュフーストに対して頭を下げる。

「ヒュフースト様……」

 やはり、ヒュフーストは王族となんらかの関係があるのだ。
 ウェンディが彼の名前を口にした時、ヒュフーストが振り返り、軽く手を上げた。

「私が王に口添えしといてやろう」
「ありがとうございます、ヒュフースト様」
「ああ」

 こくりと頷いたヒュフーストは、騎士隊に促されて馬車に乗り込んだ。
 次いで騎士隊の面々が馬に跨る。

「では、この度は罪人の捕縛感謝する。罪人の処遇は、追って連絡をする」
「分かりました」

 伯爵が返事をすると、騎士隊は罪人四人を乗せた馬車を走らせる。
 ほかの馬車に乗ったヒュフーストと、馬に跨った騎士隊の面々の姿が見えなくなるまで、ウェンディ達はずっとその場を動かなかった。
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