「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

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一章

66話

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「ウェンディ嬢」

 ウェンディとヴァンの背後から足音が聞こえ、話しかけられる。
 振り返ったウェンディとヴァンは、話しかけてきた男性──イアンに言葉を返した。

「兄上」
「イアン卿」

 イアンも、侯爵と侯爵夫人により怪我を負わされていたのだが、ヒュフーストの治癒魔法によって、彼の怪我は綺麗に治っていた。
 イアンは、気まずそうにウェンディに顔を向ける。

「……本当に、良かったのか? 確かに彼らは酷い事をしたが、ウェンディ嬢の実の両親で……」
「──いいんです。産み、育ててくれた事に感謝はしていますが……罪を犯したのであればちゃんと罪を償って欲しいと思っています。血の繋がりがあるからといって何でも許していては、ホプリエル侯爵家はにも変わらないと思います」

 もう、ウェンディ自身はあの家に戻るつもりはないけれど。

 侯爵家は、ここで終わってしまう訳ではない。
 次期後継者だっている。

 イアンは気まずそうに頭をかいて呟いた。

「そうだな……。あいつには手紙を送ってあるし……すぐに帰国するだろう」
「ええ。あとの事は、お兄様にお任せします。……帰国早々、大変な事を押し付けてしまって、お兄様には怒られてしまいそうですが」

 苦笑いを浮かべるウェンディに、イアンは豪快に笑った。

「これくらいの事対応するくらい、あいつには何ともないだろう。それより、帰国して自分の両親が行ってきた事。そして、ウェンディ嬢の状況を知れば、あいつだって文句は言えまい」
「──ふふっ、そうでしょうか?」
「ああ、きっとそうだろう」

 ウェンディとイアンが話していると、馬車の見送りをした伯爵が三人の下へやって来た。

「──ヴァン、それにウェンディ嬢」
「父上」
「ハーツラビュル伯爵」
「邸に入ろう。今後の事を、少し話しておきたい」

 今後について──。
 伯爵の言葉に、ウェンディはきゅっと唇を噛み締め、頷いた。

 不安そうにしているウェンディの手を、ヴァンは安心させるように力強く握った。




 場所を移動し、伯爵邸・応接室。
 イアンは仕事があるから、と邸に入った所で別れ、応接室にはウェンディとヴァン、そして伯爵が居た。

 ナミアがお茶の準備をしてくれて、準備を終えると応接室を退出する。

 紅茶を一口飲んだ伯爵が、徐に口を開いた。

「さて……ウェンディ嬢」
「は、はい!」

 伯爵から名前を呼ばれたウェンディは、ぴんっと背筋を伸ばして返事をする。
 あからさまに緊張した様子のウェンディに、伯爵は柔らかく笑って言葉を続けた。

「ははは、そんなに緊張しないでくれ。悲しい事も、辛い事も言うつもりはないからな」
「お気遣いありがとうございます、伯爵……」
「うむ。……今後、だが。ウェンディ嬢はどうしたい? 今はハーツラビュル伯爵家がウェンディ嬢を保護している形になっているが……もしウェンディ嬢がこのまま我々と一緒にいてもいいと思ってくれているなら、いつまでも邸に居てくれて構わないと思っているよ」

 優しく目を細め、そう提案してくれる伯爵にウェンディはきゅっと唇を噛み締め、答えた。

「ありがとうございます……。もし、ご迷惑でなければ、置いていただけると……嬉しいです。ですが! ただ置いていただこうとは思っておりません! 魔法が使えるようになりましたし、孤児院での魔法講師や、魔法に関する仕事に就こうと思っております!」
「魔法講師……? ウェンディ、そんな事を考えていたのか?」
「ええ。このまま、ヴァンや……伯爵のお世話になりっぱなしにはなれないもの。……ナミアも受け入れて下さっているのだし、せめてお仕事を見つけて、お返しをしなくては」
「そんな事を考えなくてもいいのに……。俺は騎士隊で働いているし、ウェンディとナミアを……その、や、養うくらいの給金なら……俺も稼いでる」

 しどろもどろになりつつ、それでもヴァンがウェンディとナミアを「養う」と口にした事に、伯爵は素直に感心した。
 ようやく二人の仲が進展したのか──。
 そう思った伯爵だったが、力一杯首を振り、ウェンディは否定した。

「そ、そんな事までヴァンに頼めないわ! ただでさえヴァンには沢山助けてもらってるのに、これ以上迷惑はかけられないもの! だから、私も働く!」
「だ、だがウェンディ……! ウェンディが無理に働かなくとも……っ!」
「大丈夫! 魔法が使えるようになって、とても嬉しいの。だけど、魔法が得意でない人は、この国に沢山いるでしょう? だから、そんな人達の役に立てれば、と思って」
「な、なら……! 貴族学校や、貴族相手の講師は──」
「それは、無理だわ……。この国の貴族相手に……私はきっと真剣に魔法を教える事が出来ないし、私より魔法の知識を持っている人は沢山いるもの。……魔法について、知識を欲しているけど……環境のせいで満足に魔法を学べない人達のために、私は教えたいと考えているの」
「ウェンディ……」

 ウェンディの言葉を受け、伯爵は顎に手を当て暫し考えていたが「いいんじゃないか」と頷いた。

「ハーツラビュル伯爵領には、いくつか孤児院がある。妻も何度か慰問に行っているから、ここから近い孤児院の場所を聞いておこう」
「──ほ、本当ですか伯爵!」

 ぱっと嬉しそうに表情を輝かせるウェンディに、伯爵は「任せなさい」と大きく頷いた。

「じゃあ、ウェンディ……。孤児院に行く時は必ず俺も一緒に行くから……。向かう日にちは俺に教えてくれ」
「えっ、でもヴァンは騎士隊のお仕事があるでしょう? 護衛は、多分大丈夫よ?」
「ウェンディが俺より強いのは十分分かってる……分かってるけど、心配なのは心配なんだ」

 必死に懇願するヴァンと、困り顔のウェンディ。
 二人を眺めていた伯爵は、何の気なしに口を開いた。

「……ヴァン、お前はこれから忙しくなるからウェンディ嬢に常に付き添うのは無理だぞ」
「──えっ!? それは、一体どう言う事ですか父上」
「フォスターが罪人として捕まった以上、次期騎士隊の隊長はお前しかいないだろう」

 あっさりとそう口にする伯爵に、ヴァンは驚きに目を見開き、ウェンディは嬉しそうにヴァンに顔を向けた。
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