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二章
8話
しおりを挟む「いやっしゃいませ」
穏やかな店主の声が、ウェンディとヴァンを出迎える。
店主は貴族街に店を構えているからか、マナーも完璧でウェンディの見た目や、過去のウェンディについての噂話を知っていても表情には出さず、二人が求めている品物を聞きに来た。
「本日は、どのような品物をお求めでしょうか?」
「お兄様に万年筆の贈り物をしたいと考えているのだけど、良さそうな品物はあるかしら?」
「ご兄弟様ですね。かしこまりました。ご年齢はおいくつでしょうか?」
「本人は二十歳よ」
「左様でございますか。それでしたら、あまり重厚な作りや豪奢な物ではなく、この辺りの万年筆がよろしいかと思います」
店主が案内してくれた場所に向かう。
するとそこには、使用時に邪魔にはならない程度の繊細な装飾が施された万年筆が揃えられていた。
それらを見たウェンディの瞳が輝くのが見えて、ヴァンは苦笑いを浮かべる。
そして、少し時間がかかりそうだな、と判断したヴァンは店主に声をかける。
「店主、ありがとう。じっくり見させてもらうよ。また質問したい事があったら呼んでもいいか?」
「勿論でございます。どうぞごゆっくりご覧下さい」
店主は頭を下げてその場を退がると、他の客の接客に回った。
ウェンディに視線を向けると、彼女は既に数々の万年筆を熱心に、真剣に吟味しているようで、暫くは万年筆に集中しているだろうな、とヴァンは判断する。
(俺も……何か店内の物を見てみるか……。ウェンディに贈り物もしたいし……)
ウェンディから離れ過ぎず、必ずウェンディが視界に入る距離で、ヴァンは店内の品物を見て回る。
女性の髪飾りや、コサージュ、アクセサリーなど、色々な物が置いてあり、ヴァンはそれらを眺めながらああでもない、こうでもないと心の中で呟く。
(小間物屋はこの店以外にもあるし……無理に買わなくてもいいか……)
何となくウェンディに似合うような、ピンとくる品物がみつからず、ヴァンはウェンディに視線を戻そうとした──。
その時。
ヴァンの視界に、硝子細工の美しい小物入れが入った。
「──これ」
繊細な細工で作られた蝶が優雅に舞い、蝶の下方には花々が咲き乱れている。
「見事、だな……」
思わず感嘆の溜息が出てしまう。
それほど、職人の細工が美しく、しかも驚く程に安価だった。
「これが、この値段……!? 嘘だろう」
ここで見つけたのも、何かの縁だろう。
そう考えたヴァンは、その硝子細工の小物入れを迷わず掴み、店主に会計を頼む。
「贈り物用で頼む」
それだけを告げ、未だ万年筆を熱心に選ぶウェンディをちらちらと確認する。
ウェンディはヴァンが買い物をしている事に気付いていないようで。
ヴァンがほっと胸を撫で下ろした時、綺麗にラッピングされた品物を手渡された。
「お待たせいたしました。どうぞ」
「あ、ああ。ありがとう」
ヴァンは支払いを済ませ、急いで自分の胸ポケットに購入した品物を仕舞う。
すると、ちょうどタイミング良くウェンディも万年筆を選び終えたようで、ぱっと顔を上げたウェンディと、ヴァンの視線がぱちり、と合った。
「ヴァン! お兄様のプレゼント、決まったわ」
「そうか、それは良かった。良いのを選べた?」
「ええ。お兄様のお好きな色と、好きなお花が細工されたこの万年筆にするわ」
嬉しそうに頬を赤らめて万年筆を掲げるウェンディに、ヴァンはついつい頭を撫でてしまう。
「も、もうヴァン! 小さい子供じゃないんだから、選べたくらいでこんな事しないで!」
「わ、悪い……つい癖になっているんだよ……」
可愛らしく怒るウェンディに、ヴァンは苦笑いで返す。
怒りながら会計に向かうウェンディの後を追いながら、ヴァンはこの幸せな買い物の時間がずっと続けばいいのにな、とついつい願ってしまう。
「お買上げ、ありがとうございました」
「ありがとう、また来るわ」
にこにこと上機嫌で店を出たウェンディとヴァン。
二人は、次の目的地に向かおうか、と話しながら歩き始めた。
そんな時──。
「ウェンディお義姉様、それに、ヴァン! た、助けて……!」
よく見知った声が背後から聞こえてきて、ウェンディとヴァンは驚き、振り向いた。
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