銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第三章 アルリナの影とケントの闇

エクア=ノバルティ

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 エクアとその両親は『南方の大陸ガデリ』の北部にある、『メッツェン』という町に住んでいた。
 そこは芸術の町として名高いらしい。
 エクアの母は画家で、父は医者だったそうだ。

 だがある日、飢饉が町を襲う。
 エクアの一家は飢えから逃れるために、別大陸であるクライエン大陸かビュール大陸を目指して、両方の大陸を結ぶ港町アルリナに訪れるつもりだった。
 しかし、その船旅の途中、海難事故に遭い、両親を失う。
 一人生き残った十二歳の少女エクアは、この港町アルリナで、一人、生きていくことになる。


 私は大陸ガデリについて覚えのある、朧げな情報を思い出す。

「たしか、北部地方は昨年、水害に見舞われて、作物の育ちが悪いと聞いていたな。まさか、町を捨てなければならないほどだったとは……」

「そうなんです。もぐもぐ、ああ、美味しい。メッツェンは芸術の町として栄えていましたが、その反面、農業商業が立ち遅れていて、そのあおりを受け、さらに七代目になる領主様があまり芸術に興味がなかったから救済が後回しに、もぐもぐ、ごくん。トマトの酸味と香草の香りが混じり合って、こんなパスタ初めて」

 どうやらエクアは久しぶりにまともな食事にありつけたようで、身の上話をしながらもフォークを動かす手が止まらない。
 彼女はギウが作ったトマトと香草のパスタから、干し肉を出汁に使った野菜スープを手にする。

「コクコクコク、ふぁぁあ~、暖かいよ~。スープにお肉の味が溶け込んで、それがお野菜に染みていて、美味しい~。えっと、それでですね……」


 エクアは港町アルリナで皿洗いなどの簡単な仕事をこなしながら、その傍らに絵を描き、それらを路上で売っていたそうだ。
 彼女は母の影響を受けて、将来は芸術家になりたいと願っていた。
 だから、絵で生計を成り立たせられないかと考えたのだ。

 だが、世の中そう甘くなく、絵は売れない。
 そこに現れたのが『ジェイドおじ様』だ。
 深い帽子と丸い眼鏡と真っ黒な鼻髭を生やしたジェイドおじ様は、エクアが描いていた、ある絵に注目する。それは……。


「その日は間違えて、憧れである『サレート=ケイキ先生』の絵を模倣した絵画を持ってきてしまったんです」
「サレート=ケイキ?」
「え、ご存じありませんか? 絵の世界では名の知らぬ天才画家ですよ」
「芸術関係は疎くてね。王都にある父の屋敷にも絵や彫刻の類があるが、誰のどんな作品なのかさっぱりだ。因みに、父もさっぱりだったそうだ」
「え、それじゃなんでお屋敷に芸術品が?」
「執事のオーキスが適当に見繕って飾り立てている。彼曰く、貴族は見栄えも大切だそうだ」
 

 私も父も貴族としての立場や政治家としての立場よりも、研究家としての側面が強く、普段は屋敷でも白衣を着ていた。
 私たちの興味のあるものは研究データ。
 そのおかげで他の貴族からは奇人変人に見られ、そのフォローにオーキスが走り回っていた。

「ともかく、そのサレート=ケイキという人物は凄い人物なんだな?」
「はい! 母と私の憧れの人です。いえ、多くの画家にとっての憧れの存在」
「なるほど、絵画界の巨匠というわけか……話の腰を折ってすまない。続けてくれ」


「はい、それじゃ……その私が描いたサレート=ケイキ先生の絵をジェイドおじ様が見て、売ってくれと……もふもふ、パンが柔らかくて美味しい」
「それで、売ったのか?」
「いえ、さすがに模倣した絵を売るわけには。ですが、ジェイドおじ様は私の絵を買い上げる代わりに、一枚欲しいと言われたので。一枚くらいなら、と……その時は、お金なくて、つい……」


 その後、ジェイドおじ様はエクアにこのアトリエを貸し与え、定期的にエクアの絵を買い上げるという約束をした。
 つまり、絵だけに集中できる環境を提供してくれたパトロン、といったところだろうか。

 この時点で、私の胸中に大きな違和感が宿る。
(アトリエを与えたパトロン? 何故、こんな町の片隅に?)
 絵の才能を見出したのならば、もっとよりよい環境に置くもの。
 それなのに、まるで誰かに見られることを恐れているかのように、こんな寂しい場所に少女一人で住ませるなんて……。
 私は小動物のようにパンをパクついているエクアをちらりと見る。
(ジェイドおじ様とやらは何を考えている?)


「エクア、そのジェイドおじ様というのは何者だ?」
「もふ? えっとそれは、北にある大都市『アグリス』の貴族様だそうです」
「貴族? アグリスではどういった立場の?」
「いえ、そこまでは。でも、とても庶民では手に入らないお高そうな服や宝石を身に着けてました」
「なんにせよ、金持ちというわけか」

――だが、貴族である証拠はない……。

「謎だな」
「え?」
「いや、なんでもない。それで、ジェイドおじ様がいつも絵を購入していくわけだ」
「はい。定期的に私のところに絵を買い付けに来るんですけど……今月はまだ来ていません。だから、お金がなくて」
「それで腹を空かせていたのか」
「はい……お恥ずかしい」

「はは、余計なことだったか。今月は姿を見せていないというが、普通ならいつ訪れるんだ?」
「月の最初には。でも、先月、私が絵の行方を尋ねたので、顔を出しにくいのかもしれません」
「連絡手段は?」

「あちらから尋ねてくるのでこちらからは。だから、あの路地裏でシアンファミリーの人に尋ねたんですが、最近は見ていないの一点張りでして。それでも強く尋ねたら、途中で口論になって……」
「最近は……なるほど……」


 今の会話だけでも疑問符はたくさんある。
 だが、現時点では理由は見えてこない。
 今は話の先を行くとしよう。
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