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第三章 アルリナの影とケントの闇
絵画
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――港町アルリナ・町外れ
エクアの家はアルリナの中心から離れた北西にあり、森の木々に囲まれた場所にポツンとあった。
木造の一階建てで、外壁や屋根は朽ちかけており、お世辞にも立派とは言えない。
「ここが私の家です。ジェイドおじ様からお借りしているんですよ」
「ジェイドおじ様? その名は、先程の傭兵たちとの会話にも出てきた名だが?」
「それは……」
「いや、全ては食事をしながらにしよう。なるほど、ここが君の家か」
「はい、ご覧の通り見た目はひどいですけど、雨漏りはしないので住むには困りません」
そうはいうものの、壁の一部は蔦に侵食され、屋根の端は腐っている。嵐の一つでも来ると崩壊しそうな家だ。それでも……私はエクアの家を見ながら呟く。
「私の城より立派だな」
「え?」
「私の住む城は屋根や壁すらない場所があちらこちらにあるからな。雨漏りがしないだけでも立派ものだ」
「お城、ですか?」
「そうか、身分を明かしていなかったな。私は古城トーワの領主ケントだ」
「…………え?」
エクアは身体を石のように固める。
この様子だと、次に八百屋の若夫婦のようにひれ伏す可能性がある。
少女にその様な態度を取られてはかなり気まずい。
だから、そうなる前に会話を無理やり進める。
「とにかく食事を取ろう。腹が減っていては頭が回らない。エクア、家の中へ案内してくれないか、ほらほら」
「え、ええ、はい、それじゃ……」
エクアの背中を言葉で押し出し、木造でできたボロボロの玄関の扉を開けさせる。
呻き声のような音を上げる玄関扉を開けた途端、重みのある匂いが鼻腔を突いた。
「これは、絵の具の匂いか?」
「はい。慣れないと息苦しいかもしれません。ごめんなさい」
「何も謝る必要はない。エクアは画家なのかな?」
「い、一応。まだ、卵ですらないですが。あ、どうぞ、中へ」
「それでは、邪魔するとしよう」
「ギウギウ」
扉をくぐると、数枚の絵画が出迎えてくれた。
部屋の中心にはカンバスがあり、その傍に五枚の絵画が置かれてあった。
「ほぉ、凄いな」
「ギウギウギウ」
「何、一枚購入して城に飾ろう? たしかにそれは悪くないな」
「ギウッ」
「ふふ。しかし、絵の話の前にまずは食事だ。ギウ、頼んだぞ」
「ギウギウ!」
ギウは馬から必要な食料品や調味料を荷解きに外へ出る。
すると、外に出たギウが疑問の宿る声を上げてきた。
「ギウ?」
彼の声が気になり、私は玄関から顔を出す。
「どうした、ギウ?」
「ギウ、ギウギウ」
ギウは顔を私に向けたまま、尾ひれを森の奥へ振った。
そこは森の樹冠によって陽の光が遮られた、草木が絡み合う場所。
私は銀の瞳に力を宿し、ギウに視線を向ける振りをしつつ森を見通す。
「ほぉ~」
頭からすっぽりローブをかぶった人物が、単眼鏡でこちらを見張っている様子。雰囲気は素人……。
私は彼に気づかれる前に視線を切り、ギウに微笑みかける。
「ふふ、ギウ。放っておこう。それよりも食事の準備だ」
ギウは必要な食材を手に、家の奥にある台所に進んでいった。
私も家に戻り、エクアと一緒に料理を待つ。
私はザっと絵を見回す。そこで、部屋の隅にあった一枚の絵に目が止まった。
それは港の絵だった。
「ん、この絵は他と画風が違うな」
「あ、それは……私の絵です」
「私の絵? 全部君の絵じゃないのか?」
「そうですけど、他のは尊敬する先生の物真似で、その絵は私のオリジナルなんです」
「なるほど」
部屋を陣取る五枚の絵は塗料の濃淡が繊細で、人物や風景が浮き出たような雰囲気を持っている。
しかし、いま私が見ている絵は淡い色使いが中心で、絵の厚みというものを感じない。
その代わりに、奥行きというもの感じることができる。
私は港の絵を手に取り、じっくりと拝見する。
「ふむ、この絵画は良いな」
「え?」
「港から海の向こうに繋がる世界の広さというものを感じる。これが君の絵なんだね?」
「は、はいっ」
「こちらの物真似の絵も、世界を中心にギュッとまとめた感じで迫力があるが、私は君のオリジナルである、広さを訴える絵の方が好みだな」
「あ、あ、ありがとうございますっ!」
「あはは、礼を言われることではない。私は芸術に関しては門外漢。そのような者に褒めてもらっても嬉しくもなかろう」
「そんなことありませんっ。私の絵を直接褒めてもらうなんて、とても、とても、とても……とても……とても…………」
ゆっくりと、エクアの声が沈んでいく。
彼女は自分の絵をちらりと見て、物真似の絵に視線を移し、言葉を閉じてしまった。
そのただならぬ雰囲気から、私は事の問題がこれらの絵にあると感じ取る。
「この絵画が、シアンファミリーと関係あるのだな?」
「っ!? はい……」
「そうか。ゆっくりでいい。いったい何があったのか、順を追って聞かせてくれ」
「はい、それは……」
エクアは声に出そうとするが、まだ迷いがあるのか、声は喉元で止まってしまう。
私はそれを急かさず、じっと待った。
そうこうしているうちに、ギウが料理を作り終えたようだ。
そこで、食事を進めながら、エクアから話を伺うことにする。
暖かな食事が、彼女の固い心を和らげてくれることを願って……。
その思いは通じたようで、エクアは訥々と両親を失い、シアンファミリーと関わりを持ってしまった今までを話し始めた。
エクアの家はアルリナの中心から離れた北西にあり、森の木々に囲まれた場所にポツンとあった。
木造の一階建てで、外壁や屋根は朽ちかけており、お世辞にも立派とは言えない。
「ここが私の家です。ジェイドおじ様からお借りしているんですよ」
「ジェイドおじ様? その名は、先程の傭兵たちとの会話にも出てきた名だが?」
「それは……」
「いや、全ては食事をしながらにしよう。なるほど、ここが君の家か」
「はい、ご覧の通り見た目はひどいですけど、雨漏りはしないので住むには困りません」
そうはいうものの、壁の一部は蔦に侵食され、屋根の端は腐っている。嵐の一つでも来ると崩壊しそうな家だ。それでも……私はエクアの家を見ながら呟く。
「私の城より立派だな」
「え?」
「私の住む城は屋根や壁すらない場所があちらこちらにあるからな。雨漏りがしないだけでも立派ものだ」
「お城、ですか?」
「そうか、身分を明かしていなかったな。私は古城トーワの領主ケントだ」
「…………え?」
エクアは身体を石のように固める。
この様子だと、次に八百屋の若夫婦のようにひれ伏す可能性がある。
少女にその様な態度を取られてはかなり気まずい。
だから、そうなる前に会話を無理やり進める。
「とにかく食事を取ろう。腹が減っていては頭が回らない。エクア、家の中へ案内してくれないか、ほらほら」
「え、ええ、はい、それじゃ……」
エクアの背中を言葉で押し出し、木造でできたボロボロの玄関の扉を開けさせる。
呻き声のような音を上げる玄関扉を開けた途端、重みのある匂いが鼻腔を突いた。
「これは、絵の具の匂いか?」
「はい。慣れないと息苦しいかもしれません。ごめんなさい」
「何も謝る必要はない。エクアは画家なのかな?」
「い、一応。まだ、卵ですらないですが。あ、どうぞ、中へ」
「それでは、邪魔するとしよう」
「ギウギウ」
扉をくぐると、数枚の絵画が出迎えてくれた。
部屋の中心にはカンバスがあり、その傍に五枚の絵画が置かれてあった。
「ほぉ、凄いな」
「ギウギウギウ」
「何、一枚購入して城に飾ろう? たしかにそれは悪くないな」
「ギウッ」
「ふふ。しかし、絵の話の前にまずは食事だ。ギウ、頼んだぞ」
「ギウギウ!」
ギウは馬から必要な食料品や調味料を荷解きに外へ出る。
すると、外に出たギウが疑問の宿る声を上げてきた。
「ギウ?」
彼の声が気になり、私は玄関から顔を出す。
「どうした、ギウ?」
「ギウ、ギウギウ」
ギウは顔を私に向けたまま、尾ひれを森の奥へ振った。
そこは森の樹冠によって陽の光が遮られた、草木が絡み合う場所。
私は銀の瞳に力を宿し、ギウに視線を向ける振りをしつつ森を見通す。
「ほぉ~」
頭からすっぽりローブをかぶった人物が、単眼鏡でこちらを見張っている様子。雰囲気は素人……。
私は彼に気づかれる前に視線を切り、ギウに微笑みかける。
「ふふ、ギウ。放っておこう。それよりも食事の準備だ」
ギウは必要な食材を手に、家の奥にある台所に進んでいった。
私も家に戻り、エクアと一緒に料理を待つ。
私はザっと絵を見回す。そこで、部屋の隅にあった一枚の絵に目が止まった。
それは港の絵だった。
「ん、この絵は他と画風が違うな」
「あ、それは……私の絵です」
「私の絵? 全部君の絵じゃないのか?」
「そうですけど、他のは尊敬する先生の物真似で、その絵は私のオリジナルなんです」
「なるほど」
部屋を陣取る五枚の絵は塗料の濃淡が繊細で、人物や風景が浮き出たような雰囲気を持っている。
しかし、いま私が見ている絵は淡い色使いが中心で、絵の厚みというものを感じない。
その代わりに、奥行きというもの感じることができる。
私は港の絵を手に取り、じっくりと拝見する。
「ふむ、この絵画は良いな」
「え?」
「港から海の向こうに繋がる世界の広さというものを感じる。これが君の絵なんだね?」
「は、はいっ」
「こちらの物真似の絵も、世界を中心にギュッとまとめた感じで迫力があるが、私は君のオリジナルである、広さを訴える絵の方が好みだな」
「あ、あ、ありがとうございますっ!」
「あはは、礼を言われることではない。私は芸術に関しては門外漢。そのような者に褒めてもらっても嬉しくもなかろう」
「そんなことありませんっ。私の絵を直接褒めてもらうなんて、とても、とても、とても……とても……とても…………」
ゆっくりと、エクアの声が沈んでいく。
彼女は自分の絵をちらりと見て、物真似の絵に視線を移し、言葉を閉じてしまった。
そのただならぬ雰囲気から、私は事の問題がこれらの絵にあると感じ取る。
「この絵画が、シアンファミリーと関係あるのだな?」
「っ!? はい……」
「そうか。ゆっくりでいい。いったい何があったのか、順を追って聞かせてくれ」
「はい、それは……」
エクアは声に出そうとするが、まだ迷いがあるのか、声は喉元で止まってしまう。
私はそれを急かさず、じっと待った。
そうこうしているうちに、ギウが料理を作り終えたようだ。
そこで、食事を進めながら、エクアから話を伺うことにする。
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