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第六章 活気に満ちたトーワ
目指す先は靄の中
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フィナの言葉を受けて、私は椅子を少し後ろにずらし、銃の置いてある机から距離を取る。
「今の話は……本当か?」
「嘘なんて言わないよ。ほんとにほんと。まぁ、破壊力がどの程度かは予測に過ぎないけど。見た目は普通の銃でも、さすがは古代人の遺物。ヤバいなんて代物じゃない」
「そうか……一度、アルリナの町で発砲しようとしたが、しなくてよかった」
「うわ~、危機一髪。となると、銃自体も普通のものじゃないはず」
と、彼女は言って、無造作に銃を手に取る。
「おい、気をつけろっ」
「大丈夫だって。ちょっと刺激しただけで何かが起こるんだったら、あんたが真っ先に死んでるって」
「それはそうだろうが」
「あまり臆病なのは研究者には向かないよ~、と」
フィナは私に視線を向けることなく、真実の瞳を使い銃を調べている。
「……うん、やっぱりなにかある」
ポシェットから小さな工具を取り出し、銃のグリップに当てる。
「何をしている?」
「グリップのパネル部分になんらかの動力源があるみたい。見た目は何ともないけど、ナルフに微細な継ぎ目が見えるから、そこに工具を噛ませてっと……よし、開いた」
銃の持ち手、グリップパネルの上の部分に、先端の平たい工具を押し込み、下へ押し出す。
すると、グリップパネルの表面が外れ、中から半透明の水晶が姿を現した。
私は頭を伸ばし、それを覗き込む。
「なんだ、それは?」
「わかんない。でも、この水晶は魔導と機械が融合したものっぽい。何かの情報媒体? いえ、接続媒体……たぶん、何らかのエネルギーか、何かしらのコードが水晶と繋がり、何かをするもの。つまり、わかんない」
「なんにせよ、ただの銃ではないということか」
「そうなる。でも、普通の銃としての機能も持っているみたいだから、シリンダーに普通の銃弾を入れたら普通に使えるよ」
「銃弾を製造しても損することはないわけか。しかし、古代人も奇妙な武器を造る。見た目は銃であり銃としての機能を持ちながら、その実は強力な破壊兵器とは……」
「彼らは私たちと違うから……ふむ」
フィナは言葉を閉じ、銃を見たかと思うと私の目を真っ直ぐと見てきた。
「色々興味深い。これは腰を据えてこの周辺を調査したいかも」
「なに?」
「しばらく滞在してあげるって言ってんの」
「誰も頼んでないが?」
「なに言ってんのよ、錬金術を操れる私がいると何かと便利よ」
「たしかにそうだが……厄介事を抱えそうでな」
「何よそれっ。わかった、もうちょっと張り込んであげる。銃弾の製造代は私が持つ。家賃代わりに取っておいて」
「それはありがたい話……わかった。歓迎とまではいかないが、滞在を許そう」
「そこは歓迎しなさいよ!」
「そうは言ってもな。テイローの長がトーワに滞在し、遺跡に興味を示したとなるとヴァンナスの目が気になる」
「え、何を言ってるの? 私は名も知れぬ旅の錬金術士。ただのフィナだけど?」
と言って、フィナはニヤリと笑った。
この子は若くして心の芯から曲者に浸かっているようだ。
私は腕組みをして、ため息とともに肩を落とす。
そんな私を見た彼女は私の好奇心をくすぐるような言葉を生んだ。
「あんただって興味あるでしょ? 遺跡」
「まぁな」
「こんな危ない兵器が発掘される遺跡。領主として、最低限の安全確認くらい必要でしょ?」
「たしかに」
「あそこには古代人の知識が眠っている。錬金の知識がなくても、あんたも研究者。誰にも邪魔されることなく、観察してみたいとは思わない?」
「わかったっ、負けたよ。君の話に乗ろう」
「やった!」
「だが、報告書によると遺跡には封印がしてあるらしい。おそらく、強力な結界が張られているはずだ。だから、中には入れないと思うぞ」
「それは行って見てみないと。ま、私なら余裕っしょ」
「君はテイローの長だからな。それをヴァンナスに知られると事か。だが幸い、君をテイローと知ってるのはエクアだけ。彼女に口止めをして、私がヴァンナス宛の報告書に書かなければテイローの長がここにいることは誰にもわからないな」
「ヴァンナスには秘密ってことね。いいね~」
フィナはぴっと両指を揃えてこちらへ向けた。
そこから眉を跳ねて、ねっとりとした声を上げる。
「でもさ~、その様子だと、あんたってヴァンナスをあんまり信用してない、って感じするよねぇ~」
「勝手な憶測を……ヴァンナスが出てきたら、調査は宮廷錬金術師と魔導師のものになり、私たちは放り出されるからだ。それにせっかく住めるようになってきたこの城を手放したくはない」
「ふん、まぁいっか。そういうことにしてあげる……でも、住めるような城なの、ここ?」
「失礼な。君は最初の古城トーワの状態を知らないからそういうことが言えるんだ。話はここまでにして、君の部屋に案内しよう。そろそろ準備も終えている頃だろうし」
「あ、それなら、地下室にしてくれない。地下があれば」
「地下?」
「そ、地下。今日は用意してくれた部屋で寝るけど、今後、研究を兼ねる部屋にするなら地下の方が安全だから」
「研究には気温や湿度変化が一定に保てる場所がいいからな。それに錬金術は危険な薬品類を扱うので、いざという時、封鎖しやすくか。わかった、用意しよう。だが、地下へ続く階段はまだ未整備だったはず。そこはゴリンに頼むか」
大きな爆弾を抱えたような気もするが、錬金術士……彼女は『師』か。錬金術師が滞在してくれるのは心強い。
それに彼女の言うとおり、遺跡に興味はある。
ヴァンナス国とランゲン国の牙を折るほどの遺跡。
どういった遺跡なのか? そこには何があるのか?
このトーワの大地が荒れている理由は?
この銃の他に、もっと危険なモノが眠っているのか?
これらの好奇心に加え、ヴァンナスへの信頼に対する揺らぎ……。
私はヴァンナスに忠誠を誓っているが、研究者として議員として過ごし、そこで得た知識と経験と思いが危険信号を発する。
ヴァンナスは強大で、数多の国家と比べると豊かでまともな部類だ。
しかし、一部の者が知識を独占し、奴隷制度などの前時代的な考え方を改めようとしない。
そこに理由があるのはわかっている。
古代人の力を手にしてしまったがため、彼らは知識の力を恐れた。先行する知識により物質的発展が加速され、それに精神的発展が追いつかず、今以上の歪みが生まれかねないと考えている。
だが、このような状態で権力者のみがさらなる知識と力を得れば権力者と庶民の格差は絶対的なものになり、平等や公平という概念は消えてなくなるのではないだろうか?
言うまでもなく、人に欲があり、優越感劣等感があるかぎり、完全なる平等公平など不可能なのはわかっている。
だからこそせめて、機会だけは平等で公平であるべきだと私は考える。
私は実践派ではないが、彼らの考え方に共感できる部分がある。
それは、知識を得る機会は皆にあるべきだという考えだ。
もちろん、無体な者が知識を得れば様々な問題を起こすことはわかっているが、閉ざされた世界に生きる者たちのみが知識を独占するよりも得るものは大きいと思っている。
これらは私の身勝手な理想だ……その理想のために、私は左遷された。
しかし今、その理想が手のうちに宿る可能性が見えた。
そうであるならば、利用しない手はない…………と、ここまで触れて、自分が研究者ではなく、政治家としての色が濃くなっていることに気づく。
いや、馬鹿げた思想家かもしれない。それどころか、世界をどう変えたいだのと王のような振る舞いをしようとしている……どうやら私は、自分が思っている以上に危険な理想家であり野心家のようだ。
これはしっかり、自分を見極めないと、誤った道を歩みかねないな。
「今の話は……本当か?」
「嘘なんて言わないよ。ほんとにほんと。まぁ、破壊力がどの程度かは予測に過ぎないけど。見た目は普通の銃でも、さすがは古代人の遺物。ヤバいなんて代物じゃない」
「そうか……一度、アルリナの町で発砲しようとしたが、しなくてよかった」
「うわ~、危機一髪。となると、銃自体も普通のものじゃないはず」
と、彼女は言って、無造作に銃を手に取る。
「おい、気をつけろっ」
「大丈夫だって。ちょっと刺激しただけで何かが起こるんだったら、あんたが真っ先に死んでるって」
「それはそうだろうが」
「あまり臆病なのは研究者には向かないよ~、と」
フィナは私に視線を向けることなく、真実の瞳を使い銃を調べている。
「……うん、やっぱりなにかある」
ポシェットから小さな工具を取り出し、銃のグリップに当てる。
「何をしている?」
「グリップのパネル部分になんらかの動力源があるみたい。見た目は何ともないけど、ナルフに微細な継ぎ目が見えるから、そこに工具を噛ませてっと……よし、開いた」
銃の持ち手、グリップパネルの上の部分に、先端の平たい工具を押し込み、下へ押し出す。
すると、グリップパネルの表面が外れ、中から半透明の水晶が姿を現した。
私は頭を伸ばし、それを覗き込む。
「なんだ、それは?」
「わかんない。でも、この水晶は魔導と機械が融合したものっぽい。何かの情報媒体? いえ、接続媒体……たぶん、何らかのエネルギーか、何かしらのコードが水晶と繋がり、何かをするもの。つまり、わかんない」
「なんにせよ、ただの銃ではないということか」
「そうなる。でも、普通の銃としての機能も持っているみたいだから、シリンダーに普通の銃弾を入れたら普通に使えるよ」
「銃弾を製造しても損することはないわけか。しかし、古代人も奇妙な武器を造る。見た目は銃であり銃としての機能を持ちながら、その実は強力な破壊兵器とは……」
「彼らは私たちと違うから……ふむ」
フィナは言葉を閉じ、銃を見たかと思うと私の目を真っ直ぐと見てきた。
「色々興味深い。これは腰を据えてこの周辺を調査したいかも」
「なに?」
「しばらく滞在してあげるって言ってんの」
「誰も頼んでないが?」
「なに言ってんのよ、錬金術を操れる私がいると何かと便利よ」
「たしかにそうだが……厄介事を抱えそうでな」
「何よそれっ。わかった、もうちょっと張り込んであげる。銃弾の製造代は私が持つ。家賃代わりに取っておいて」
「それはありがたい話……わかった。歓迎とまではいかないが、滞在を許そう」
「そこは歓迎しなさいよ!」
「そうは言ってもな。テイローの長がトーワに滞在し、遺跡に興味を示したとなるとヴァンナスの目が気になる」
「え、何を言ってるの? 私は名も知れぬ旅の錬金術士。ただのフィナだけど?」
と言って、フィナはニヤリと笑った。
この子は若くして心の芯から曲者に浸かっているようだ。
私は腕組みをして、ため息とともに肩を落とす。
そんな私を見た彼女は私の好奇心をくすぐるような言葉を生んだ。
「あんただって興味あるでしょ? 遺跡」
「まぁな」
「こんな危ない兵器が発掘される遺跡。領主として、最低限の安全確認くらい必要でしょ?」
「たしかに」
「あそこには古代人の知識が眠っている。錬金の知識がなくても、あんたも研究者。誰にも邪魔されることなく、観察してみたいとは思わない?」
「わかったっ、負けたよ。君の話に乗ろう」
「やった!」
「だが、報告書によると遺跡には封印がしてあるらしい。おそらく、強力な結界が張られているはずだ。だから、中には入れないと思うぞ」
「それは行って見てみないと。ま、私なら余裕っしょ」
「君はテイローの長だからな。それをヴァンナスに知られると事か。だが幸い、君をテイローと知ってるのはエクアだけ。彼女に口止めをして、私がヴァンナス宛の報告書に書かなければテイローの長がここにいることは誰にもわからないな」
「ヴァンナスには秘密ってことね。いいね~」
フィナはぴっと両指を揃えてこちらへ向けた。
そこから眉を跳ねて、ねっとりとした声を上げる。
「でもさ~、その様子だと、あんたってヴァンナスをあんまり信用してない、って感じするよねぇ~」
「勝手な憶測を……ヴァンナスが出てきたら、調査は宮廷錬金術師と魔導師のものになり、私たちは放り出されるからだ。それにせっかく住めるようになってきたこの城を手放したくはない」
「ふん、まぁいっか。そういうことにしてあげる……でも、住めるような城なの、ここ?」
「失礼な。君は最初の古城トーワの状態を知らないからそういうことが言えるんだ。話はここまでにして、君の部屋に案内しよう。そろそろ準備も終えている頃だろうし」
「あ、それなら、地下室にしてくれない。地下があれば」
「地下?」
「そ、地下。今日は用意してくれた部屋で寝るけど、今後、研究を兼ねる部屋にするなら地下の方が安全だから」
「研究には気温や湿度変化が一定に保てる場所がいいからな。それに錬金術は危険な薬品類を扱うので、いざという時、封鎖しやすくか。わかった、用意しよう。だが、地下へ続く階段はまだ未整備だったはず。そこはゴリンに頼むか」
大きな爆弾を抱えたような気もするが、錬金術士……彼女は『師』か。錬金術師が滞在してくれるのは心強い。
それに彼女の言うとおり、遺跡に興味はある。
ヴァンナス国とランゲン国の牙を折るほどの遺跡。
どういった遺跡なのか? そこには何があるのか?
このトーワの大地が荒れている理由は?
この銃の他に、もっと危険なモノが眠っているのか?
これらの好奇心に加え、ヴァンナスへの信頼に対する揺らぎ……。
私はヴァンナスに忠誠を誓っているが、研究者として議員として過ごし、そこで得た知識と経験と思いが危険信号を発する。
ヴァンナスは強大で、数多の国家と比べると豊かでまともな部類だ。
しかし、一部の者が知識を独占し、奴隷制度などの前時代的な考え方を改めようとしない。
そこに理由があるのはわかっている。
古代人の力を手にしてしまったがため、彼らは知識の力を恐れた。先行する知識により物質的発展が加速され、それに精神的発展が追いつかず、今以上の歪みが生まれかねないと考えている。
だが、このような状態で権力者のみがさらなる知識と力を得れば権力者と庶民の格差は絶対的なものになり、平等や公平という概念は消えてなくなるのではないだろうか?
言うまでもなく、人に欲があり、優越感劣等感があるかぎり、完全なる平等公平など不可能なのはわかっている。
だからこそせめて、機会だけは平等で公平であるべきだと私は考える。
私は実践派ではないが、彼らの考え方に共感できる部分がある。
それは、知識を得る機会は皆にあるべきだという考えだ。
もちろん、無体な者が知識を得れば様々な問題を起こすことはわかっているが、閉ざされた世界に生きる者たちのみが知識を独占するよりも得るものは大きいと思っている。
これらは私の身勝手な理想だ……その理想のために、私は左遷された。
しかし今、その理想が手のうちに宿る可能性が見えた。
そうであるならば、利用しない手はない…………と、ここまで触れて、自分が研究者ではなく、政治家としての色が濃くなっていることに気づく。
いや、馬鹿げた思想家かもしれない。それどころか、世界をどう変えたいだのと王のような振る舞いをしようとしている……どうやら私は、自分が思っている以上に危険な理想家であり野心家のようだ。
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