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第七章 遺跡に繋がるもの
絶対の結界
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フィナはナルフを使い、入口を舐めるように調べている。
そして、賞賛とも驚愕とも言える声を漏らした。
「ヴァンナスの本気か。おばあちゃんが言ってたけど、ここまでなんて……」
「フィナ、何かわかったのか?」
「うん、まぁね。洞窟の入り口全体に結界が張られてる。ま、ヤバい毒だか細菌だかが蔓延してるっていうし。何より誰も入れたくないだろうから、これは予想できてたんだけど。その結界が……まさか、複製多重結界だなんて。初めて見た」
「複製多重結界? 聞きなれぬ言葉だが、それは?」
「この結界はね、壊れるとその瞬間に複製を創り出すの。しかも、一枚が壊れたら、二枚に。二枚が壊れたら四枚に。一枚の強度は、最も威力のある光の魔法『クラテス』でようやく破れるほどのもの」
光魔法『クラテス』――光を収束させ、解き放つ魔法。破壊範囲は狭いが、一点での破壊力においては、どの魔法にも追随を許さない。
一流の魔導士ともなれば強固な城の城壁さえも、ケーキを切り分けるよりも簡単に引き裂いてしまうという。
過去には海を割った者もいると言われる魔法だ。
「その魔法を以ってしても、一枚を破るのがやっとであり、破ったとしてもすぐさま複製が作られる。絶対に破れない結界か……動力の供給はどこから?」
「それはあの岩の塊から」
フィナは結界内部にある洞窟入り口近くの岩を指差す。
「あれ、岩に擬装してるけど充填石。桁違いの魔力を充填させてる。軽く二百年は持つくらいのね。売ったら、一生ウハウハ。余りの高額さで買い取ってくれる人がいないだろうけど」
「そうか、それほどまでにヴァンナスは中に人を入れたくないのか」
「そうっぽいね。さらに付け加えるなら、あの充填石には微量な空間の力が宿ってる」
「空間の力?」
「私、時間と空間を専門とする錬金術師だからわかったんだけど、普通ならたぶんわからない。おそらく、万が一結界を破る者が現れても、あの石からヴァンナスに警報が渡り、すぐさま兵士が転送魔法で現れる仕組みね」
「なるほど、これがヴァンナスの本気か……」
絶対に破られない結界。
強力無比の魔法で一枚の結界を破っても、複製が生み出され結界は倍になる。
結界の動力源は結界内部にあり、絶対に手が出せない。
もし、これらを破る者が現れても、すぐさま転送で兵士が現れ囚われる。
絶対に侵入を許さない結界……。
「我々ではこうやって入り口を見物するのがやっとか」
「ふふ、そうでもないよ」
「なに?」
「複製多重結界は絶対の結界。と、言われたのは今日まで。私ならこれくらい破れる。ま、できるのは世界で私くらいでしょけどねっ」
フィナは両手を腰に当てて、ふんぞり返っている。
まぁ、これほど堅固な結界を破れると豪語する自信があるのならば、この態度も納得か。
私は結界を破る方法を尋ねる。
「どうやって破る気だ?」
「ナルフで調べてわかったけど、結界は三十二枚の構造になってて、それら全てに固有の周波数があって全部バラバラ。普通ならどうしようもない」
「三十二枚? 誰か破ろうとして増えた結果か?」
「いえ、初めから三十二枚っぽい。それだけでどんだけって感じなんだけど……少し話がズレるけど、稼働年数はザっと百年近く。つまり、百年間誰も立ち入っていないってことになる」
「っ!? ということは、古城トーワの地下に書かれた数式は遺跡から得た知識ものではない、となるぞ!」
「それよ! つまり、あの数式は地球人らしき存在が、自力で生み出したってわけ。そう、古代人に匹敵する知識をね」
「あれを書いた者は何者なんだ……?」
仮に、勇者と呼ばれた地球人よりも進んだ時代からやってきた者だとしても、僅か二百数十年程度で古代人に匹敵する知識を得られるとは到底思えない。
遺跡から知識を得ていないとするならば、トーワの地下に文字を書いた者の正体は?
私は言葉を失い、ただ黙する。
一方、フィナはというと、軽く首を横に振り、気持ちを入れ替えるように言葉を出した。
「とりあえず、わかんないことは放っておくとして。結界の破り方に話を戻すよ」
「ああ、そうだな。今のところ情報がなさすぎる。話を戻してくれ」
「うん、それじゃ……えっと、この三十二枚の結界だけど、周波数を一つに同期して、一気に破れば結界は簡単に壊れる。複製も作られる瞬間は周波数が一緒だから、生まれることなく終わっちゃう」
「それじゃあ、破れるのか?」
「できるけど、結局充填石から通報が飛んで捕まっちゃうし。それを防ぐには内部の充填石をどうにかしないと」
この説明を受けて、エクアが神妙に言葉を漏らす。
「結界を破壊しても知られてしまう。そのためには結界を破壊せずに、内部の充填石を止めなければならない……それは不可能。絶対の結界。凄いですね」
「そうね。他にも手はないことはないけど、問題は結界内の状態がはっきりしないってところかな」
「どういうことですか?」
「ナルフで見た感じ、結界内の入口周辺に汚染の様子は見えない。でも、自信がないの。結界が干渉して、観測を妨害してるから……だけど……いえ、だめね……」
フィナはナルフと結界と充填石をちらりちらりと見ながら、ブツブツと呟き考えに耽る。
しばらく時が経ち、彼女の考えがまとまったようで、それを私たちに披露した。
「三十二の結界の周波数を同期させ、私はその周波数と同じ結界を纏う。そうすれば、結界を素通りできるから。そして、内部にある充填石を無効化する。もちろん、ヴァンナスに通報が行かないようにね。問題は通過した内部が安全かどうかがわからないこと」
「内部が安全とわかれば、結界を素通りして内部に入ることが可能というわけか?」
「まぁ、理論上ね。でも、情報が足りなさすぎる。せめて、汚染の原因が何なのかわかれば対策も取りようがあるんだけど。今のところはお手上げ状態」
「わからないけど、とりあえず入ってみよう。なんて言わないんだな?」
「さすがにそこまで無謀じゃないよ。ねぇ、ケント。ヴァンナスにこっそり問い合わせできない?」
「できると思うか?」
「やっぱりバレるよね。はぁ、今はナルフを改良して、もっと詳しく中が探れるようにするぐらいかなぁ」
フィナは浮かんでいるナルフを手に取り、ポシェットへ戻して、結界に向かって人差し指を突きつけた。
「ふふ、今日のところは勘弁してあげる。でも、必ず、突破してやるんだからっ」
そして、後ろを振り返り、馬が待っている場所へ戻ろうとしている。
「いいのか、フィナ?」
「うん、今わかることはわかったから。もう、ここに居ても時間の無駄だもん」
「ふふふ、切り替えが早いな」
「一つのことに頭を悩ませても、どうせ堂々巡りだしね。それなら他のことに意識を向けた方がお得だし」
「ほぅ、思ったより達観している。よろしい、10ポイントをあげよう」
「何のポイントよそれ?」
「好感度」
「……あんたのアホさ加減にこっちはマイナス10ポイントだよ」
「となると、差し引きゼロ。好感度に変動はないな」
「いやいやいや、その計算式間違ってる!」
と、馬鹿げた会話を行っていると、私を不思議そうに見つめているエクアの視線に気づいた。
「どうした、エクア?」
「いえ、なんだかここ最近のケント様は雰囲気が違うなぁ、と思いまして」
「そうか?」
「初めてお会いしたときはとても良い方と思いましたが、同時に隙のない方だと思いました。でも、今は大変親しみ深いというか、とっつきやすいというか……」
「ふふ、ここ最近は余計な緊張もなく、議員になる前の私を取り戻しつつあるのかもな。だからと言って、あまり腑抜けるのも問題だが……」
「以前のケント様も格好良かったですけど、私は今の優し気なケント様も素敵だと思いますよ」
「そうかな、ははは」
「はい、ふふふ」
私とエクアは互いに微笑み見せる。
そこに取り残されたフィナがつまらなさそうに声を差し入れてきた。
「なんかすっごい、仲間外れ感。以前のケントってクールキャラだったの? ニワトリ相手にコケコケ言ってる人が?」
「それは忘れろ……」
「あははは。っと、それじゃ、遺跡の状態は見れたから、とっととワントワーフの鉱山に向かいましょ。エクア、行こ」
「はい」
フィナは未練など少しも見せずに、エクアと共に馬へ向かう。
しかし、さばさばしい彼女とは対照的に……私は遺跡に顔を向ける。
(危険と知りつつも、中にどのようなものがあるのかと期待していたんだが、おあずけか)
彼女以上に危険視していた私の方が、後ろ髪を引かれる思いを残し、馬のもとへ向かった。
そして、賞賛とも驚愕とも言える声を漏らした。
「ヴァンナスの本気か。おばあちゃんが言ってたけど、ここまでなんて……」
「フィナ、何かわかったのか?」
「うん、まぁね。洞窟の入り口全体に結界が張られてる。ま、ヤバい毒だか細菌だかが蔓延してるっていうし。何より誰も入れたくないだろうから、これは予想できてたんだけど。その結界が……まさか、複製多重結界だなんて。初めて見た」
「複製多重結界? 聞きなれぬ言葉だが、それは?」
「この結界はね、壊れるとその瞬間に複製を創り出すの。しかも、一枚が壊れたら、二枚に。二枚が壊れたら四枚に。一枚の強度は、最も威力のある光の魔法『クラテス』でようやく破れるほどのもの」
光魔法『クラテス』――光を収束させ、解き放つ魔法。破壊範囲は狭いが、一点での破壊力においては、どの魔法にも追随を許さない。
一流の魔導士ともなれば強固な城の城壁さえも、ケーキを切り分けるよりも簡単に引き裂いてしまうという。
過去には海を割った者もいると言われる魔法だ。
「その魔法を以ってしても、一枚を破るのがやっとであり、破ったとしてもすぐさま複製が作られる。絶対に破れない結界か……動力の供給はどこから?」
「それはあの岩の塊から」
フィナは結界内部にある洞窟入り口近くの岩を指差す。
「あれ、岩に擬装してるけど充填石。桁違いの魔力を充填させてる。軽く二百年は持つくらいのね。売ったら、一生ウハウハ。余りの高額さで買い取ってくれる人がいないだろうけど」
「そうか、それほどまでにヴァンナスは中に人を入れたくないのか」
「そうっぽいね。さらに付け加えるなら、あの充填石には微量な空間の力が宿ってる」
「空間の力?」
「私、時間と空間を専門とする錬金術師だからわかったんだけど、普通ならたぶんわからない。おそらく、万が一結界を破る者が現れても、あの石からヴァンナスに警報が渡り、すぐさま兵士が転送魔法で現れる仕組みね」
「なるほど、これがヴァンナスの本気か……」
絶対に破られない結界。
強力無比の魔法で一枚の結界を破っても、複製が生み出され結界は倍になる。
結界の動力源は結界内部にあり、絶対に手が出せない。
もし、これらを破る者が現れても、すぐさま転送で兵士が現れ囚われる。
絶対に侵入を許さない結界……。
「我々ではこうやって入り口を見物するのがやっとか」
「ふふ、そうでもないよ」
「なに?」
「複製多重結界は絶対の結界。と、言われたのは今日まで。私ならこれくらい破れる。ま、できるのは世界で私くらいでしょけどねっ」
フィナは両手を腰に当てて、ふんぞり返っている。
まぁ、これほど堅固な結界を破れると豪語する自信があるのならば、この態度も納得か。
私は結界を破る方法を尋ねる。
「どうやって破る気だ?」
「ナルフで調べてわかったけど、結界は三十二枚の構造になってて、それら全てに固有の周波数があって全部バラバラ。普通ならどうしようもない」
「三十二枚? 誰か破ろうとして増えた結果か?」
「いえ、初めから三十二枚っぽい。それだけでどんだけって感じなんだけど……少し話がズレるけど、稼働年数はザっと百年近く。つまり、百年間誰も立ち入っていないってことになる」
「っ!? ということは、古城トーワの地下に書かれた数式は遺跡から得た知識ものではない、となるぞ!」
「それよ! つまり、あの数式は地球人らしき存在が、自力で生み出したってわけ。そう、古代人に匹敵する知識をね」
「あれを書いた者は何者なんだ……?」
仮に、勇者と呼ばれた地球人よりも進んだ時代からやってきた者だとしても、僅か二百数十年程度で古代人に匹敵する知識を得られるとは到底思えない。
遺跡から知識を得ていないとするならば、トーワの地下に文字を書いた者の正体は?
私は言葉を失い、ただ黙する。
一方、フィナはというと、軽く首を横に振り、気持ちを入れ替えるように言葉を出した。
「とりあえず、わかんないことは放っておくとして。結界の破り方に話を戻すよ」
「ああ、そうだな。今のところ情報がなさすぎる。話を戻してくれ」
「うん、それじゃ……えっと、この三十二枚の結界だけど、周波数を一つに同期して、一気に破れば結界は簡単に壊れる。複製も作られる瞬間は周波数が一緒だから、生まれることなく終わっちゃう」
「それじゃあ、破れるのか?」
「できるけど、結局充填石から通報が飛んで捕まっちゃうし。それを防ぐには内部の充填石をどうにかしないと」
この説明を受けて、エクアが神妙に言葉を漏らす。
「結界を破壊しても知られてしまう。そのためには結界を破壊せずに、内部の充填石を止めなければならない……それは不可能。絶対の結界。凄いですね」
「そうね。他にも手はないことはないけど、問題は結界内の状態がはっきりしないってところかな」
「どういうことですか?」
「ナルフで見た感じ、結界内の入口周辺に汚染の様子は見えない。でも、自信がないの。結界が干渉して、観測を妨害してるから……だけど……いえ、だめね……」
フィナはナルフと結界と充填石をちらりちらりと見ながら、ブツブツと呟き考えに耽る。
しばらく時が経ち、彼女の考えがまとまったようで、それを私たちに披露した。
「三十二の結界の周波数を同期させ、私はその周波数と同じ結界を纏う。そうすれば、結界を素通りできるから。そして、内部にある充填石を無効化する。もちろん、ヴァンナスに通報が行かないようにね。問題は通過した内部が安全かどうかがわからないこと」
「内部が安全とわかれば、結界を素通りして内部に入ることが可能というわけか?」
「まぁ、理論上ね。でも、情報が足りなさすぎる。せめて、汚染の原因が何なのかわかれば対策も取りようがあるんだけど。今のところはお手上げ状態」
「わからないけど、とりあえず入ってみよう。なんて言わないんだな?」
「さすがにそこまで無謀じゃないよ。ねぇ、ケント。ヴァンナスにこっそり問い合わせできない?」
「できると思うか?」
「やっぱりバレるよね。はぁ、今はナルフを改良して、もっと詳しく中が探れるようにするぐらいかなぁ」
フィナは浮かんでいるナルフを手に取り、ポシェットへ戻して、結界に向かって人差し指を突きつけた。
「ふふ、今日のところは勘弁してあげる。でも、必ず、突破してやるんだからっ」
そして、後ろを振り返り、馬が待っている場所へ戻ろうとしている。
「いいのか、フィナ?」
「うん、今わかることはわかったから。もう、ここに居ても時間の無駄だもん」
「ふふふ、切り替えが早いな」
「一つのことに頭を悩ませても、どうせ堂々巡りだしね。それなら他のことに意識を向けた方がお得だし」
「ほぅ、思ったより達観している。よろしい、10ポイントをあげよう」
「何のポイントよそれ?」
「好感度」
「……あんたのアホさ加減にこっちはマイナス10ポイントだよ」
「となると、差し引きゼロ。好感度に変動はないな」
「いやいやいや、その計算式間違ってる!」
と、馬鹿げた会話を行っていると、私を不思議そうに見つめているエクアの視線に気づいた。
「どうした、エクア?」
「いえ、なんだかここ最近のケント様は雰囲気が違うなぁ、と思いまして」
「そうか?」
「初めてお会いしたときはとても良い方と思いましたが、同時に隙のない方だと思いました。でも、今は大変親しみ深いというか、とっつきやすいというか……」
「ふふ、ここ最近は余計な緊張もなく、議員になる前の私を取り戻しつつあるのかもな。だからと言って、あまり腑抜けるのも問題だが……」
「以前のケント様も格好良かったですけど、私は今の優し気なケント様も素敵だと思いますよ」
「そうかな、ははは」
「はい、ふふふ」
私とエクアは互いに微笑み見せる。
そこに取り残されたフィナがつまらなさそうに声を差し入れてきた。
「なんかすっごい、仲間外れ感。以前のケントってクールキャラだったの? ニワトリ相手にコケコケ言ってる人が?」
「それは忘れろ……」
「あははは。っと、それじゃ、遺跡の状態は見れたから、とっととワントワーフの鉱山に向かいましょ。エクア、行こ」
「はい」
フィナは未練など少しも見せずに、エクアと共に馬へ向かう。
しかし、さばさばしい彼女とは対照的に……私は遺跡に顔を向ける。
(危険と知りつつも、中にどのようなものがあるのかと期待していたんだが、おあずけか)
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