87 / 359
第七章 遺跡に繋がるもの
フィナの専門分野
しおりを挟む
遺跡を後にし、一日挟んでファーレ山脈へ向かう。
その途中、結界を前にしてフィナが口にした、時間と空間が専門という言葉について尋ねて見た。
「フィナは時間と空間が専門と言っていたが、具体的にはどのような?」
「空間に関する研究においては魔導士でなくとも自由に行き来できる転送技術の確立と、空間の箱を作ることを目指してる」
「転送はわかるが、箱とは?」
「荷物置き場みたいなもんかな。空間を捻じ曲げて、ある閉じられた空間の奥行きを増すの。そうすれば、大量の物資を手軽に運べるようになるしね。私のポシェットにはその技術が使われていて結構な量が積み込める」
「とんでもない技術だなっ。理論派ではまだ、机上の空論の域を出ていない話だぞ」
「あんたたちは科学的アプローチを主軸に置く錬金術だもんね。でも、私たちは魔術的アプローチの錬金術。元々魔法には転送魔法や召喚術という、空間に干渉する魔法があるから、それを叩き台にしてる」
「理論派にも魔導の研究分野はあるが疎かにしがちだからな。水をあけられた部分もあるか。それでは時間の方は?」
「これは実践派の錬金術士。さらにおばあちゃんからも反対されてんだけどさ。私、因果律を覆したいと考えてんのよ」
エクアは聞き慣れぬ言葉に、はてなマークをぴょこりと浮かべている。
そのはてなに私が答える。
「いんがりつ?」
「どのような事象にも、何らかの原因の結果として生起するのであり、原因のない事象は存在しないという考え方だ。要は、原因がなくては結果が生じないという意味」
「はぁ、わかるようなわからないような」
「彼女の場合、時間をそれに当てはめているということから、フィナは過去に起きた出来事に干渉し、未来を変えたいと考えている、といったところか」
「それって、大変なことなんじゃ……? 過去に干渉して未来が変わったら、今の世界の形が変わるってことですよね?」
「まぁ、そうなるな。フィナ、君は何をするつもりだ? 何か取り返したい過去、変えたい過去でもあるのか?」
「ないよ」
「ないのか……それじゃ、何故、世界を変えるようなことをしようと? 神の真似事でもするつもりか?」
「そんな気ないよ。ただ、おばあちゃんの理論だと、二人が想像するほど簡単には未来は変えられないんだって。それを否定したいだけ」
――フィナは時間についての講釈を始める。
おばあちゃんの理論だと、私が過去を変えて現在に戻ってきても、その現在は今までと変わらないらしいの。
過去を変えた時点で、世界が分岐して別の世界が生まれるんだって。
これを並行世界っていうんだけど、どんだけ過去に干渉しても、自分がいた世界から別の世界には移れないみたいなの。
例えるなら、私が路傍に咲く花を摘んだ世界がある。
私は過去に戻り、花を摘むのを阻止した。
そして現在に戻ってきたら摘まれていない花が存在するはずなのに、あるのは摘まれた花。
阻止した時点で世界が分岐し、私は分岐した世界に行くことができない。
どう足掻いても、花の摘まれた世界に戻ってきてしまうの。
「それって、悔しいじゃん。せっかく過ちをやり直せる可能性があるのに、過ちを正した世界には行けないなんて。だから、それを可能にする方法がないかなぁって、考えてんの」
「夢のような話だが、もし可能になれば、君は世界を自由に書き換えられるというわけか」
「まぁね。する気はないけど」
「そう願うよ。一人の気分次第で世界の塗り替えが可能なんて空恐ろしい」
「あくまでも、新たな理論を立ち上げたいだけだから。実際、できるかどうかは別問題だし」
「理論すら生み出すのも危険だと思うが……?」
「うわ、おばあちゃんみたいなこと言ってる。研究者ってのはどんな時でも危険を恐れず突っ走らないと。もう、年寄り臭いんだから。ねぇ、エクア?」
「いえ、私もどうかと思いますけど……」
「うそ? はぁ~あ、やっぱり研究者って孤独なのね……」
何をどう思ったら同意を得られると考えていたのか知らないが、フィナはかなり落ち込んだ様子を見せている。
私とエクアは互いに言葉を掛け合う。
「しばらくは私の下に置いていた方がよさそうだ」
「フィナさんを変えられますか?」
「自信はないが、少しでも彼女の中で倫理というものが育つように努力しよう」
「あのさ、二人とも。聞こえてるって。まったく、臆病なんだから。しかも、言うに事欠いて倫理って。ケントもいっぱしの研究者なんでしょ? そんなもんゴミ箱にポイしなさいよ」
もう辟易といった様子で言葉を漏らすフィナ。
挫折を知らぬ十六歳の少女は、今のところ無敵らしい。
その途中、結界を前にしてフィナが口にした、時間と空間が専門という言葉について尋ねて見た。
「フィナは時間と空間が専門と言っていたが、具体的にはどのような?」
「空間に関する研究においては魔導士でなくとも自由に行き来できる転送技術の確立と、空間の箱を作ることを目指してる」
「転送はわかるが、箱とは?」
「荷物置き場みたいなもんかな。空間を捻じ曲げて、ある閉じられた空間の奥行きを増すの。そうすれば、大量の物資を手軽に運べるようになるしね。私のポシェットにはその技術が使われていて結構な量が積み込める」
「とんでもない技術だなっ。理論派ではまだ、机上の空論の域を出ていない話だぞ」
「あんたたちは科学的アプローチを主軸に置く錬金術だもんね。でも、私たちは魔術的アプローチの錬金術。元々魔法には転送魔法や召喚術という、空間に干渉する魔法があるから、それを叩き台にしてる」
「理論派にも魔導の研究分野はあるが疎かにしがちだからな。水をあけられた部分もあるか。それでは時間の方は?」
「これは実践派の錬金術士。さらにおばあちゃんからも反対されてんだけどさ。私、因果律を覆したいと考えてんのよ」
エクアは聞き慣れぬ言葉に、はてなマークをぴょこりと浮かべている。
そのはてなに私が答える。
「いんがりつ?」
「どのような事象にも、何らかの原因の結果として生起するのであり、原因のない事象は存在しないという考え方だ。要は、原因がなくては結果が生じないという意味」
「はぁ、わかるようなわからないような」
「彼女の場合、時間をそれに当てはめているということから、フィナは過去に起きた出来事に干渉し、未来を変えたいと考えている、といったところか」
「それって、大変なことなんじゃ……? 過去に干渉して未来が変わったら、今の世界の形が変わるってことですよね?」
「まぁ、そうなるな。フィナ、君は何をするつもりだ? 何か取り返したい過去、変えたい過去でもあるのか?」
「ないよ」
「ないのか……それじゃ、何故、世界を変えるようなことをしようと? 神の真似事でもするつもりか?」
「そんな気ないよ。ただ、おばあちゃんの理論だと、二人が想像するほど簡単には未来は変えられないんだって。それを否定したいだけ」
――フィナは時間についての講釈を始める。
おばあちゃんの理論だと、私が過去を変えて現在に戻ってきても、その現在は今までと変わらないらしいの。
過去を変えた時点で、世界が分岐して別の世界が生まれるんだって。
これを並行世界っていうんだけど、どんだけ過去に干渉しても、自分がいた世界から別の世界には移れないみたいなの。
例えるなら、私が路傍に咲く花を摘んだ世界がある。
私は過去に戻り、花を摘むのを阻止した。
そして現在に戻ってきたら摘まれていない花が存在するはずなのに、あるのは摘まれた花。
阻止した時点で世界が分岐し、私は分岐した世界に行くことができない。
どう足掻いても、花の摘まれた世界に戻ってきてしまうの。
「それって、悔しいじゃん。せっかく過ちをやり直せる可能性があるのに、過ちを正した世界には行けないなんて。だから、それを可能にする方法がないかなぁって、考えてんの」
「夢のような話だが、もし可能になれば、君は世界を自由に書き換えられるというわけか」
「まぁね。する気はないけど」
「そう願うよ。一人の気分次第で世界の塗り替えが可能なんて空恐ろしい」
「あくまでも、新たな理論を立ち上げたいだけだから。実際、できるかどうかは別問題だし」
「理論すら生み出すのも危険だと思うが……?」
「うわ、おばあちゃんみたいなこと言ってる。研究者ってのはどんな時でも危険を恐れず突っ走らないと。もう、年寄り臭いんだから。ねぇ、エクア?」
「いえ、私もどうかと思いますけど……」
「うそ? はぁ~あ、やっぱり研究者って孤独なのね……」
何をどう思ったら同意を得られると考えていたのか知らないが、フィナはかなり落ち込んだ様子を見せている。
私とエクアは互いに言葉を掛け合う。
「しばらくは私の下に置いていた方がよさそうだ」
「フィナさんを変えられますか?」
「自信はないが、少しでも彼女の中で倫理というものが育つように努力しよう」
「あのさ、二人とも。聞こえてるって。まったく、臆病なんだから。しかも、言うに事欠いて倫理って。ケントもいっぱしの研究者なんでしょ? そんなもんゴミ箱にポイしなさいよ」
もう辟易といった様子で言葉を漏らすフィナ。
挫折を知らぬ十六歳の少女は、今のところ無敵らしい。
10
あなたにおすすめの小説
レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル
異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった
孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた
そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた
その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。
5レベルになったら世界が変わりました
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件
fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。
チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!?
実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。
「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる