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第十五章 未熟なる神の如き存在
未来の罠
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――幻想のアーガメイトの書斎
しばしの沈黙のあと、フィナは黒塗りにした手紙の中身。私を救うための手順についての内容に軽く触れた。
その声に涙の残影などなく、いつものフィナの声。
私はそれに安堵する。
エクアもフィナの声を聞いて少し心が落ち着けた様子を見せていた。
フィナは人頭サイズの正十二面体の赤いナルフと、手のひらサイズのひし形の青いナルフを浮かべる。
「この赤いナルフは未来の私が造り、今の私に送ったもの。私の持つナルフよりも遥かに性能が上。そして、今回、私は自分の青いナルフを改良して、この二つのナルフに特殊な通信機能を持たせた。これを指示したのは未来の私」
「閉じ込められた私と会話するためだな」
「そういうこと。ただ、普通の通信じゃない」
「それは?」
「この通信には、ユイッターブル透過通信という技術が使われてる」
「ユイッターブル?」
「ユイッターブルはこの通信方法を開発した人が名付けた名前。この通信の特徴は、何ものにも妨害されないところ。距離や時間や角度や電波障害など全てにね」
「どこにいてもどのような環境であろうとも通信可能というわけか」
「うん。そして、この通信方法じゃないとこの施設の壁や扉を通して会話できなかったみたい」
「なるほど。ということは、未来で得られるはずの技術を現在の君は手にしているわけだ」
「そうなる。そして、それだけじゃないっ」
フィナは黒で塗りつぶした手紙をピシッと叩く。
「ここに書かれてあった手順は最小限のものだったけど、ここから施設に関する情報の欠片を手に入れることができた」
そう言いながらフィナは執務机の隣でしゃがみ込み、床にあったパネルを開いている。
中には研究室のコンソールで見かけた水晶と、何本もの光り輝く線があった。
その線を引っ張り上げ、深紅のナルフと繋げつつ私に顔を向けた。
「このパネルなんだと思う、ケント?」
「うん? この施設の回路じゃないのか?」
「そうだけど、その正体よ」
「正体?」
「このパネル、実はあの柔らかな丸い球体」
「そうなのかっ?」
「うん。部屋の様子が変わると周りの風景に溶け込むようになっているみたい」
「よくわかったな」
「未来のナルフのおかげで微量なエネルギー反応を特定できたの。ま、前知識もあったしね」
「前知識、手紙か。それで、どのようなものなんだ?」
フィナは引っ張り出した光の線を振り回しながら答えを返す。
「この施設って魔導技術と科学技術の融合体でできてるの。基本となるのは生体神経回路と次元間紋章」
「ドハ研究所と同じか。機械と生命で造られた回路と魔導の紋章を別次元に刻み、情報や力を生み出すものだな」
「あんまり褒めたくないけど、ドハにあった次元間紋章技術だけは実践派も舌を巻いてた」
「だけははご挨拶だが……その技術自体、元ネタは古代人の技術だからな」
「そうね。ま、実践派も袂を分かつ前に手に入れたその技術を使い、魔導特化型ナルフを製造してるんだけど。ただ、量産が厳しいのが難点」
「この施設も理論派も実践派も、回路はともかく次元間紋章を操れる。だが、この施設にある物は私たちの物とは比べ物にならないくらい凄い物なんだろう?」
「ええ、私たちやドハなんか目じゃない。折り重なる世界から少しずつ力を抽出している。一つの次元から極微小に力を抽出する、私たちの次元間紋章技術を大きく超えた知」
「一つの次元の極微小な力でさえ膨大なエネルギーを得られ、演算能力は人を遥かに超える。我々はそれさえもまともに扱えていない。おそらく古代人は完璧に使いこなしていたんだろうが……さらに折り重なる世界とは……」
「まさに桁外れ。それでも、私たち錬金術士は古代人の知恵の一端を知り、粒の知識であっても扱えている。つまり、その知識で造られたナルフには互換性があるってこと」
「やめておけ。私たちもナルフに古代人の装置を繋げ知識を得ようとしたが、情報過多な上にエネルギーが逆流して爆発を起こしてしまった」
「それは私たちの遅れたナルフだからよ」
彼女はふわりと赤いナルフを浮かべる。
「そうか、それは進んだ技術で造られたナルフ。それなら耐えられるというわけか?」
「ううん、残念ながらそう簡単には。古代人が持つ情報はまるで津波。このナルフでも耐えられない。もし、下手に繋げたら、このナルフは完全に壊れちゃう。そしてそれは、未来の私の罠でもあった」
「うん?」
「未来の私はこう考えたはず。無知な過去の私はこの未来のナルフを使い、アホ面下げて遺跡と同期させるはず。でも、そのせいで未来のナルフは壊れてしまい、未来の力を失った過去の私は間抜けを見るだろうってね」
「しかし、君はそれに気づいた。さらに、遺跡と安全に同期させる方法を見つけたんだな?」
フィナはにやりと不敵な笑みを浮かべ、パネルから水晶を一つ引き抜き私に見せつけてくる。
「これって、情報と動力の塊なんだけど、実は制御弁でもあるの。動力は私たちとは違い、魔力ではない何かに変換してるけど。変換効率は私たちが1とするならこっちは万か億か」
「凄まじいな。なるほど、そんなものを繋げればナルフが爆発するわけだ。それらを知ったのは未来のエクアがくれたペンダントと黒塗りの手紙からというわけか」
「そういうこと。んで、その手紙から推測して、まずナルフと水晶を同期させ、水晶にナルフを覚えさせる。そうすれば、水晶が勝手に情報と動力を制御してくれるはず。私の青のナルフだとそれにも耐えられないんだけどね。でも、この赤のナルフなら……」
「君は、言葉を選んだはずの手紙から扱い方を見出したと。フフ、未来の君が手紙に頭を悩ますはずだ」
「ふふ~ん、未来の私よりも今の私の方が柔軟だってことかもねぇ~」
フィナはほくほく顔で水晶を取っては入れを繰り返し、さらには光の線を水晶やパネルの穴にはめ込んでいく。
時折、頭を掻いたり、眉を顰めたりしている様子から、しばらくかかりそうだ。
その隙間を見計らって、親父とマフィンとマスティフが話を始めた。
しばしの沈黙のあと、フィナは黒塗りにした手紙の中身。私を救うための手順についての内容に軽く触れた。
その声に涙の残影などなく、いつものフィナの声。
私はそれに安堵する。
エクアもフィナの声を聞いて少し心が落ち着けた様子を見せていた。
フィナは人頭サイズの正十二面体の赤いナルフと、手のひらサイズのひし形の青いナルフを浮かべる。
「この赤いナルフは未来の私が造り、今の私に送ったもの。私の持つナルフよりも遥かに性能が上。そして、今回、私は自分の青いナルフを改良して、この二つのナルフに特殊な通信機能を持たせた。これを指示したのは未来の私」
「閉じ込められた私と会話するためだな」
「そういうこと。ただ、普通の通信じゃない」
「それは?」
「この通信には、ユイッターブル透過通信という技術が使われてる」
「ユイッターブル?」
「ユイッターブルはこの通信方法を開発した人が名付けた名前。この通信の特徴は、何ものにも妨害されないところ。距離や時間や角度や電波障害など全てにね」
「どこにいてもどのような環境であろうとも通信可能というわけか」
「うん。そして、この通信方法じゃないとこの施設の壁や扉を通して会話できなかったみたい」
「なるほど。ということは、未来で得られるはずの技術を現在の君は手にしているわけだ」
「そうなる。そして、それだけじゃないっ」
フィナは黒で塗りつぶした手紙をピシッと叩く。
「ここに書かれてあった手順は最小限のものだったけど、ここから施設に関する情報の欠片を手に入れることができた」
そう言いながらフィナは執務机の隣でしゃがみ込み、床にあったパネルを開いている。
中には研究室のコンソールで見かけた水晶と、何本もの光り輝く線があった。
その線を引っ張り上げ、深紅のナルフと繋げつつ私に顔を向けた。
「このパネルなんだと思う、ケント?」
「うん? この施設の回路じゃないのか?」
「そうだけど、その正体よ」
「正体?」
「このパネル、実はあの柔らかな丸い球体」
「そうなのかっ?」
「うん。部屋の様子が変わると周りの風景に溶け込むようになっているみたい」
「よくわかったな」
「未来のナルフのおかげで微量なエネルギー反応を特定できたの。ま、前知識もあったしね」
「前知識、手紙か。それで、どのようなものなんだ?」
フィナは引っ張り出した光の線を振り回しながら答えを返す。
「この施設って魔導技術と科学技術の融合体でできてるの。基本となるのは生体神経回路と次元間紋章」
「ドハ研究所と同じか。機械と生命で造られた回路と魔導の紋章を別次元に刻み、情報や力を生み出すものだな」
「あんまり褒めたくないけど、ドハにあった次元間紋章技術だけは実践派も舌を巻いてた」
「だけははご挨拶だが……その技術自体、元ネタは古代人の技術だからな」
「そうね。ま、実践派も袂を分かつ前に手に入れたその技術を使い、魔導特化型ナルフを製造してるんだけど。ただ、量産が厳しいのが難点」
「この施設も理論派も実践派も、回路はともかく次元間紋章を操れる。だが、この施設にある物は私たちの物とは比べ物にならないくらい凄い物なんだろう?」
「ええ、私たちやドハなんか目じゃない。折り重なる世界から少しずつ力を抽出している。一つの次元から極微小に力を抽出する、私たちの次元間紋章技術を大きく超えた知」
「一つの次元の極微小な力でさえ膨大なエネルギーを得られ、演算能力は人を遥かに超える。我々はそれさえもまともに扱えていない。おそらく古代人は完璧に使いこなしていたんだろうが……さらに折り重なる世界とは……」
「まさに桁外れ。それでも、私たち錬金術士は古代人の知恵の一端を知り、粒の知識であっても扱えている。つまり、その知識で造られたナルフには互換性があるってこと」
「やめておけ。私たちもナルフに古代人の装置を繋げ知識を得ようとしたが、情報過多な上にエネルギーが逆流して爆発を起こしてしまった」
「それは私たちの遅れたナルフだからよ」
彼女はふわりと赤いナルフを浮かべる。
「そうか、それは進んだ技術で造られたナルフ。それなら耐えられるというわけか?」
「ううん、残念ながらそう簡単には。古代人が持つ情報はまるで津波。このナルフでも耐えられない。もし、下手に繋げたら、このナルフは完全に壊れちゃう。そしてそれは、未来の私の罠でもあった」
「うん?」
「未来の私はこう考えたはず。無知な過去の私はこの未来のナルフを使い、アホ面下げて遺跡と同期させるはず。でも、そのせいで未来のナルフは壊れてしまい、未来の力を失った過去の私は間抜けを見るだろうってね」
「しかし、君はそれに気づいた。さらに、遺跡と安全に同期させる方法を見つけたんだな?」
フィナはにやりと不敵な笑みを浮かべ、パネルから水晶を一つ引き抜き私に見せつけてくる。
「これって、情報と動力の塊なんだけど、実は制御弁でもあるの。動力は私たちとは違い、魔力ではない何かに変換してるけど。変換効率は私たちが1とするならこっちは万か億か」
「凄まじいな。なるほど、そんなものを繋げればナルフが爆発するわけだ。それらを知ったのは未来のエクアがくれたペンダントと黒塗りの手紙からというわけか」
「そういうこと。んで、その手紙から推測して、まずナルフと水晶を同期させ、水晶にナルフを覚えさせる。そうすれば、水晶が勝手に情報と動力を制御してくれるはず。私の青のナルフだとそれにも耐えられないんだけどね。でも、この赤のナルフなら……」
「君は、言葉を選んだはずの手紙から扱い方を見出したと。フフ、未来の君が手紙に頭を悩ますはずだ」
「ふふ~ん、未来の私よりも今の私の方が柔軟だってことかもねぇ~」
フィナはほくほく顔で水晶を取っては入れを繰り返し、さらには光の線を水晶やパネルの穴にはめ込んでいく。
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