160 / 359
第十五章 未熟なる神の如き存在
もう一人の私
しおりを挟む
フィナが施設の扱い方に没頭する中、私と親父とマスティフとマフィンは雑談を始め、親父が別の世界の自分のことについて尋ねてくる。
「さっきは雰囲気が雰囲気でしたんで尋ねにくかったんですが、俺は別の時間軸ってやつでも、ここにいたわけですよね、旦那?」
「そうらしいな」
「ワシらはおらんかったようだが」
「ケントはこのお宝を一人占めしようとしたんニャね」
ジロリと、強烈な犬の目猫の目で睨まれる。
「そんな目で見られても……それは私ではないし」
「にゃけど、未来からの手紙がなく、フィナが誘わなければ俺たちを同行させる気はなかったわけだしニャ」
「そうであろうな。ワシらは仲間外れにされておったわけか。ケント殿が一人占めにしようとした事実は変わらんな」
「ヴァンナスに知られたくない手前、それは仕方ないだろう。それで、親父は何か尋ねたかったんじゃないのか?」
「それなんですがね、未来ではエクアのお嬢ちゃんとフィナのお嬢ちゃんが頑張って旦那を救おうとしていたんですよね?」
「そうらしいな」
「俺はどこに行ったんでしょう?」
「トーワから人が消えた。と書いてあったから、どこかへ旅立ったのかもな……この、薄情者」
「いやいや、それは俺じゃありませんからっ。もしかしたら手紙に書いてないだけで、何かしらの協力をしてたかもしれませんよ」
「あはは、そうかもしれないな。なにせ、ギウのことも書かれていない。事が起こるまで未来が変わらないように、本当に必要なことしか書かなかったのだろう」
私たちはすっかり気持ちを入れ替えて雑談に耽る。
だが、隣にいるエクアは顔に影を差したままだ。
「エクア?」
「え、はい、なんでしょうか?」
「大丈夫か? かなりショック受けているように見えるが?」
「……そうですね。あのお婆さんは私であっても、今の私じゃない。でも、なんというか、気持ちの整理がつかないというか。そもそも、整理という考えすらおかしいというか」
「あまり深く考えない方がいいぞ、エクア。本来なら私もあそこで死んでいた、と考えると妙な気分になるし」
「そうですね。お婆さんには申し訳ないですけど、感謝だけを思って、この奇妙な悲しさは一時忘れることにします」
エクアは小さく息をついて胸元に手を置く。
彼女はこの中で最も幼く、歳は十二。
本来ならば、同じ年の子どもたちと遊び、学んでいるはずの年齢。
そうでありながらも、両親を亡くし、悪党どもに利用され、未来の自分の死という不可思議な出来事に直面しても、冷静であり、心を平静に保てる彼女の成長とその姿を敬い、私は優しく声を掛けた。
「ああ、それでいいと思う」
「っしゃ、きたっ!」
突如、フィナの声が響く。
雰囲気も何もあったもんじゃない……。
「何が来たんだ?」
「ナルフと同期できたのよ! それじゃ、さっそく!!」
フィナは深紅のナルフを浮かべ、ナルフのつるりとした鏡面に浮かぶ施設の回路図のようなものを覗き込んでいる。
「え~っと、どっかに翻訳システムがあるはず…………あったっ。たぶん、これが翻訳システム。そこをいじって、音声入力を可能にする場所は~……よし、ここにアクセスしてっと」
「音声入力? それができれば素晴らしいが、私たちの言葉を理解してもらえるのか?」
「たぶんそれは無理。見た感じ、翻訳システムが異常をきたしてるし、私たちの言語らしき情報もなさそう。見たこともない他の世界の言語はあるっぽいのに」
と言って、体を少しずらし、ナルフの鏡面が私たちの目に入りやすいようにする。
鏡面には少し歪んだ八角の星形を中心に、無数の見知らぬ言語が無秩序に流れている。
どうやら、言語に囲まれ歪んだ星形が翻訳システムのようだ。
「私たちの言語情報はないのに他の世界の言語はある? フィナ、それが意味するのは……?」
「はっきりとは言えないけど、私たちの言語情報は消された形跡があるっぽい。たぶん、スカルペル人がこの施設を扱えないように古代人が消したんじゃないかな?」
「それなら、情報そのものを消すなり施設ごと消すなりすればよかったものの」
「それはあとで使うつもりだった……もしくは」
「工作を行う余裕がなかった? 浄化もまともにされていなかったところを併せてみると、かなりの緊急事態が発生していたのか?」
この私の言葉にフィナはもちろん、皆は口を閉ざす。
古代人に何か切迫する出来事が起きて、彼らは必要最低限のことだけを行い、施設を放棄したのだろうか?
「さっきは雰囲気が雰囲気でしたんで尋ねにくかったんですが、俺は別の時間軸ってやつでも、ここにいたわけですよね、旦那?」
「そうらしいな」
「ワシらはおらんかったようだが」
「ケントはこのお宝を一人占めしようとしたんニャね」
ジロリと、強烈な犬の目猫の目で睨まれる。
「そんな目で見られても……それは私ではないし」
「にゃけど、未来からの手紙がなく、フィナが誘わなければ俺たちを同行させる気はなかったわけだしニャ」
「そうであろうな。ワシらは仲間外れにされておったわけか。ケント殿が一人占めにしようとした事実は変わらんな」
「ヴァンナスに知られたくない手前、それは仕方ないだろう。それで、親父は何か尋ねたかったんじゃないのか?」
「それなんですがね、未来ではエクアのお嬢ちゃんとフィナのお嬢ちゃんが頑張って旦那を救おうとしていたんですよね?」
「そうらしいな」
「俺はどこに行ったんでしょう?」
「トーワから人が消えた。と書いてあったから、どこかへ旅立ったのかもな……この、薄情者」
「いやいや、それは俺じゃありませんからっ。もしかしたら手紙に書いてないだけで、何かしらの協力をしてたかもしれませんよ」
「あはは、そうかもしれないな。なにせ、ギウのことも書かれていない。事が起こるまで未来が変わらないように、本当に必要なことしか書かなかったのだろう」
私たちはすっかり気持ちを入れ替えて雑談に耽る。
だが、隣にいるエクアは顔に影を差したままだ。
「エクア?」
「え、はい、なんでしょうか?」
「大丈夫か? かなりショック受けているように見えるが?」
「……そうですね。あのお婆さんは私であっても、今の私じゃない。でも、なんというか、気持ちの整理がつかないというか。そもそも、整理という考えすらおかしいというか」
「あまり深く考えない方がいいぞ、エクア。本来なら私もあそこで死んでいた、と考えると妙な気分になるし」
「そうですね。お婆さんには申し訳ないですけど、感謝だけを思って、この奇妙な悲しさは一時忘れることにします」
エクアは小さく息をついて胸元に手を置く。
彼女はこの中で最も幼く、歳は十二。
本来ならば、同じ年の子どもたちと遊び、学んでいるはずの年齢。
そうでありながらも、両親を亡くし、悪党どもに利用され、未来の自分の死という不可思議な出来事に直面しても、冷静であり、心を平静に保てる彼女の成長とその姿を敬い、私は優しく声を掛けた。
「ああ、それでいいと思う」
「っしゃ、きたっ!」
突如、フィナの声が響く。
雰囲気も何もあったもんじゃない……。
「何が来たんだ?」
「ナルフと同期できたのよ! それじゃ、さっそく!!」
フィナは深紅のナルフを浮かべ、ナルフのつるりとした鏡面に浮かぶ施設の回路図のようなものを覗き込んでいる。
「え~っと、どっかに翻訳システムがあるはず…………あったっ。たぶん、これが翻訳システム。そこをいじって、音声入力を可能にする場所は~……よし、ここにアクセスしてっと」
「音声入力? それができれば素晴らしいが、私たちの言葉を理解してもらえるのか?」
「たぶんそれは無理。見た感じ、翻訳システムが異常をきたしてるし、私たちの言語らしき情報もなさそう。見たこともない他の世界の言語はあるっぽいのに」
と言って、体を少しずらし、ナルフの鏡面が私たちの目に入りやすいようにする。
鏡面には少し歪んだ八角の星形を中心に、無数の見知らぬ言語が無秩序に流れている。
どうやら、言語に囲まれ歪んだ星形が翻訳システムのようだ。
「私たちの言語情報はないのに他の世界の言語はある? フィナ、それが意味するのは……?」
「はっきりとは言えないけど、私たちの言語情報は消された形跡があるっぽい。たぶん、スカルペル人がこの施設を扱えないように古代人が消したんじゃないかな?」
「それなら、情報そのものを消すなり施設ごと消すなりすればよかったものの」
「それはあとで使うつもりだった……もしくは」
「工作を行う余裕がなかった? 浄化もまともにされていなかったところを併せてみると、かなりの緊急事態が発生していたのか?」
この私の言葉にフィナはもちろん、皆は口を閉ざす。
古代人に何か切迫する出来事が起きて、彼らは必要最低限のことだけを行い、施設を放棄したのだろうか?
0
あなたにおすすめの小説
私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
ファンタジー
薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。
舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。
舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。
以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる