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第十六章 銀眼に宿るモノ
手馴れたもの
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――トーワ・執務室
遺跡探索からしばしの時が経ち、私は執務室で手紙を認めていた。
この手紙は、アグリスと敵対しているビュール大陸側の代表たちと交流を重ねるもの。
手紙だけのやり取りではあるが、彼らとは非常に友好的な雰囲気で交流を結べている。
その手紙を認めている最中に、青色のひし形のナルフから通信が入った。
遺跡のいるフィナがなにか面白いものを発見したらしい。
その知らせで、彼女はカインを連れてこいと。
病人や怪我人が出たのかと尋ねたがそうではないようだ。
とにかく、連れてこいと言ってナルフの通信は切れた。
私はトーワをギウとゴリンに任せて、カインと共に馬で遺跡へと向かった。
二日後――遺跡に初めて訪れるカインは、洞窟に入り、光の道と真っ黒な球体の遺跡を見て、驚きに言葉を失い足を震わせている。
私は彼へ落ち着くようにと声を掛けて遺跡の出入り口となる階段に向かうのだが、階段の近くに、以前はなかった人の背丈よりも倍は高い金属でできた奇妙な筒状の物体があった。
物体には左右から閉じられた扉があり、その傍にフィナの目付け役であるエクアが立っている。
「エクア、この筒は?」
「遺跡の昇降リフトです。フィナさんが装置を操作して、これを」
「そのようなものがあったのか?」
「はい。ですが、浄化された場所のみでしか稼働できません。ですので、ここから下三階までなら。それでは、こちらへ」
エクアは手慣れた様子で閉じられた扉に手を振る。
その手の動作に反応し、無数の点が現れた。
ほとんどが赤色を示しているが、数個ほど青く光っている。
青の光は移動可能な場所を指しているのだろうか?
彼女はそのうちの一つを指先で弾き、扉を開いた。
内部は大荷物の搬送が可能なくらいに広く、奥行きがある。内装は白の壁で、他に何か目立ったものがあるわけでもない。
「この筒はエレベーターというわけか?」
「少し違います。このリフトは上下だけではなく左右にも動けますから。下三階までならどんな場所でも自由に移動が可能なんですよ」
「そ、そうなのか? ドハ研究所にも昇降リフトとなるエレベーターはあったが、上下のみ。それが左右にとは……」
「仕組みはよくわかりませんが、空間を歪曲してるとか何とかだそうです」
「さすがは古代人の技術、凄まじい……ところでカイン、大丈夫か?」
光の道と巨大な球体に驚いていたカインは続けざまに現れる未知の技術に言葉を失い、体を小刻みに震わせていた。
「え、ええ、私も王都出身で王立の病院に勤めていたこともありますから、エレベーターを使用したこともあります。ですけど、空間を歪曲……大丈夫なんですか?」
「まぁ、エクアたちがこれらを使用してどうにもなっていないから大丈夫なんだろう。エクア、案内を頼む」
「はい」
エクアはさっと乗り込み、私たちも続く。
それを確認した彼女が壁を叩くと、扉は閉まり、同時に叩かれた壁からは白い光の球体が生まれる。
「ここに入る前に目的地は設定してありますので、あとはこれに触れるだけです。では、行きましょう」
彼女が球体にちょこんと指先を当てると、球体はシャボン玉のように弾け、すぐに扉が開き、父の書斎を模した部屋に続く廊下横が現れた。
「なっ!?」
「このリフトは施設の適当な壁を扉にして目的の場所へ移動できるんです。だから、書斎近くまで簡単に移動できます」
「なんともはや、言葉もない。ところでカイン?」
「だ、大丈夫です。扉が閉じて、すぐに開いて別の光景というのは妙な気分ですが」
私は軽くカインの肩に触れる。
それをくすりとエクアは笑い、廊下へ出る。
「クスッ、私も最初はびっくりでしたけど、すぐに慣れますよ。それではフィナさんが待ってますから、お二人とも行きましょう」
エクアの足取りは軽く、書斎の方へ向かっていく。
その姿に、かつてトロッカーの水平型エスカレーターに戸惑っていた少女の姿はない。
「慣れか……なぜだろうな、少々寂しげな思いが過ぎる」
幼い少女が多くを経験して成長を遂げていく。
その速度は光よりも早く、私の視線の先を歩もうとしている。
「彼女といると、父のような気分が味わえるな。寂しくも嬉しい、不可思議な感情……ところでカイン。手を貸そうか?」
「その『ところで』はやめてくださいよ。ご心配はありがたいですが、ちゃんと自分で歩けますので……」
私たちは様々な感情を鎮め、エクアの後を追い、父の書斎を模倣した部屋へと向かう。
部屋に入ってすぐに、もう一人の目付け役である親父が挨拶をしてきた。
彼に挨拶を返し、部屋を見回す。
基本は父の書斎のままだが、奥にあった王都を見渡せる窓はなくなっており、その部分の壁だけ扇状になっている。そこには初めて訪れた時にあった、シャッターで閉じられたガラス窓があった。
また、室内から本が減り、さらにいくつか書斎には似つかわしくない、機械のようなものが置かれている。
それらの詳細を、金属の板を手に持ち執務机の上に腰を掛けて、板と睨めっこをしているフィナに尋ねる。
「フィナ、随分とすっきりしたな。妙な機械もあるし、それにその金属板は?」
「すっきりしたのは遺跡が私たちを認めてくれたからよ」
「うん?」
「大量の本が出てきたのは、私たちが書籍でしか情報を得られない遅れた存在だと思われたから。だけど今は、この金属の板っぽいタブレットだけで大抵の場所にアクセスできる」
「ほぅ、この遺跡はこちらの知力に合わせて変化するというわけか?」
「みたいね。んで、部屋にある機械類は……どうでもいいっか」
「どうでもはよくないだろ……」
「今回の用事から比べれば大したもんじゃないから」
「用事か……その用事とやらのためにカインを連れてきたぞ。それで一体、何を発見し、なぜ彼が必要なんだ?」
「そうねぇ。その前にまずは遺跡の状態を報告しとく。動力源は不明。折り重なる次元から力を抽出して、魔力ではない何かに変化させてるのはわかるんだけど、観測ができないの」
「観測ができない?」
「たしかにあるんだけど、私たちの領域では把握できないエネルギーってことね」
「よくわからんな」
「まぁね。それがわかればトーワの動力源の謎も解決できたんだけど、当面はお預け」
「それは残念だ」
「だけど、この施設はトーワと違い、エネルギーが十分なのはわかる。あと、各セクションに封印された場所があって、何があるかは謎。多少なりともアクセスする場所が増えたけど、基本的に以前とさほど変わらないし、下の階は汚染されっぱなし」
「依然として、わからないことだらけということか?」
「そういうことね。正直、情報過多でどれから手を付ければいいかわからないって感じ。例えるなら、百万冊の辞書をびりびりに引き裂いてごちゃごちゃに混ぜ込み、その中から必要な情報を探せって言われてる状態。しかも、文字のほとんどが読めない」
「気の滅入りそうな作業だな。ちゃんと寝ているのか?」
「それはバッチリ。そうじゃないとエクアと親父が怒るんだもん」
そう言って、彼女はエクアと親父をジトっと見つめる。
見つめられた二人は軽い笑いを落とす。
フィナはぷくっと頬を膨らませるが、すぐに表情を戻して私に顔を戻した。
「それら情報の渦の中で、親父が気になってたシャッターの先にあるものを調べてみたんだけど、それが何なのかわかった」
「ほぅ~。それはなんだ?」
「ふふん、いま、そのシャッターを開けるね」
フィナは金属の板を指先で叩く。
リズミカルに跳ねる指先の前に立体的な鍵の映像が現れ、彼女はその鍵を手に取り、ピッとガラス窓へ投げつける。
鍵はガラス窓にぶつかると光の波紋を見せて、外側のシャッターがゆっくり上へと上がり始めた。
この様子を見て、エクアと親父は私とカインに注意を促してくる。
「ケント様、かなりびっくりすると思いますからお気をたしかに」
「カイン先生も気をつけてくださいな」
「よくわからんが、気をつけよう」
「僕はここに来てから驚きっぱなしなんで、さすがにこれ以上はないですよ、あはは」
と、カインは声を出して笑ったが、シャッターが開ききったところで言葉を失った。
それは私も同じ……。
フィナはシャッターが消えた巨大なガラス窓の前に立ち、ふんぞり返ってその中にあるものを説明してくる。
「ふっふ~ん! たぶん、これ、古代人っ」
遺跡探索からしばしの時が経ち、私は執務室で手紙を認めていた。
この手紙は、アグリスと敵対しているビュール大陸側の代表たちと交流を重ねるもの。
手紙だけのやり取りではあるが、彼らとは非常に友好的な雰囲気で交流を結べている。
その手紙を認めている最中に、青色のひし形のナルフから通信が入った。
遺跡のいるフィナがなにか面白いものを発見したらしい。
その知らせで、彼女はカインを連れてこいと。
病人や怪我人が出たのかと尋ねたがそうではないようだ。
とにかく、連れてこいと言ってナルフの通信は切れた。
私はトーワをギウとゴリンに任せて、カインと共に馬で遺跡へと向かった。
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私は彼へ落ち着くようにと声を掛けて遺跡の出入り口となる階段に向かうのだが、階段の近くに、以前はなかった人の背丈よりも倍は高い金属でできた奇妙な筒状の物体があった。
物体には左右から閉じられた扉があり、その傍にフィナの目付け役であるエクアが立っている。
「エクア、この筒は?」
「遺跡の昇降リフトです。フィナさんが装置を操作して、これを」
「そのようなものがあったのか?」
「はい。ですが、浄化された場所のみでしか稼働できません。ですので、ここから下三階までなら。それでは、こちらへ」
エクアは手慣れた様子で閉じられた扉に手を振る。
その手の動作に反応し、無数の点が現れた。
ほとんどが赤色を示しているが、数個ほど青く光っている。
青の光は移動可能な場所を指しているのだろうか?
彼女はそのうちの一つを指先で弾き、扉を開いた。
内部は大荷物の搬送が可能なくらいに広く、奥行きがある。内装は白の壁で、他に何か目立ったものがあるわけでもない。
「この筒はエレベーターというわけか?」
「少し違います。このリフトは上下だけではなく左右にも動けますから。下三階までならどんな場所でも自由に移動が可能なんですよ」
「そ、そうなのか? ドハ研究所にも昇降リフトとなるエレベーターはあったが、上下のみ。それが左右にとは……」
「仕組みはよくわかりませんが、空間を歪曲してるとか何とかだそうです」
「さすがは古代人の技術、凄まじい……ところでカイン、大丈夫か?」
光の道と巨大な球体に驚いていたカインは続けざまに現れる未知の技術に言葉を失い、体を小刻みに震わせていた。
「え、ええ、私も王都出身で王立の病院に勤めていたこともありますから、エレベーターを使用したこともあります。ですけど、空間を歪曲……大丈夫なんですか?」
「まぁ、エクアたちがこれらを使用してどうにもなっていないから大丈夫なんだろう。エクア、案内を頼む」
「はい」
エクアはさっと乗り込み、私たちも続く。
それを確認した彼女が壁を叩くと、扉は閉まり、同時に叩かれた壁からは白い光の球体が生まれる。
「ここに入る前に目的地は設定してありますので、あとはこれに触れるだけです。では、行きましょう」
彼女が球体にちょこんと指先を当てると、球体はシャボン玉のように弾け、すぐに扉が開き、父の書斎を模した部屋に続く廊下横が現れた。
「なっ!?」
「このリフトは施設の適当な壁を扉にして目的の場所へ移動できるんです。だから、書斎近くまで簡単に移動できます」
「なんともはや、言葉もない。ところでカイン?」
「だ、大丈夫です。扉が閉じて、すぐに開いて別の光景というのは妙な気分ですが」
私は軽くカインの肩に触れる。
それをくすりとエクアは笑い、廊下へ出る。
「クスッ、私も最初はびっくりでしたけど、すぐに慣れますよ。それではフィナさんが待ってますから、お二人とも行きましょう」
エクアの足取りは軽く、書斎の方へ向かっていく。
その姿に、かつてトロッカーの水平型エスカレーターに戸惑っていた少女の姿はない。
「慣れか……なぜだろうな、少々寂しげな思いが過ぎる」
幼い少女が多くを経験して成長を遂げていく。
その速度は光よりも早く、私の視線の先を歩もうとしている。
「彼女といると、父のような気分が味わえるな。寂しくも嬉しい、不可思議な感情……ところでカイン。手を貸そうか?」
「その『ところで』はやめてくださいよ。ご心配はありがたいですが、ちゃんと自分で歩けますので……」
私たちは様々な感情を鎮め、エクアの後を追い、父の書斎を模倣した部屋へと向かう。
部屋に入ってすぐに、もう一人の目付け役である親父が挨拶をしてきた。
彼に挨拶を返し、部屋を見回す。
基本は父の書斎のままだが、奥にあった王都を見渡せる窓はなくなっており、その部分の壁だけ扇状になっている。そこには初めて訪れた時にあった、シャッターで閉じられたガラス窓があった。
また、室内から本が減り、さらにいくつか書斎には似つかわしくない、機械のようなものが置かれている。
それらの詳細を、金属の板を手に持ち執務机の上に腰を掛けて、板と睨めっこをしているフィナに尋ねる。
「フィナ、随分とすっきりしたな。妙な機械もあるし、それにその金属板は?」
「すっきりしたのは遺跡が私たちを認めてくれたからよ」
「うん?」
「大量の本が出てきたのは、私たちが書籍でしか情報を得られない遅れた存在だと思われたから。だけど今は、この金属の板っぽいタブレットだけで大抵の場所にアクセスできる」
「ほぅ、この遺跡はこちらの知力に合わせて変化するというわけか?」
「みたいね。んで、部屋にある機械類は……どうでもいいっか」
「どうでもはよくないだろ……」
「今回の用事から比べれば大したもんじゃないから」
「用事か……その用事とやらのためにカインを連れてきたぞ。それで一体、何を発見し、なぜ彼が必要なんだ?」
「そうねぇ。その前にまずは遺跡の状態を報告しとく。動力源は不明。折り重なる次元から力を抽出して、魔力ではない何かに変化させてるのはわかるんだけど、観測ができないの」
「観測ができない?」
「たしかにあるんだけど、私たちの領域では把握できないエネルギーってことね」
「よくわからんな」
「まぁね。それがわかればトーワの動力源の謎も解決できたんだけど、当面はお預け」
「それは残念だ」
「だけど、この施設はトーワと違い、エネルギーが十分なのはわかる。あと、各セクションに封印された場所があって、何があるかは謎。多少なりともアクセスする場所が増えたけど、基本的に以前とさほど変わらないし、下の階は汚染されっぱなし」
「依然として、わからないことだらけということか?」
「そういうことね。正直、情報過多でどれから手を付ければいいかわからないって感じ。例えるなら、百万冊の辞書をびりびりに引き裂いてごちゃごちゃに混ぜ込み、その中から必要な情報を探せって言われてる状態。しかも、文字のほとんどが読めない」
「気の滅入りそうな作業だな。ちゃんと寝ているのか?」
「それはバッチリ。そうじゃないとエクアと親父が怒るんだもん」
そう言って、彼女はエクアと親父をジトっと見つめる。
見つめられた二人は軽い笑いを落とす。
フィナはぷくっと頬を膨らませるが、すぐに表情を戻して私に顔を戻した。
「それら情報の渦の中で、親父が気になってたシャッターの先にあるものを調べてみたんだけど、それが何なのかわかった」
「ほぅ~。それはなんだ?」
「ふふん、いま、そのシャッターを開けるね」
フィナは金属の板を指先で叩く。
リズミカルに跳ねる指先の前に立体的な鍵の映像が現れ、彼女はその鍵を手に取り、ピッとガラス窓へ投げつける。
鍵はガラス窓にぶつかると光の波紋を見せて、外側のシャッターがゆっくり上へと上がり始めた。
この様子を見て、エクアと親父は私とカインに注意を促してくる。
「ケント様、かなりびっくりすると思いますからお気をたしかに」
「カイン先生も気をつけてくださいな」
「よくわからんが、気をつけよう」
「僕はここに来てから驚きっぱなしなんで、さすがにこれ以上はないですよ、あはは」
と、カインは声を出して笑ったが、シャッターが開ききったところで言葉を失った。
それは私も同じ……。
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