銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
173 / 359
第十六章 銀眼に宿るモノ

残影が広がる世界

しおりを挟む
 左目に木片が突き刺さり、診療台に横たわるケント。
 彼のそばには、カイン・エクア・ギウ・親父・マフィン・フィナが立っている。


 痛々しいケントの姿を見て、エクアは水色の髪を振り乱し、謝罪を繰り返す。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。倒木から私をかばったばかりに!」
「それは違うニャよ、エクア。道を管理していたのはキャビットニャ。責められるべきは俺たちニャ」
「責任の所在が誰かなんてどうでもいい! カイン、ケントの容体は!?」

 フィナに問われたカインは立方体の灰色の医療用ナルフを使い、ケントの容体を診ている。
「っ……木片は脳まで到達している。残念だけど、これじゃ助からない」

 この言葉に、エクアは足から力を失い、へたりと床に腰を落とす。
 親父は壁を殴りつけ、マフィンは片手で猫耳を押さえる。
 フィナはカインに食って掛かるが、カインの答えは変わらない。
 その中でギウは僅かな動作を見せて、前へ歩き出そうとした。
 だが、途中で足を止め、真っ黒な瞳にケントの姿を映す。



――――
「……つっ、ここは?」
 辺りを見回す。あるのは古びた家具たち。
 どうやら、私は再び元のベッドに横たわっているようだ。
 そのベッドの脇には木製の椅子に座るセアの姿があった。

「あら、おはよう。目の痛みはどう?」
「え? あまり痛くないな」
「そう、それはよかった」
「君が治してくれたのか?」
「痛みを取り去っただけ。ま、全てが済んだら傷は治してあげるから安心して」
「傷?」

 私は激痛の走った左目に手を置いた。
 しかし、傷らしきものは一切ない。
 戸惑う私を見たセアは小さく笑う。


「クスッ、まだ思い出さないのね。あなた、エクアを守って傷を負ったのよ」
「エクアを…………そうだ! マフィンに会いに行く途中、木が倒れてきて、それでエクアをかばい」
「そう。その時、木片が左目に突き刺さって、今のあなたは危篤状態」
「危篤?」
「ええ、危篤よ。そこにある鏡を見てちょうだい」


 彼女に促され、手鏡が置かれた台を見た。
 そこには怪我を負った私を取り囲む仲間たちがいる。
 皆は口々に私を心配し、エクアはあまりの出来事に我を失っているようだ。

「これは、一体?」
「あっちは現実の世界」
「現実? それでは、ここはあの世だというのか?」
「似たようなものだけど、ちょっと違う。ここは情報の残影が広がる世界」
「ん?」
「私たちが何者かはもうわかっているでしょう?」
「この村が本当にあのテラなら、君たちは勇者の末裔である地球人の血を引く者たちとなるが……」
「正解。私は地球人の血を引く者。私だけじゃなく、村に暮らす人々もね」
「……説明をしてもらえるか?」
「もちろんっ」


 セアはこの世界が何なのか、一体何が起きているのか。
 その説明を丁寧に行ってくれた。


――セアの説明

 私たち地球人の末裔の肉体には、ある日のこと、古代人の力が宿ってしまった。
 そのため、命を蝕まれることになったんだけど、代わりに彼らの力を使って記憶を残す領域を生み出すことができた。
 この世界は生前の私たちの記憶を留め、守り、今も情報を重ね続ける世界。
 
 
「この世界で私たちは一の存在となり、全てを共有する存在となった。その世界にケント、あなたが迷い込んできたのよ」
「なぜ?」
「あなたの銀の瞳の力。あなたの瞳にも古代人の力が宿っている。その力が脳まで到達した木片によって、脳内部に流入した。そのおかげで、私たちの世界と繋がったというわけ」

「いまいち理解しがたいが、銀眼に宿る力が脳に入り込み、今の状態にあるわけだな」
「そうね」

「この世界は地球人の末裔たちの世界……初代勇者、地球人たちの記憶は?」
「断片的には。訪れた地球人に宿ったアレは、その時だとまだ薄いものだった。だから、人格を残せるほどの情報は残ってないの。アレは二つの力が綱を引き合い、世代を重ねるごとに濃くなり、一方が力を増し、均衡を破るもの……」

「たしかにそういう代物だったな。それで、私はこれからどうなる?」
「私たちが傷を治す。だから、あなたが死ぬことはないわ。でも、その前に見てもらいたいものがあるの」
「それは?」


 セアは椅子から立ち上がり、両手を大きく広げた。
「私たちの村を見てもらいたいの。ここで私たちがどのように暮らし、何が起きたのか」
「君たちの暮らしぶりを見るだけでいいのか? その程度なら……しかし……」


 台に乗る手鏡には仲間たちの悲痛な声と姿が映し出されている。
「彼らに、私のことを心配する必要はないと伝えられないだろうか?」
「ごめんなさい。それは私たちでは無理なの」
「そうか……」

「でも~、わたしなら可能よ~。ケント様~」
「なっ!?」



 不意に、柔らかな声とともに水が螺旋を描き、その中から流動生命体のイラが姿を現した。
 相も変わらず、清涼に透き通った美しい水衣みずころもを纏うイラ。
 彼女の突然の登場にはセアも驚いている。彼女にとってもこれは予想外の出来事のようだ。
 イラは私たちの驚きに小悪魔のような微笑みを向ける。

「ふふふ~、びっくりさせちゃってごめんさ~い」



――診療室

 皆が痛ましさに身を包む中、カインは医療用ナルフと木片を交互に見ながら、何とかケントを救う方法を考えていた。

「治癒魔法で木片を覆い、そっと木片を抜く。うまくいけば命は救えるかもしれない。だけど、助かったとしても、どれほどの障害が残るか。一生、意思の疎通もできない姿になるかも。どうすればっ」
「おちついて~、先生~」
「え?」


 この場には不似合いなのんびりとした声が響く。
 皆は診療室の入口に顔を向けた。
 そこにいたのは、水のような肉体を揺らす流動生命体のイラ。
 彼女はちらりとギウを見るが、ギウは無言のまま何も答えず。

 それを肯定と受け取り、彼女は診療室に入った。
 そして、ここに居る全員に話しかける。

「ケント様は~、いま、大事な用事を行っているのよ~」
「用事? あんた何を言ってるの?」
「フィナちゃ~ん、世界には不思議なことが数多にあるけどぉ、それをいま問いかける場ではないでしょ~」
「っ!?」

 イラは言葉優し気な音を産むが、それに内包される圧には有無を言わせぬものがあった。
 フィナはその圧に押され、言葉をなくす。
 イラはゆらりと体を振って話を続ける。

「世界は疑問だらけ~。でも~、あなたたちがいま知りたいのはぁ、ケント様のこと~。そうでしょ?」
 皆はこくりと頷く。
 それを受け取ったイラは微笑み、言葉を返す。

「私はケント様の意識に入り込むことができるの~。そこでみんなの伝言を伝え、みんなにもケント様の伝言を伝えてあげるからね~」

 イラは静々と歩き、ケントの傷に手を伸ばす。
 伸ばされた手は形を失い、水となってケントの傷口に浸透していった。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

精霊に愛される(呪いにもにた愛)少女~全属性の加護を貰う~

如月花恋
ファンタジー
今この世界にはたくさんの精霊がいる その精霊達から生まれた瞬間に加護を貰う 稀に2つ以上の属性の2体の精霊から加護を貰うことがある まぁ大体は親の属性を受け継ぐのだが… だが…全属性の加護を貰うなど不可能とされてきた… そんな時に生まれたシャルロッテ 全属性の加護を持つ少女 いったいこれからどうなるのか…

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

処理中です...