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第十六章 銀眼に宿るモノ
繋がる情報と思い
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――テラ
イラから話を聞いて、彼女が伝言役として訪れたと知る。
その方法や、彼女がこの事態を冷静に受け止めていられるのは謎だが、まず優先すべきは、仲間へ私の安否を伝えることだ。
「そうか、それほど皆が心配していたか。皆に伝えてくれ。こっちは大丈夫だ。どのくらいで戻れるかわからないが、死の心配はないらしい」
私はちらりとセアを見る。彼女はにこりと微笑みを返す。
伝言を受け取ったイラは姿を霞に変えて、そよ風に混ざり霧散していった。
私はイラがいた場所から、セアへ顔を向ける。
「それで、私はこれから、君たちの何を見ればいいんだ?」
「私たちのありのままの生活。それを知ってほしいの」
「何故だ?」
「あなたは、あなたたちは私たちのことをどう思ってる?」
「ん?」
「きっと、ヴァンナスに捕らわれた鳥。彼らに利用され、哀れにも翼をもがれた鳥だと思っているでしょう?」
「それは……」
「ふふ、それは間違っていない。でも、それだけじゃなかった。たしかに私たちはヴァンナスに管理されて生きてきた。だからといって、不幸ばかりじゃなかった。それを知ってほしいの。さぁ、村の真実の姿を見て……」
セアの声に誘われ、私はテラでの日常を銀の瞳に刻んでいく。
畑を耕す男性が私に話しかけてくる。
「畑に必要な栄養素はわかるかい? 窒素やリン酸やカリウム。それにカルシウムやマグネシウムなんかも必要なんだぜ」
「ええ、もちろん……ん?」
「おや、どうしたんだい?」
「いえ、考えてみたら、私は畑の栄養素などどこで学んだのだろうと思いまして」
「あはは、それは俺からかもしれねぇな」
「え?」
「この世界とケントの目は微弱だが繋がっているからな。だから、無意識にアクセスして、情報を取り出してんだろ」
「そんなことが。まったく気づきませんでした」
「ま、繋がりが低いからしゃーねぇよ。今回みたいな事故でもないかぎり、会えなかったわけだしよっ。あはははは」
この男性の会話を皮切りに、私が知るはずのない知識でありながら、当たり前のように知っていた出来事に触れていく。
生命誕生は必然か偶然かについての話やバベルの塔などの地球の神話のこと。
これらの情報は生まれて学んだ覚えがない。
つまり、無意識に彼らの世界にアクセスしていたのだろう。
(しかしバベルはともかく、無機物が情報を残そうとしている話なんぞオカルトそのものだぞ。こちらに訪れた地球人は、ある種マニアックな人間だったのかもな。いや、それについては私の瞳の力に当て込めば、あながち間違ったものでもないのか? ということは、つまり)
ここで私はあることに気づく。それはあとでセアに尋ねるとしよう。
しばらく話を聞いて回り、時折、薪割りの手伝いや子どもたちの面倒を見る。
そうこうしているうちにセアが姿を現した。
「どう、調子は?」
彼女はちらりと左目を見る。
「ああ、痛みもなく上々だ」
「それはよかった」
セアは優しく微笑む。それは嘘偽りのない笑顔。
心を温かく包んでくれるセアへ、先ほど気づいた疑問をぶつけてみる。
「今しがた、私の目と君たちの世界が繋がっているという話を聞いたんだが?」
「ええ、そうだけど、それがどうしたの?」
「これは古代人の力だよな? とするならば、古代人の情報にアクセスすることも可能じゃないのか?」
「ふふふ、目が早いわね。だけど、それは無理っぽいの」
「無理?」
セアは空を指差す。
空には青空と白い雲。その白い雲の先にうっすらとした巨大な黒い箱が見える。
「あそこにあるのが古代人の情報領域なんだけど、アクセス権限がないと駄目みたい」
「そうなのか? 方法は?」
「わからない。この世界とあっちの世界は完全に独立した領域みたいで」
「完全に独立、ふむ?」
「どうしたの?」
「いや、何でもない……」
無機物が情報を残そうとしている――これについての知識は古代人の情報によるものだと思っていた。
しかし、違うようだ。
では、この情報は初代地球人の記憶の断片で、その人物の偏った知識よるものだったのだろうか?
それともセアたちもまた、銀眼に宿る力を知っているため、余計な情報と組み合わさり、妙な仮説を唱えてしまったのか?
(ふむ、セアは古代人の情報にアクセスできないと言う。やはり、テラから妙な仮説が流れ込んできただけなのか? てっきり、古代人の知識にアクセスできていたのかと思ったのだが……)
私は空を見上げ、雲によって霞がかっている巨大な黒箱を見つめる。
しばし無言で見つめ続ける私に、セアはそっと私の名を呼んだ。
「ねぇ、ケント?」
「うん、なにかな?」
セアは村全体に両手を大きく広げるような振る舞いを見せる。
「私たちの村の感想は?」
「穏やかな村だ。とてもヴァンナスに管理された村とは思えない」
「ふふふ、それを知ってほしかったの。時が経ち、村の存在が明るみになったとき、人々は私たちを不幸な存在として涙してくれるでしょう。でも、それだけじゃない。ここには不幸もあった。だけど、些末ながらも幸せもあった。不幸も幸福もあらゆる感情が詰め込まれたこの村のことを、誰かに知っていてほしいの」
「そのために、私をここへ」
「怪我で偶然だけどね」
「はは、怪我の功名とはよく言ったもんだ。それで、私はこの村にどの程度滞在することになる?」
「ざっと、五十年くらい」
「え!?」
「ふふ、大丈夫。現実世界だと大した時間じゃないからねっ」
セアはパチリとウインクを飛ばし、私をからかう仕草を見せた。
イラから話を聞いて、彼女が伝言役として訪れたと知る。
その方法や、彼女がこの事態を冷静に受け止めていられるのは謎だが、まず優先すべきは、仲間へ私の安否を伝えることだ。
「そうか、それほど皆が心配していたか。皆に伝えてくれ。こっちは大丈夫だ。どのくらいで戻れるかわからないが、死の心配はないらしい」
私はちらりとセアを見る。彼女はにこりと微笑みを返す。
伝言を受け取ったイラは姿を霞に変えて、そよ風に混ざり霧散していった。
私はイラがいた場所から、セアへ顔を向ける。
「それで、私はこれから、君たちの何を見ればいいんだ?」
「私たちのありのままの生活。それを知ってほしいの」
「何故だ?」
「あなたは、あなたたちは私たちのことをどう思ってる?」
「ん?」
「きっと、ヴァンナスに捕らわれた鳥。彼らに利用され、哀れにも翼をもがれた鳥だと思っているでしょう?」
「それは……」
「ふふ、それは間違っていない。でも、それだけじゃなかった。たしかに私たちはヴァンナスに管理されて生きてきた。だからといって、不幸ばかりじゃなかった。それを知ってほしいの。さぁ、村の真実の姿を見て……」
セアの声に誘われ、私はテラでの日常を銀の瞳に刻んでいく。
畑を耕す男性が私に話しかけてくる。
「畑に必要な栄養素はわかるかい? 窒素やリン酸やカリウム。それにカルシウムやマグネシウムなんかも必要なんだぜ」
「ええ、もちろん……ん?」
「おや、どうしたんだい?」
「いえ、考えてみたら、私は畑の栄養素などどこで学んだのだろうと思いまして」
「あはは、それは俺からかもしれねぇな」
「え?」
「この世界とケントの目は微弱だが繋がっているからな。だから、無意識にアクセスして、情報を取り出してんだろ」
「そんなことが。まったく気づきませんでした」
「ま、繋がりが低いからしゃーねぇよ。今回みたいな事故でもないかぎり、会えなかったわけだしよっ。あはははは」
この男性の会話を皮切りに、私が知るはずのない知識でありながら、当たり前のように知っていた出来事に触れていく。
生命誕生は必然か偶然かについての話やバベルの塔などの地球の神話のこと。
これらの情報は生まれて学んだ覚えがない。
つまり、無意識に彼らの世界にアクセスしていたのだろう。
(しかしバベルはともかく、無機物が情報を残そうとしている話なんぞオカルトそのものだぞ。こちらに訪れた地球人は、ある種マニアックな人間だったのかもな。いや、それについては私の瞳の力に当て込めば、あながち間違ったものでもないのか? ということは、つまり)
ここで私はあることに気づく。それはあとでセアに尋ねるとしよう。
しばらく話を聞いて回り、時折、薪割りの手伝いや子どもたちの面倒を見る。
そうこうしているうちにセアが姿を現した。
「どう、調子は?」
彼女はちらりと左目を見る。
「ああ、痛みもなく上々だ」
「それはよかった」
セアは優しく微笑む。それは嘘偽りのない笑顔。
心を温かく包んでくれるセアへ、先ほど気づいた疑問をぶつけてみる。
「今しがた、私の目と君たちの世界が繋がっているという話を聞いたんだが?」
「ええ、そうだけど、それがどうしたの?」
「これは古代人の力だよな? とするならば、古代人の情報にアクセスすることも可能じゃないのか?」
「ふふふ、目が早いわね。だけど、それは無理っぽいの」
「無理?」
セアは空を指差す。
空には青空と白い雲。その白い雲の先にうっすらとした巨大な黒い箱が見える。
「あそこにあるのが古代人の情報領域なんだけど、アクセス権限がないと駄目みたい」
「そうなのか? 方法は?」
「わからない。この世界とあっちの世界は完全に独立した領域みたいで」
「完全に独立、ふむ?」
「どうしたの?」
「いや、何でもない……」
無機物が情報を残そうとしている――これについての知識は古代人の情報によるものだと思っていた。
しかし、違うようだ。
では、この情報は初代地球人の記憶の断片で、その人物の偏った知識よるものだったのだろうか?
それともセアたちもまた、銀眼に宿る力を知っているため、余計な情報と組み合わさり、妙な仮説を唱えてしまったのか?
(ふむ、セアは古代人の情報にアクセスできないと言う。やはり、テラから妙な仮説が流れ込んできただけなのか? てっきり、古代人の知識にアクセスできていたのかと思ったのだが……)
私は空を見上げ、雲によって霞がかっている巨大な黒箱を見つめる。
しばし無言で見つめ続ける私に、セアはそっと私の名を呼んだ。
「ねぇ、ケント?」
「うん、なにかな?」
セアは村全体に両手を大きく広げるような振る舞いを見せる。
「私たちの村の感想は?」
「穏やかな村だ。とてもヴァンナスに管理された村とは思えない」
「ふふふ、それを知ってほしかったの。時が経ち、村の存在が明るみになったとき、人々は私たちを不幸な存在として涙してくれるでしょう。でも、それだけじゃない。ここには不幸もあった。だけど、些末ながらも幸せもあった。不幸も幸福もあらゆる感情が詰め込まれたこの村のことを、誰かに知っていてほしいの」
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「怪我で偶然だけどね」
「はは、怪我の功名とはよく言ったもんだ。それで、私はこの村にどの程度滞在することになる?」
「ざっと、五十年くらい」
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