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第十六章 銀眼に宿るモノ
喜びも悲しみも尊いもの
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月日は瞬く間に流れ、五十年が経つ――
私はずっと若々しいままだったが、セアたちはすっかり年を取り、老人となっていた。
当時子どもだった者たちには孫やひ孫ができている。
この五十年の間、悲しいことも楽しいこともあった。
たくさんの出来事が村で起きた。
――勇者の末裔が住んでいた村・テラ
ヴァンナスに秘匿とされた村。
ヴァンナスは地球人の末裔たちに勇者を生み出すことを強要していた。
血の濃ゆくなった者同士の結婚。
障害が顕在化しやすくなるというのに、ヴァンナスは容赦なく勇者を求める。
ヴァンナスの罪であり、闇。
そして、絶望を背負った村。
それだけの村だと思っていたが、彼らには彼らの幸せがあった。
私はそれらを知り、彼らの幸福と不幸を後世に伝える役目を負った。
そして、役目の最後の時が訪れる。
五十年の歳月を若いままで過ごし続けた私は、年老いたセアを支え、いつものように村を散歩する。
その途中で、セアは足を止めて、胸を押さえ始めた。
「セア、大丈夫か? 君もそろそろ年だ。あまり無茶をしない方がいい」
「ふふ、ありがとう。本当にケントは優しい人ね。だけど、これは年のせいじゃないの。今日、時が訪れる」
「とき?」
ばたりと、誰かが倒れる音が響いた。
その人は私に声を掛けてきた、野良作業を行っていた男性の孫。
彼に声を掛けようとする。だが、またもやばたりと誰かが倒れる音が響く。
その音は次々に起こる。
老人も若者も子どもたちも、ばたりと倒れ、言葉を発することなく、静かに命の灯を消した。
「こ、これは、一体?」
「古代人の力よ」
「セア?」
「私たちの肉体に宿った古代人の力が発動したの。命を蝕み、喰らいつくす力が……」
「喰らいつくす……もしや、これが話に聞いた、地球人の末裔の滅亡の日か……」
地球人の村に関する文献に載っていた、彼らの突然の滅亡。
古代人の力が発現し、命の火を刈り取る恐ろしい出来事。
それをいま、私は目にしようとしている……。
「セア?」
倒れかかった彼女を支え呼びかける。
しかし、返ってくる声はとても弱々しいもの。
「ケント、あなたと過ごした五十年は楽しかった。たとえそれが、存在しなかった時間、幻であっても楽しかった」
「セア、しっかりするんだ!」
「現実の私には子どもを残す力がなかった。夫もなく、この小さな村で孤独に一生を終えた。だけど、あなたのおかげで、誰かと共に生きる喜びを知った。息子と過ごす楽しさを知った。ありがとう、ケント…………」
「セア? 返事をしてくれ、セアっ! セアっ!!」
セアの姿は朧となり消えていく。
私の手の中から彼女は居なくなり、辺りは闇に閉ざされた。
闇にはいくつもの光が浮かび、その内の一つから細く白い人差し指が伸びて、私の涙をすくった。
「ケント、泣かないで。これらは幻。あなたにこの村で起きた出来事を知ってもらうためのね」
「セア……」
光に包まれたセアが立っている。初めて出会った若々しい姿で……。
彼女の姿を目にした私は涙を流し続ける。
もう一度、セアは私に言う。
「泣かないで、ケント」
「それは無理だっ。たとえ幻であっても、君と過ごした五十年は私にとって本物だった。楽しかった日々も、失った痛みも本物だ!」
「ケント……」
「君が目の前にいて、元気だと知っても、心に宿った思いは変えられないっ!」
「ごめんなさい。私たちはあなたの心にそこまで深く、入り込んでしまったのね」
「謝る必要はない。私にとって、この五十年は素晴らしい時間だった。ありがとう、セア。必ず、君たちの村の出来事は記す。後世に伝えていく!」
「お礼を言うのは私たちよ。ありがとう、ケント。それじゃあ、いつかまた会えるといいわね……」
光が私を取り囲む。
暖かく、とても力強い輝きが私を包む。
輝きは左目に集約されて、私はゆっくりと両目を開けた。
――診療室
診療台に乗っていたケントの左目から輝きが飛び出す。
光は木片を消し去り、穴の開いた左目とその表面。さらに、奥にある脳を急速に再生していく。
彼を囲んでいた仲間たちは、その奇跡を無言のままに見つめていた。
やがて、光が消え、ケントは怪我一つない姿に戻る。
そして、ゆっくりと瞼を開き、皆に銀眼の宿る両眼を見せた。
「やぁ、みんな。久しぶりだな」
そう、彼はさわやかな朝を迎えるような挨拶を交わす。
その声を聞いた瞬間、エクアはケントに抱き着いた。
「ケント様!」
「おおっと、エクア。かなり心配かけたようで、すまない」
「よかった……よかったっ、本当に良かった!」
ケントは泣きじゃくるエクアの頭を優しく撫でて、仲間たちの顔を一人一人しっかりと銀眼に宿していく。
「みんなには伝えたいことがある。全てを伝えることは難しいが、私がどこで何をしていたのか。そして、彼らがどのように一生を終えたのかを伝えたい」
私はずっと若々しいままだったが、セアたちはすっかり年を取り、老人となっていた。
当時子どもだった者たちには孫やひ孫ができている。
この五十年の間、悲しいことも楽しいこともあった。
たくさんの出来事が村で起きた。
――勇者の末裔が住んでいた村・テラ
ヴァンナスに秘匿とされた村。
ヴァンナスは地球人の末裔たちに勇者を生み出すことを強要していた。
血の濃ゆくなった者同士の結婚。
障害が顕在化しやすくなるというのに、ヴァンナスは容赦なく勇者を求める。
ヴァンナスの罪であり、闇。
そして、絶望を背負った村。
それだけの村だと思っていたが、彼らには彼らの幸せがあった。
私はそれらを知り、彼らの幸福と不幸を後世に伝える役目を負った。
そして、役目の最後の時が訪れる。
五十年の歳月を若いままで過ごし続けた私は、年老いたセアを支え、いつものように村を散歩する。
その途中で、セアは足を止めて、胸を押さえ始めた。
「セア、大丈夫か? 君もそろそろ年だ。あまり無茶をしない方がいい」
「ふふ、ありがとう。本当にケントは優しい人ね。だけど、これは年のせいじゃないの。今日、時が訪れる」
「とき?」
ばたりと、誰かが倒れる音が響いた。
その人は私に声を掛けてきた、野良作業を行っていた男性の孫。
彼に声を掛けようとする。だが、またもやばたりと誰かが倒れる音が響く。
その音は次々に起こる。
老人も若者も子どもたちも、ばたりと倒れ、言葉を発することなく、静かに命の灯を消した。
「こ、これは、一体?」
「古代人の力よ」
「セア?」
「私たちの肉体に宿った古代人の力が発動したの。命を蝕み、喰らいつくす力が……」
「喰らいつくす……もしや、これが話に聞いた、地球人の末裔の滅亡の日か……」
地球人の村に関する文献に載っていた、彼らの突然の滅亡。
古代人の力が発現し、命の火を刈り取る恐ろしい出来事。
それをいま、私は目にしようとしている……。
「セア?」
倒れかかった彼女を支え呼びかける。
しかし、返ってくる声はとても弱々しいもの。
「ケント、あなたと過ごした五十年は楽しかった。たとえそれが、存在しなかった時間、幻であっても楽しかった」
「セア、しっかりするんだ!」
「現実の私には子どもを残す力がなかった。夫もなく、この小さな村で孤独に一生を終えた。だけど、あなたのおかげで、誰かと共に生きる喜びを知った。息子と過ごす楽しさを知った。ありがとう、ケント…………」
「セア? 返事をしてくれ、セアっ! セアっ!!」
セアの姿は朧となり消えていく。
私の手の中から彼女は居なくなり、辺りは闇に閉ざされた。
闇にはいくつもの光が浮かび、その内の一つから細く白い人差し指が伸びて、私の涙をすくった。
「ケント、泣かないで。これらは幻。あなたにこの村で起きた出来事を知ってもらうためのね」
「セア……」
光に包まれたセアが立っている。初めて出会った若々しい姿で……。
彼女の姿を目にした私は涙を流し続ける。
もう一度、セアは私に言う。
「泣かないで、ケント」
「それは無理だっ。たとえ幻であっても、君と過ごした五十年は私にとって本物だった。楽しかった日々も、失った痛みも本物だ!」
「ケント……」
「君が目の前にいて、元気だと知っても、心に宿った思いは変えられないっ!」
「ごめんなさい。私たちはあなたの心にそこまで深く、入り込んでしまったのね」
「謝る必要はない。私にとって、この五十年は素晴らしい時間だった。ありがとう、セア。必ず、君たちの村の出来事は記す。後世に伝えていく!」
「お礼を言うのは私たちよ。ありがとう、ケント。それじゃあ、いつかまた会えるといいわね……」
光が私を取り囲む。
暖かく、とても力強い輝きが私を包む。
輝きは左目に集約されて、私はゆっくりと両目を開けた。
――診療室
診療台に乗っていたケントの左目から輝きが飛び出す。
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やがて、光が消え、ケントは怪我一つない姿に戻る。
そして、ゆっくりと瞼を開き、皆に銀眼の宿る両眼を見せた。
「やぁ、みんな。久しぶりだな」
そう、彼はさわやかな朝を迎えるような挨拶を交わす。
その声を聞いた瞬間、エクアはケントに抱き着いた。
「ケント様!」
「おおっと、エクア。かなり心配かけたようで、すまない」
「よかった……よかったっ、本当に良かった!」
ケントは泣きじゃくるエクアの頭を優しく撫でて、仲間たちの顔を一人一人しっかりと銀眼に宿していく。
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