銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
176 / 359
第十六章 銀眼に宿るモノ

銀の瞳に宿るモノ

しおりを挟む
――数日後・執務室


 左目の診察を終えて、カインから問題なしという評価をもらう。
 その後、トロッカーからマスティフを呼び、彼が訪れたところで、執務室にギウ・エクア・フィナ・親父・カイン・マフィン・マスティフ。そしてイラに集まってもらった。

 そこで、私が勇者の村にいたこと。
 ヴァンナスの機密に当たる、勇者絶滅の話。
 そして、彼らがどのような生を歩んだのか。

 それらを伝え終えた。
 
 私の傍らでこれらの記録を取っていたエクアは、時折涙をぬぐいペンを走らせている。
 皆はまさに夢物語と言っていい話に戸惑いを見せて、どう言葉を表していいのかわからない様子だった。


 その中で、フィナが私に向かって眉を折る。
「五十年ねぇ、その割にはあんまり変わった様子ないよね?」
「記憶は確かに存在するのだが……ふむ、心の経験値はあまり積まれてないな。鮮明ではあるが、夢と同じような場所なのかもしれない」

「それでもその夢は現実であり、そして、とても悲しくも尊い物語だった……それはそれとして受け止める。だけど、どうしても尋ねておかなきゃいけない疑問がたくさんある」
 彼女はまっすぐと私を見据え、私もその視線を正面から受け止める。彼女は疑問を息つく暇もなく投げかけてきた。

「すでに勇者は絶滅している――それじゃ、今の勇者は何者? 地球人に古代人の力が宿った――なぜ? その力はあなたの銀眼にも宿っている――どういうこと?」
「その疑問に答えることはできない」
「ヴァンナスの機密だから?」

「それもあるが、それだけならさすがに話すさ。ここに居る者たちは、全員信頼に足る人物だからな」
「じゃあ、どうして答えてくれないの?」

「フィナ、君が賢すぎるからだ」
「え?」
「私には、機密以上に守りたいものがある。だが、それに僅かに触れるだけで、君は答えを見つける。だから、言えないんだ……」

 
 私はゆっくりと諭すように言葉を漏らした。
 それにフィナは声を返そうとしたが、途中で声を降ろす。
 彼女は私の顔を見て、問うても絶対に話さないと悟ったのだろう。
 フィナの顔は以前とは違い、不満に寂しさを乗せている。
 その寂しさの意味を私は知る。

(真の意味で信頼されない寂しさか……以前とは違い、彼女もまたエクアと同様に変化しているというわけか……彼女に話せば気づかれる可能性は高くなる。黙っているべき……)
 だが、これではフィナの、仲間たちの仁義に背くことになる。

 だから私は……。


「全ては話せないが、古代人の力については話をしよう」
「え?」

 私の言葉にフィナはもちろん、他の仲間たちも驚きの声を上げた。
 おそらく、私がこれ以上語ることはないと思っていたのだろう。
 私はフィナが並べた疑問のおさらいをするように言葉を落としていく。

「現勇者の正体。それは言えない。なぜ、地球人に古代人の力が宿ったのか。これについては不明瞭な部分がある。私が古代人の力を銀眼に宿している理由。これは言えない。だが、その力の正体を明かそう」


 私は執務机から席を立ち、顔を正面に向けて銀眼を皆に見せつけた。

「この銀眼に宿る力は微小機械。ナノマシンと呼ばれるものだ。私の銀眼には古代人が生んだナノマシンが宿り、そして、現勇者であるレイやアイリの肉体にも宿っている」

 この言葉にフィナは驚くが、一部の者には理解が及んでいないようだった。
 だから、もう少し詳しく、ナノマシンについて話す。
 その役割についても……。


 ナノマシン――目に見えないほど小さく、ウイルスよりも小さい機械。古代人が生み出したテクノロジーで、彼らの肉体には標準的に備わっているもの。

 それらの機械の役目のうち、ヴァンナスが把握しているのは三種。

・肉体を強化するもの。
・肉体を滅ぼすもの。
・肉体の滅びを回避するもの。


「その三つのうち、私の銀眼には肉体を強化するものが宿っている。ただし、効力が弱いため、大した強化にならないが……」
 記録を取っているエクアがペンを止めて、言葉を返す。

「以前、地下室でお話していたことですね。微小機械には三種類あって、滅ぼすものと、滅びを回避するものがあると仰ってました。ですがどうして、強化する力をあの時に話そうとしなかったんですか?」(第七章 神に匹敵する存在)
「フィナが居たからだ」

「私?」

「君が、というか実践派がどこまで勇者のことを知っているか探りを入れていた。わざと穴の開いた情報を出すことで、君がポロリと何かしらの情報を漏らすのではないかと考えた部分もあった」
「うわっ、性格悪っ」
「結果、実践派は勇者の現状を把握してないということがわかって良かったよ」
「うわっ、ほんと性格悪っ!」

「あはは、本当に性格の悪い話だ。だが、一番の理由は別だ。君にこの強化の特性の話をすれば、現行勇者とナノマシン、果ては絶滅まで結びつけるのではないかという不安があった。なにせ、君は賢い」
「う~ん、褒められてんだろうけど。なんだろう、素直に喜べない」
「ふふ。さて、話を一気に進めようか」


 三種のナノマシンについて、その役割を話そう。
 
 強化するもの――肉体を強化するだけではなく、魔力の根源たるレスターを吸収して力へ還元している。

 滅ぼすもの――強化するものよりも優先的にレスターを吸収して、肉体を滅ぼそうとしている。

 滅びを回避するもの――滅ぼすものよりも優先的にレスターを吸収して、またその活動を抑え、滅びを回避している。


 前述のとおり、なぜ地球人にそれが宿っているのかは謎だ。
 これから続く言葉は憶測でしかない部分が多々あると付け加えさせてもらう。


 わかっていることと言えば、初めて訪れた地球人の肉体にはナノマシンなどなかった。
 だが、気が付けば、彼らの肉体にナノマシンが宿っていた。
 
 原因はこのスカルペルの大気に、強化と滅びのナノマシンが病原菌のように漂っているのではないかと言われている。
 何故、それらがスカルペル人に感染することなく、地球人の血を引く者に感染したのかは謎。

 そこで我々は、地球人と古代人の間には遺伝子的特性に共通点があると考えた。
 だから、感染した。その真意は不明だが……。


 また、強化のナノマシンが大気中に含まれている理由は不明。 
 しかし、滅びのナノマシンが大気中に含まれている理由となぜ滅びのナノマシンが存在するのか?
 これにはある程度の推論が立てられている。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...