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第十六章 銀眼に宿るモノ
銀の瞳に宿るモノ
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――数日後・執務室
左目の診察を終えて、カインから問題なしという評価をもらう。
その後、トロッカーからマスティフを呼び、彼が訪れたところで、執務室にギウ・エクア・フィナ・親父・カイン・マフィン・マスティフ。そしてイラに集まってもらった。
そこで、私が勇者の村にいたこと。
ヴァンナスの機密に当たる、勇者絶滅の話。
そして、彼らがどのような生を歩んだのか。
それらを伝え終えた。
私の傍らでこれらの記録を取っていたエクアは、時折涙をぬぐいペンを走らせている。
皆はまさに夢物語と言っていい話に戸惑いを見せて、どう言葉を表していいのかわからない様子だった。
その中で、フィナが私に向かって眉を折る。
「五十年ねぇ、その割にはあんまり変わった様子ないよね?」
「記憶は確かに存在するのだが……ふむ、心の経験値はあまり積まれてないな。鮮明ではあるが、夢と同じような場所なのかもしれない」
「それでもその夢は現実であり、そして、とても悲しくも尊い物語だった……それはそれとして受け止める。だけど、どうしても尋ねておかなきゃいけない疑問がたくさんある」
彼女はまっすぐと私を見据え、私もその視線を正面から受け止める。彼女は疑問を息つく暇もなく投げかけてきた。
「すでに勇者は絶滅している――それじゃ、今の勇者は何者? 地球人に古代人の力が宿った――なぜ? その力はあなたの銀眼にも宿っている――どういうこと?」
「その疑問に答えることはできない」
「ヴァンナスの機密だから?」
「それもあるが、それだけならさすがに話すさ。ここに居る者たちは、全員信頼に足る人物だからな」
「じゃあ、どうして答えてくれないの?」
「フィナ、君が賢すぎるからだ」
「え?」
「私には、機密以上に守りたいものがある。だが、それに僅かに触れるだけで、君は答えを見つける。だから、言えないんだ……」
私はゆっくりと諭すように言葉を漏らした。
それにフィナは声を返そうとしたが、途中で声を降ろす。
彼女は私の顔を見て、問うても絶対に話さないと悟ったのだろう。
フィナの顔は以前とは違い、不満に寂しさを乗せている。
その寂しさの意味を私は知る。
(真の意味で信頼されない寂しさか……以前とは違い、彼女もまたエクアと同様に変化しているというわけか……彼女に話せば気づかれる可能性は高くなる。黙っているべき……)
だが、これではフィナの、仲間たちの仁義に背くことになる。
だから私は……。
「全ては話せないが、古代人の力については話をしよう」
「え?」
私の言葉にフィナはもちろん、他の仲間たちも驚きの声を上げた。
おそらく、私がこれ以上語ることはないと思っていたのだろう。
私はフィナが並べた疑問のおさらいをするように言葉を落としていく。
「現勇者の正体。それは言えない。なぜ、地球人に古代人の力が宿ったのか。これについては不明瞭な部分がある。私が古代人の力を銀眼に宿している理由。これは言えない。だが、その力の正体を明かそう」
私は執務机から席を立ち、顔を正面に向けて銀眼を皆に見せつけた。
「この銀眼に宿る力は微小機械。ナノマシンと呼ばれるものだ。私の銀眼には古代人が生んだナノマシンが宿り、そして、現勇者であるレイやアイリの肉体にも宿っている」
この言葉にフィナは驚くが、一部の者には理解が及んでいないようだった。
だから、もう少し詳しく、ナノマシンについて話す。
その役割についても……。
ナノマシン――目に見えないほど小さく、ウイルスよりも小さい機械。古代人が生み出したテクノロジーで、彼らの肉体には標準的に備わっているもの。
それらの機械の役目のうち、ヴァンナスが把握しているのは三種。
・肉体を強化するもの。
・肉体を滅ぼすもの。
・肉体の滅びを回避するもの。
「その三つのうち、私の銀眼には肉体を強化するものが宿っている。ただし、効力が弱いため、大した強化にならないが……」
記録を取っているエクアがペンを止めて、言葉を返す。
「以前、地下室でお話していたことですね。微小機械には三種類あって、滅ぼすものと、滅びを回避するものがあると仰ってました。ですがどうして、強化する力をあの時に話そうとしなかったんですか?」(第七章 神に匹敵する存在)
「フィナが居たからだ」
「私?」
「君が、というか実践派がどこまで勇者のことを知っているか探りを入れていた。わざと穴の開いた情報を出すことで、君がポロリと何かしらの情報を漏らすのではないかと考えた部分もあった」
「うわっ、性格悪っ」
「結果、実践派は勇者の現状を把握してないということがわかって良かったよ」
「うわっ、ほんと性格悪っ!」
「あはは、本当に性格の悪い話だ。だが、一番の理由は別だ。君にこの強化の特性の話をすれば、現行勇者とナノマシン、果ては絶滅まで結びつけるのではないかという不安があった。なにせ、君は賢い」
「う~ん、褒められてんだろうけど。なんだろう、素直に喜べない」
「ふふ。さて、話を一気に進めようか」
三種のナノマシンについて、その役割を話そう。
強化するもの――肉体を強化するだけではなく、魔力の根源たるレスターを吸収して力へ還元している。
滅ぼすもの――強化するものよりも優先的にレスターを吸収して、肉体を滅ぼそうとしている。
滅びを回避するもの――滅ぼすものよりも優先的にレスターを吸収して、またその活動を抑え、滅びを回避している。
前述のとおり、なぜ地球人にそれが宿っているのかは謎だ。
これから続く言葉は憶測でしかない部分が多々あると付け加えさせてもらう。
わかっていることと言えば、初めて訪れた地球人の肉体にはナノマシンなどなかった。
だが、気が付けば、彼らの肉体にナノマシンが宿っていた。
原因はこのスカルペルの大気に、強化と滅びのナノマシンが病原菌のように漂っているのではないかと言われている。
何故、それらがスカルペル人に感染することなく、地球人の血を引く者に感染したのかは謎。
そこで我々は、地球人と古代人の間には遺伝子的特性に共通点があると考えた。
だから、感染した。その真意は不明だが……。
また、強化のナノマシンが大気中に含まれている理由は不明。
しかし、滅びのナノマシンが大気中に含まれている理由となぜ滅びのナノマシンが存在するのか?
これにはある程度の推論が立てられている。
左目の診察を終えて、カインから問題なしという評価をもらう。
その後、トロッカーからマスティフを呼び、彼が訪れたところで、執務室にギウ・エクア・フィナ・親父・カイン・マフィン・マスティフ。そしてイラに集まってもらった。
そこで、私が勇者の村にいたこと。
ヴァンナスの機密に当たる、勇者絶滅の話。
そして、彼らがどのような生を歩んだのか。
それらを伝え終えた。
私の傍らでこれらの記録を取っていたエクアは、時折涙をぬぐいペンを走らせている。
皆はまさに夢物語と言っていい話に戸惑いを見せて、どう言葉を表していいのかわからない様子だった。
その中で、フィナが私に向かって眉を折る。
「五十年ねぇ、その割にはあんまり変わった様子ないよね?」
「記憶は確かに存在するのだが……ふむ、心の経験値はあまり積まれてないな。鮮明ではあるが、夢と同じような場所なのかもしれない」
「それでもその夢は現実であり、そして、とても悲しくも尊い物語だった……それはそれとして受け止める。だけど、どうしても尋ねておかなきゃいけない疑問がたくさんある」
彼女はまっすぐと私を見据え、私もその視線を正面から受け止める。彼女は疑問を息つく暇もなく投げかけてきた。
「すでに勇者は絶滅している――それじゃ、今の勇者は何者? 地球人に古代人の力が宿った――なぜ? その力はあなたの銀眼にも宿っている――どういうこと?」
「その疑問に答えることはできない」
「ヴァンナスの機密だから?」
「それもあるが、それだけならさすがに話すさ。ここに居る者たちは、全員信頼に足る人物だからな」
「じゃあ、どうして答えてくれないの?」
「フィナ、君が賢すぎるからだ」
「え?」
「私には、機密以上に守りたいものがある。だが、それに僅かに触れるだけで、君は答えを見つける。だから、言えないんだ……」
私はゆっくりと諭すように言葉を漏らした。
それにフィナは声を返そうとしたが、途中で声を降ろす。
彼女は私の顔を見て、問うても絶対に話さないと悟ったのだろう。
フィナの顔は以前とは違い、不満に寂しさを乗せている。
その寂しさの意味を私は知る。
(真の意味で信頼されない寂しさか……以前とは違い、彼女もまたエクアと同様に変化しているというわけか……彼女に話せば気づかれる可能性は高くなる。黙っているべき……)
だが、これではフィナの、仲間たちの仁義に背くことになる。
だから私は……。
「全ては話せないが、古代人の力については話をしよう」
「え?」
私の言葉にフィナはもちろん、他の仲間たちも驚きの声を上げた。
おそらく、私がこれ以上語ることはないと思っていたのだろう。
私はフィナが並べた疑問のおさらいをするように言葉を落としていく。
「現勇者の正体。それは言えない。なぜ、地球人に古代人の力が宿ったのか。これについては不明瞭な部分がある。私が古代人の力を銀眼に宿している理由。これは言えない。だが、その力の正体を明かそう」
私は執務机から席を立ち、顔を正面に向けて銀眼を皆に見せつけた。
「この銀眼に宿る力は微小機械。ナノマシンと呼ばれるものだ。私の銀眼には古代人が生んだナノマシンが宿り、そして、現勇者であるレイやアイリの肉体にも宿っている」
この言葉にフィナは驚くが、一部の者には理解が及んでいないようだった。
だから、もう少し詳しく、ナノマシンについて話す。
その役割についても……。
ナノマシン――目に見えないほど小さく、ウイルスよりも小さい機械。古代人が生み出したテクノロジーで、彼らの肉体には標準的に備わっているもの。
それらの機械の役目のうち、ヴァンナスが把握しているのは三種。
・肉体を強化するもの。
・肉体を滅ぼすもの。
・肉体の滅びを回避するもの。
「その三つのうち、私の銀眼には肉体を強化するものが宿っている。ただし、効力が弱いため、大した強化にならないが……」
記録を取っているエクアがペンを止めて、言葉を返す。
「以前、地下室でお話していたことですね。微小機械には三種類あって、滅ぼすものと、滅びを回避するものがあると仰ってました。ですがどうして、強化する力をあの時に話そうとしなかったんですか?」(第七章 神に匹敵する存在)
「フィナが居たからだ」
「私?」
「君が、というか実践派がどこまで勇者のことを知っているか探りを入れていた。わざと穴の開いた情報を出すことで、君がポロリと何かしらの情報を漏らすのではないかと考えた部分もあった」
「うわっ、性格悪っ」
「結果、実践派は勇者の現状を把握してないということがわかって良かったよ」
「うわっ、ほんと性格悪っ!」
「あはは、本当に性格の悪い話だ。だが、一番の理由は別だ。君にこの強化の特性の話をすれば、現行勇者とナノマシン、果ては絶滅まで結びつけるのではないかという不安があった。なにせ、君は賢い」
「う~ん、褒められてんだろうけど。なんだろう、素直に喜べない」
「ふふ。さて、話を一気に進めようか」
三種のナノマシンについて、その役割を話そう。
強化するもの――肉体を強化するだけではなく、魔力の根源たるレスターを吸収して力へ還元している。
滅ぼすもの――強化するものよりも優先的にレスターを吸収して、肉体を滅ぼそうとしている。
滅びを回避するもの――滅ぼすものよりも優先的にレスターを吸収して、またその活動を抑え、滅びを回避している。
前述のとおり、なぜ地球人にそれが宿っているのかは謎だ。
これから続く言葉は憶測でしかない部分が多々あると付け加えさせてもらう。
わかっていることと言えば、初めて訪れた地球人の肉体にはナノマシンなどなかった。
だが、気が付けば、彼らの肉体にナノマシンが宿っていた。
原因はこのスカルペルの大気に、強化と滅びのナノマシンが病原菌のように漂っているのではないかと言われている。
何故、それらがスカルペル人に感染することなく、地球人の血を引く者に感染したのかは謎。
そこで我々は、地球人と古代人の間には遺伝子的特性に共通点があると考えた。
だから、感染した。その真意は不明だが……。
また、強化のナノマシンが大気中に含まれている理由は不明。
しかし、滅びのナノマシンが大気中に含まれている理由となぜ滅びのナノマシンが存在するのか?
これにはある程度の推論が立てられている。
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