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第二十二章 銀眼は彼に応え扉を開く
マイペースな芸術家
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前触れもなくトーワへ訪れた、絵画界の巨匠サレート=ケイキ。
細長の四角眼鏡をかけた優男は相も変わらず薄汚れた灰色の薄着の上に緑色のジュストコールを着用し、先端がカールを巻いた長めの茶髪を深緑のベレー帽で押さえるといった変わった出で立ちをしていた。
彼は呆気にとられるフィナやエクアの様子など気にすることもなく、眼鏡の奥の紫の瞳を輝かせて演者のように大仰な仕草をとりながら語り始める。
「あはは、ようやくアグリスでの仕事が終わってねっ。自由な時間が生まれたんだよ、エクアさん!」
「え、はぁ、そうなんですか? えっと、それで今日はどのようなご用向――」
「戦争、やるじゃないかっ。まさか、アグリスに勝利するなんて!」
「え? はい、なんとか」
「いやいやいや、領主ケント=ハドリー様、素晴らしい! あのアーガメイトのご子息なだけある。うん? ケント様は?」
「今は私用で、お出かけに」
「そうなのかい? 戦勝祝いにラスパのウイゲラワインをお持ちしたんだけどね!」
そう言って、サレートは風が巻き起こすが如くジュストコールを大きく払った。
すると、そこから七色の光が飛び出し、光は変化を遂げてワインボトルとなった。
彼はそれを後ろにいた親父に渡す。
「そこのあなた。ケント様がお帰り次第、これを献上してくれるかい?」
「ええ、わかったが……そこのあなたって、会ってすぐに名を名乗ってここまで案内したのは俺だろうに……」
まったくもってサレートに興味を抱かれていない親父は軽く頭を掻いてぼやく。
執務机に座るフィナはワインボトルに視線をぶつけ、今の現象について大きく声を飛ばす。
「今のって、錬金術!? しかも、空間の!」
「うん? ははぁ、君が噂の錬金術士だね。ケント様の片腕だそうで」
「片腕? 別にあいつの部下でもないけど。ま、仲間ってところよ」
「ふふ~ん、そうなのかい。しかし、まだ若くあるけど見事な才を持っているようだね。アグリスの門の魔導機構をいともたやすく乗っ取り、一部とはいえ呪われた大地を浄化するなんて」
どうやらサレートは、フィナのことを実践派の長とは知らないようだ。
一介の若い錬金術士として彼女を褒めている。
「それはどうも。で、あんた何者? 空間を操るなんて、相当上位の錬金術士よ。少なくとも私は実践派の中で画家をやっている上級錬金術士なんて知らないけど」
「ふふふ、元は理論派だからね。途中で実践派に興味を持って学んでいるのさ。実践派は理論派と違い、学問の門が広いから」
「なるほど、鞍替え組ってわけね。ま、あいつらみたいに偏狭な考え方で知識を独占しないのが実践派だもんね」
「ふふ、素晴らしい考え方だ。知識は伝播することにより、様々な価値と交わり、変化を遂げていく。芸術もまたそう! 数多の芸術的視野が混じり合い、溶け合い、そこから新たな芸術が生まれるんだ!!」
サレートは独擅場とばかりに力強く演説をまき散らす。
それを冷ややかな目で見つめるフィナは、エクアに問いかける。
「何あれ? ヤバくない?」
「え~っと、サレート先生は芸術をこよなく愛しているからこそ、つい、熱くなっちゃうんですよ」
「だからって、急にやってきて芸術を語られてもねぇ。ねぇ、サレートだっけ? 熱を下げて、何の目的でやってきたのか教えなさいよ」
「ああ、申し訳ない。君との会話で芸術を感じて、それを言葉に表したくなった」
「はぁ~、そうですかぁ。で、目的は? あ、私はフィナ。領主代行」
「僕はサレート=ケイキ。実はエクアさんに話があってね」
「私ですか?」
「僕は君の才能に深く興味があるんだよ。そこでだ、しばらく僕の下で学んでみないかい?」
「へ…………? えええええ? い、いいんですか?」
「もちろんだよっ! 君のような才気溢れる芸術家との交流は僕の刺激にもなるしね」
「そ、そんな、私にそんな才能なんて」
「う~ん、謙虚だねぇ。だけど、謙虚は美徳じゃないよ。そういうことで、領主代行さん。エクアさんを僕のアトリエに招待してもいいかな?」
「え?」
突然の願いにフィナの目は泳ぐ。
その泳いだ目をエクアに流す。
「え~っと、エクアはどうしたいの?」
「それは……このような機会、そうはありませんのでできれば……あ、でも、お仕事が大変そうなら私はっ」
「いや、こっちは大丈夫よ。そうね、エクアにとっては大きなチャンスだもの。わかった、行ってきなさい。ケントが戻ってきたらちゃんと伝えておくから」
「あ、ありがとうございます!」
「いや~、領主代行さんは話が通りやすくて嬉しいよ!」
エクアとサレートは喜びに言葉を弾ませる。
その二人にフィナは軽く息を落としながら注意を促す。
「はぁ、二人とも喜ぶのは早いよ。サレート、あんたの滞在場所をちゃんと教えてもらわないと」
「ああ、そうだったね。今は港町アルリナに宿を借りているんだ。そこをアトリエ代わりに使っている」
「宿の名前は?」
「アドソン。港そばに在って、海が一望できる場所だよ」
「宿・アドソンね。何か用事がある場合は、そっちに人をやるから」
「ああ、わかってるさ。では、エクアさん。行こうか」
「い、今からですか?」
「何か不都合でも?」
「それは準備もありますし、それにお仕事も途中ですし」
エクアはちらりとフィナを見る
フィナはそれに柔らか笑みを浮かべた。
「大丈夫よ、この程度。だから安心して行ってらっしゃい」
「ありがとうございます、フィナさん!」
「あと、サレート。女の子の支度は宝石よりも価値ある行為なんだから、少し待ちなさいよ」
「宝石よりも価値の高い支度。なるほど、面白い。ならば僕は城の外で待っているよ。では、エクアさん、あとで」
サレートは指を二本そろえて、それをピッと前に飛ばし、颯爽と執務室から出ていった。
残る三人は……。
「なんだか、わけわかんない人ね。大丈夫なの、エクア?」
「あはは、大丈夫ですよ。芸術が関わるとちょっと熱くなりがちですが」
「エクアの嬢ちゃんの憧れの人ってんで、あんまり悪くは言いたくはないけどよ、一癖二癖ありそうな人物だな」
――城外
エクアが旅支度を行う中、サレートは丘陵の頂に建つ城のそばからトーワを見下ろしていた。
「ふむ、不思議な形をした城壁だ。だが、いまいちだね。先端部分はもっと大胆に尖鋭的な鋭さを持った方が、おや?」
彼の目に、ある人物の影が映る。
それは銀に輝く鱗に、背には青と黒の模様が走るギウだ。
「ギウ?」
「ああ、君がアグリスの宗教騎士団を蹴散らしたギウだね。アルリナにもいるが~~~~、ふむふむ、君は彼らよりも洗練されている」
サレートはギウを余すことなく興味深げに覗き見てくる。
ギウの真っ黒なお目目に、サレートの紫の瞳が映る。
(ギウ……)
彼はその瞳の奥底に眠る、粘着するような闇を知る。
「ギウッ」
ギウはサレートの視線を振り切り、城内へと入っていった。
背後から寂しげな声が届く。
「これは残念、振られてしまったようだ……彼もまた、素晴らしい芸術作品だね」
細長の四角眼鏡をかけた優男は相も変わらず薄汚れた灰色の薄着の上に緑色のジュストコールを着用し、先端がカールを巻いた長めの茶髪を深緑のベレー帽で押さえるといった変わった出で立ちをしていた。
彼は呆気にとられるフィナやエクアの様子など気にすることもなく、眼鏡の奥の紫の瞳を輝かせて演者のように大仰な仕草をとりながら語り始める。
「あはは、ようやくアグリスでの仕事が終わってねっ。自由な時間が生まれたんだよ、エクアさん!」
「え、はぁ、そうなんですか? えっと、それで今日はどのようなご用向――」
「戦争、やるじゃないかっ。まさか、アグリスに勝利するなんて!」
「え? はい、なんとか」
「いやいやいや、領主ケント=ハドリー様、素晴らしい! あのアーガメイトのご子息なだけある。うん? ケント様は?」
「今は私用で、お出かけに」
「そうなのかい? 戦勝祝いにラスパのウイゲラワインをお持ちしたんだけどね!」
そう言って、サレートは風が巻き起こすが如くジュストコールを大きく払った。
すると、そこから七色の光が飛び出し、光は変化を遂げてワインボトルとなった。
彼はそれを後ろにいた親父に渡す。
「そこのあなた。ケント様がお帰り次第、これを献上してくれるかい?」
「ええ、わかったが……そこのあなたって、会ってすぐに名を名乗ってここまで案内したのは俺だろうに……」
まったくもってサレートに興味を抱かれていない親父は軽く頭を掻いてぼやく。
執務机に座るフィナはワインボトルに視線をぶつけ、今の現象について大きく声を飛ばす。
「今のって、錬金術!? しかも、空間の!」
「うん? ははぁ、君が噂の錬金術士だね。ケント様の片腕だそうで」
「片腕? 別にあいつの部下でもないけど。ま、仲間ってところよ」
「ふふ~ん、そうなのかい。しかし、まだ若くあるけど見事な才を持っているようだね。アグリスの門の魔導機構をいともたやすく乗っ取り、一部とはいえ呪われた大地を浄化するなんて」
どうやらサレートは、フィナのことを実践派の長とは知らないようだ。
一介の若い錬金術士として彼女を褒めている。
「それはどうも。で、あんた何者? 空間を操るなんて、相当上位の錬金術士よ。少なくとも私は実践派の中で画家をやっている上級錬金術士なんて知らないけど」
「ふふふ、元は理論派だからね。途中で実践派に興味を持って学んでいるのさ。実践派は理論派と違い、学問の門が広いから」
「なるほど、鞍替え組ってわけね。ま、あいつらみたいに偏狭な考え方で知識を独占しないのが実践派だもんね」
「ふふ、素晴らしい考え方だ。知識は伝播することにより、様々な価値と交わり、変化を遂げていく。芸術もまたそう! 数多の芸術的視野が混じり合い、溶け合い、そこから新たな芸術が生まれるんだ!!」
サレートは独擅場とばかりに力強く演説をまき散らす。
それを冷ややかな目で見つめるフィナは、エクアに問いかける。
「何あれ? ヤバくない?」
「え~っと、サレート先生は芸術をこよなく愛しているからこそ、つい、熱くなっちゃうんですよ」
「だからって、急にやってきて芸術を語られてもねぇ。ねぇ、サレートだっけ? 熱を下げて、何の目的でやってきたのか教えなさいよ」
「ああ、申し訳ない。君との会話で芸術を感じて、それを言葉に表したくなった」
「はぁ~、そうですかぁ。で、目的は? あ、私はフィナ。領主代行」
「僕はサレート=ケイキ。実はエクアさんに話があってね」
「私ですか?」
「僕は君の才能に深く興味があるんだよ。そこでだ、しばらく僕の下で学んでみないかい?」
「へ…………? えええええ? い、いいんですか?」
「もちろんだよっ! 君のような才気溢れる芸術家との交流は僕の刺激にもなるしね」
「そ、そんな、私にそんな才能なんて」
「う~ん、謙虚だねぇ。だけど、謙虚は美徳じゃないよ。そういうことで、領主代行さん。エクアさんを僕のアトリエに招待してもいいかな?」
「え?」
突然の願いにフィナの目は泳ぐ。
その泳いだ目をエクアに流す。
「え~っと、エクアはどうしたいの?」
「それは……このような機会、そうはありませんのでできれば……あ、でも、お仕事が大変そうなら私はっ」
「いや、こっちは大丈夫よ。そうね、エクアにとっては大きなチャンスだもの。わかった、行ってきなさい。ケントが戻ってきたらちゃんと伝えておくから」
「あ、ありがとうございます!」
「いや~、領主代行さんは話が通りやすくて嬉しいよ!」
エクアとサレートは喜びに言葉を弾ませる。
その二人にフィナは軽く息を落としながら注意を促す。
「はぁ、二人とも喜ぶのは早いよ。サレート、あんたの滞在場所をちゃんと教えてもらわないと」
「ああ、そうだったね。今は港町アルリナに宿を借りているんだ。そこをアトリエ代わりに使っている」
「宿の名前は?」
「アドソン。港そばに在って、海が一望できる場所だよ」
「宿・アドソンね。何か用事がある場合は、そっちに人をやるから」
「ああ、わかってるさ。では、エクアさん。行こうか」
「い、今からですか?」
「何か不都合でも?」
「それは準備もありますし、それにお仕事も途中ですし」
エクアはちらりとフィナを見る
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「大丈夫よ、この程度。だから安心して行ってらっしゃい」
「ありがとうございます、フィナさん!」
「あと、サレート。女の子の支度は宝石よりも価値ある行為なんだから、少し待ちなさいよ」
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サレートは指を二本そろえて、それをピッと前に飛ばし、颯爽と執務室から出ていった。
残る三人は……。
「なんだか、わけわかんない人ね。大丈夫なの、エクア?」
「あはは、大丈夫ですよ。芸術が関わるとちょっと熱くなりがちですが」
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――城外
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サレートはギウを余すことなく興味深げに覗き見てくる。
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彼はその瞳の奥底に眠る、粘着するような闇を知る。
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