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第二十八章 救いの風~スカルペルはスカルペルに~
クライル半島は絶望に染まる
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――トーワ北方・荒れ地
私たちは雲一つない清涼な冬の空を見上げる。
王都と同じように太陽は高い位置にある。
だが、時空を移動したので、ここは二日後のスカルペルとなるはず。
それについてフィナヘ尋ねようとしたところで、私たちの体に皮膚が粟立つような震えが駆け巡った。
「っ!? 何だ、この圧迫感は? 場所は、北?」
北へ目を向ける。
エクアは北を指差して、声を震わせる。
「ケ、ケント様、北の山脈が動いています……」
遥か北にある山脈が黒に染まり、粒のようなものが蠢いている。
その粒たちはすでに山脈から大地へ降り、湧き出た虫の如く地面を蹂躙しこちらへ向かってきていた。
私は銀眼に力を集め、遠くにある粒を見通す。
フィナはポシェットから双眼鏡を取り出す。
レイは気配を感じ取り、粒の正体を知る。
私は言葉に絶望を纏い……地に落とす……。
「あれは……魔族か……」
粒の正体は全て魔族――魔族が山脈越えて、人が生み出せぬ速度で大地を駆け抜けてくる。
その数は万を超える……それでも山脈から降りてくる粒は止まらない。
フィナは黒薔薇のナルフを浮かべる。
「遺跡から強力なレスターの反応が出てるっ。それに魔族は呼び寄せられているのよ!」
「遺跡? システムに何かの不具合が!?」
「違う! レスターを使って魔族を呼ぶ。これは、百合たちが変異した仲間たちを引きつけるために行った方法と同じね!」
「ん、つまり?」
「充填石……あれが強力なレスターを放って魔族を呼び寄せている。たぶん、遺跡がヴァンナス以外の手に落ちた時の予防策。魔族を呼び寄せて遺跡を破壊させる気なのよ!」
「充填石を求めるだけで終わらないのかっ? 知性を失われた彼らは、遺跡内部に興味を持たないだろう?」
「その石が遺跡内部に転送してある!」
「ど、どういうことだ!?」
「元々あの石には、侵入者を察知すると警備隊を転送で呼び寄せる力がある。つまり転送の力を宿してある! それを使ったのよ!!」
「しかし、君の結界があるだろう?」
「私の結界を無理やり通過してるの!」
「そんな馬鹿なっ!?」
「高出力の魔力であればそれができんのよっ。充填石は生命体じゃないからそんな無茶ができる。レスターの大量放出といい、どうりで馬鹿げた量の魔力を宿しているはず。結界のためだけの石じゃなかったんだ!」
「さすがはヴァンナス。あらゆる面で抜かりない」
「ええ、本当に抜かりない。なにせ、このレスターの波長に、魔族たちの感情を刺激する周波数を乗せてる。破壊衝動という感情をねっ。ヴァンナスは魔族をとことん研究し尽くしてるっ!」
「破壊感情? なるほど、ネオ陛下は誰にも遺跡を渡すつもりはないというわけか」
「あの、ケント様っ、魔族から何か聞こえてきます!」
エクアから言葉が飛ぶ。
私たちは魔族の怒号に耳を傾ける。
すると、彼らはこう泣いていた。
――ごめんなさい、止められないの。ごめんなさい、止められないの。レスターを求めてしまうの――
「これは……地球人たちの嘆きか」
遺跡の稼働のおかげか、はたまた長い時を得て理性を取り戻したのか、彼らには僅かに意識があるようだ。
だが、レスターを求める欲求に抗えずに、獰猛な獣として振舞ってしまう……。
「なんという惨さよ……遺跡へ急ごう。間に合うとは思えないが!」
私たちが遺跡に走って向かっても、彼らの足の方が遥かに速い。
すでに、一部は遺跡のすぐ手前までやってきている。
そうであっても、私たちは急ぎ遺跡へ向かう!
マスティフはエクアを抱える。
「エクア、ワシに乗れ!」
「はい!」
マフィンは太めのカインを背中に乗せる。
「カイン乗るニャ。そんな太っちょじゃ、足は回らニャいだろ?」
「太っちょは余計ですよ。ですが、背中、お借りします!」
レイは私へ手を伸ばす。
「兄さん、捕まって! 飛ばすからね」
「ああ、頼む! 親父とフィナは?」
「俺はフィナの嬢ちゃんが造ってくれた剣の作用で肉体が強化されてますから、自分の足で何とかなりますよ」
「私は元から自分の足で十分よ。早く行きましょう。遺跡の入口には私の結界があるけど、長くは耐えられないから!」
私たちは遺跡を目指して走り出す。
魔族の先行部隊が私たちに気づき、一部が遺跡から意識を外してこちらへ向かってきた。
その数――千以上!
レイが私から手を放して剣を振るう。
剣からは魔力の刃が飛び出して魔族を薙いだ。
だが――レイは唇を歪める。
「クッ、結界!? 魔族が!?」
千を越える魔族は結界を展開して、レイの攻撃を防いでいた。
その結界を盾に、こちらへ一気に詰め寄ってくる。
私たちの足は遺跡の遥か前で立ち止まり、魔族たちを相手することになった。
レイと親父とマスティフが前線に立って敵の猛攻を防ぎ、フィナとマフィンが援護に雷撃と氷撃を飛ばす。
私とカインは後方で銃を発砲し、エクアは魔法の絵筆を振るう。
何とか千の魔族の数は減っていくが、すぐ後ろに新手が迫っている。
すでに、魔族の一部分は遺跡に到達して、遺跡の結界を破壊しようと暴れていた。
乱戦の中、私が声を飛ばし、親父が返す。
「このままでは埒が明かない。何とか遺跡に向かう方法をっ」
「なんとかって、旦那! これじゃ、俺たちが魔族に食われちまいますよ! 一旦退いて、体勢を取り直しては?」
「それはできない。彼らが遺跡に侵入すれば中で暴れるだろう。そうなると、百合さんから託された水晶が無為になってしまう。これは彼女とギウが託した希望なんだ!」
百合さんはギウの体を借り、千年の時をかけてバルドゥルのナノマシンを打ち破り、仲間たちの変異を戻す方法を考えついた。
彼女とギウの千年を無駄にはできない。
「それにな、ここで遺跡に到達し、この魔族たちを地球人に戻さなければ、トーワは……いや、半島は喰い滅ぼされ、さらには大陸が滅亡に向かう!」
「つまり、全部を救うためには、何がなんでも遺跡に向かう必要があるってわけですな。だが、厳しいですぜ、そいつは……」
彼の言葉の通りであった――。
レイのおかげで何とか戦えてはいるが、次々と押し寄せる魔族に私たちは進むどころか少しずつ後退を始めていた。
「クッ、このままではっ! こうなれば、銀眼をセアたちの世界に繋げてっ」
「だめです、ケント様。長時間は無理なんでしょう!」
「ああ、無理だ。だから、私が獣となり道を開く。水晶の操作はフィナがいればっ――」
「ふざけんな!」
フィナが私の胸倉を掴む!
「あんたが犠牲になってどうすんのよ!? ギウだってわけのわかんないうちにいなくなって……これ以上、仲間を失うなんてごめんよ!」
「フィナ……」
フィナの瞳には激しい怒りと悲しみが宿っていた。
そう……彼女もまたギウを失ったことを悲しんでいた。
いや、彼女だけではない。
彼女の剣幕に触発されて、エクアも親父もカインもマフィンもマスティフも瞳に悲しみを浮かべる。
だけど、皆はやるべきことを前にして、その想いを収め耐えていた。
そうだというのに、私は自分の心だけを見ていた。
「すまない。今の選択肢はなしだ。何とか切り抜けよう、みんなでな!」
私が言葉を弾けると、仲間たちはこくりと頷いた。
だが、なぜかレイだけはフィナを見つめて、小さく彼女の名を呼ぶ……。
「フィナさん……」
「どうしたんだ、レイ?」
「ううん、何でもない。とにかく遺跡へ……っ!? ふふ」
突如、レイは言葉を止めて薄く笑う。
「レイ?」
「どうやら兄さん、援軍が来たみたいだ!」
私たちは雲一つない清涼な冬の空を見上げる。
王都と同じように太陽は高い位置にある。
だが、時空を移動したので、ここは二日後のスカルペルとなるはず。
それについてフィナヘ尋ねようとしたところで、私たちの体に皮膚が粟立つような震えが駆け巡った。
「っ!? 何だ、この圧迫感は? 場所は、北?」
北へ目を向ける。
エクアは北を指差して、声を震わせる。
「ケ、ケント様、北の山脈が動いています……」
遥か北にある山脈が黒に染まり、粒のようなものが蠢いている。
その粒たちはすでに山脈から大地へ降り、湧き出た虫の如く地面を蹂躙しこちらへ向かってきていた。
私は銀眼に力を集め、遠くにある粒を見通す。
フィナはポシェットから双眼鏡を取り出す。
レイは気配を感じ取り、粒の正体を知る。
私は言葉に絶望を纏い……地に落とす……。
「あれは……魔族か……」
粒の正体は全て魔族――魔族が山脈越えて、人が生み出せぬ速度で大地を駆け抜けてくる。
その数は万を超える……それでも山脈から降りてくる粒は止まらない。
フィナは黒薔薇のナルフを浮かべる。
「遺跡から強力なレスターの反応が出てるっ。それに魔族は呼び寄せられているのよ!」
「遺跡? システムに何かの不具合が!?」
「違う! レスターを使って魔族を呼ぶ。これは、百合たちが変異した仲間たちを引きつけるために行った方法と同じね!」
「ん、つまり?」
「充填石……あれが強力なレスターを放って魔族を呼び寄せている。たぶん、遺跡がヴァンナス以外の手に落ちた時の予防策。魔族を呼び寄せて遺跡を破壊させる気なのよ!」
「充填石を求めるだけで終わらないのかっ? 知性を失われた彼らは、遺跡内部に興味を持たないだろう?」
「その石が遺跡内部に転送してある!」
「ど、どういうことだ!?」
「元々あの石には、侵入者を察知すると警備隊を転送で呼び寄せる力がある。つまり転送の力を宿してある! それを使ったのよ!!」
「しかし、君の結界があるだろう?」
「私の結界を無理やり通過してるの!」
「そんな馬鹿なっ!?」
「高出力の魔力であればそれができんのよっ。充填石は生命体じゃないからそんな無茶ができる。レスターの大量放出といい、どうりで馬鹿げた量の魔力を宿しているはず。結界のためだけの石じゃなかったんだ!」
「さすがはヴァンナス。あらゆる面で抜かりない」
「ええ、本当に抜かりない。なにせ、このレスターの波長に、魔族たちの感情を刺激する周波数を乗せてる。破壊衝動という感情をねっ。ヴァンナスは魔族をとことん研究し尽くしてるっ!」
「破壊感情? なるほど、ネオ陛下は誰にも遺跡を渡すつもりはないというわけか」
「あの、ケント様っ、魔族から何か聞こえてきます!」
エクアから言葉が飛ぶ。
私たちは魔族の怒号に耳を傾ける。
すると、彼らはこう泣いていた。
――ごめんなさい、止められないの。ごめんなさい、止められないの。レスターを求めてしまうの――
「これは……地球人たちの嘆きか」
遺跡の稼働のおかげか、はたまた長い時を得て理性を取り戻したのか、彼らには僅かに意識があるようだ。
だが、レスターを求める欲求に抗えずに、獰猛な獣として振舞ってしまう……。
「なんという惨さよ……遺跡へ急ごう。間に合うとは思えないが!」
私たちが遺跡に走って向かっても、彼らの足の方が遥かに速い。
すでに、一部は遺跡のすぐ手前までやってきている。
そうであっても、私たちは急ぎ遺跡へ向かう!
マスティフはエクアを抱える。
「エクア、ワシに乗れ!」
「はい!」
マフィンは太めのカインを背中に乗せる。
「カイン乗るニャ。そんな太っちょじゃ、足は回らニャいだろ?」
「太っちょは余計ですよ。ですが、背中、お借りします!」
レイは私へ手を伸ばす。
「兄さん、捕まって! 飛ばすからね」
「ああ、頼む! 親父とフィナは?」
「俺はフィナの嬢ちゃんが造ってくれた剣の作用で肉体が強化されてますから、自分の足で何とかなりますよ」
「私は元から自分の足で十分よ。早く行きましょう。遺跡の入口には私の結界があるけど、長くは耐えられないから!」
私たちは遺跡を目指して走り出す。
魔族の先行部隊が私たちに気づき、一部が遺跡から意識を外してこちらへ向かってきた。
その数――千以上!
レイが私から手を放して剣を振るう。
剣からは魔力の刃が飛び出して魔族を薙いだ。
だが――レイは唇を歪める。
「クッ、結界!? 魔族が!?」
千を越える魔族は結界を展開して、レイの攻撃を防いでいた。
その結界を盾に、こちらへ一気に詰め寄ってくる。
私たちの足は遺跡の遥か前で立ち止まり、魔族たちを相手することになった。
レイと親父とマスティフが前線に立って敵の猛攻を防ぎ、フィナとマフィンが援護に雷撃と氷撃を飛ばす。
私とカインは後方で銃を発砲し、エクアは魔法の絵筆を振るう。
何とか千の魔族の数は減っていくが、すぐ後ろに新手が迫っている。
すでに、魔族の一部分は遺跡に到達して、遺跡の結界を破壊しようと暴れていた。
乱戦の中、私が声を飛ばし、親父が返す。
「このままでは埒が明かない。何とか遺跡に向かう方法をっ」
「なんとかって、旦那! これじゃ、俺たちが魔族に食われちまいますよ! 一旦退いて、体勢を取り直しては?」
「それはできない。彼らが遺跡に侵入すれば中で暴れるだろう。そうなると、百合さんから託された水晶が無為になってしまう。これは彼女とギウが託した希望なんだ!」
百合さんはギウの体を借り、千年の時をかけてバルドゥルのナノマシンを打ち破り、仲間たちの変異を戻す方法を考えついた。
彼女とギウの千年を無駄にはできない。
「それにな、ここで遺跡に到達し、この魔族たちを地球人に戻さなければ、トーワは……いや、半島は喰い滅ぼされ、さらには大陸が滅亡に向かう!」
「つまり、全部を救うためには、何がなんでも遺跡に向かう必要があるってわけですな。だが、厳しいですぜ、そいつは……」
彼の言葉の通りであった――。
レイのおかげで何とか戦えてはいるが、次々と押し寄せる魔族に私たちは進むどころか少しずつ後退を始めていた。
「クッ、このままではっ! こうなれば、銀眼をセアたちの世界に繋げてっ」
「だめです、ケント様。長時間は無理なんでしょう!」
「ああ、無理だ。だから、私が獣となり道を開く。水晶の操作はフィナがいればっ――」
「ふざけんな!」
フィナが私の胸倉を掴む!
「あんたが犠牲になってどうすんのよ!? ギウだってわけのわかんないうちにいなくなって……これ以上、仲間を失うなんてごめんよ!」
「フィナ……」
フィナの瞳には激しい怒りと悲しみが宿っていた。
そう……彼女もまたギウを失ったことを悲しんでいた。
いや、彼女だけではない。
彼女の剣幕に触発されて、エクアも親父もカインもマフィンもマスティフも瞳に悲しみを浮かべる。
だけど、皆はやるべきことを前にして、その想いを収め耐えていた。
そうだというのに、私は自分の心だけを見ていた。
「すまない。今の選択肢はなしだ。何とか切り抜けよう、みんなでな!」
私が言葉を弾けると、仲間たちはこくりと頷いた。
だが、なぜかレイだけはフィナを見つめて、小さく彼女の名を呼ぶ……。
「フィナさん……」
「どうしたんだ、レイ?」
「ううん、何でもない。とにかく遺跡へ……っ!? ふふ」
突如、レイは言葉を止めて薄く笑う。
「レイ?」
「どうやら兄さん、援軍が来たみたいだ!」
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