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第二十七章 情熱は世界を鳴動させ、献身は安定へ導く
後継者たち
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エクアは私の呼び声に応え現れた転送装置にちらりと視線を振ってから、私に戻して認証コードについて尋ねてくる。
「ケント様、今の数字は?」
「父と……初めて出会った日だ。私の誕生日でもある」
「それで……あれ、誕生日通り過ぎてますけど?」
「ああ、それがどうかしたのか?」
「どうして教えてくれなかったんですかっ? ちゃんとお祝いしないと!」
「別に誕生日の祝いなど。もう、十分大人だしな」
この声に、カインとレイと親父が口先を尖らせる。
「何を言っているんですか。友達がいて、生まれた日を祝いたいと言っているんですから受け取るべきですよ」
「そういうところはアステ様に似て無頓着だね、兄さんは」
「それに旦那の実年齢は十二なんだから、まだまだ誕生日を大事にする年でしょうよ」
「ウグッ、実年齢を出されると弱るな」
私は照れを誤魔化すように頭を掻いた。
その様子を見て、オーキスがにこやかに笑う。
「ふふふ、どうやらケント様は良き友人に巡り合えたようで」
「オーキス、頼むから人前でそういうのはやめてくれっ」
「申し訳ございません。ケント様は私にとっていつまでも坊ちゃまですので、つい」
「だから、坊ちゃまとか言うんじゃない」
「これは失礼。そのケント様のご友人ですが、あちらの方は好奇心旺盛なようで」
「へ?」
私はオーキスに促され、後ろを振り返った。
振り返った先には、フィナが転送装置の上に乗って、黒薔薇のナルフを浮かべながらうんうんと唸り声を上げる姿があった。
「これが、魔導と科学の融合による転送装置。凄い。転移の際の干渉波は機械の計算による補正で行い、干渉波自体は魔導の力で分散しているんだ。転送ポイントにある過剰レスターを別種の魔導の力で押しのけてる。出力は科学だけの装置よりも劣るけど、汎用性は圧倒的に上。それにこれは、あ、ここも、」
「フィナ…………」
「ふふっ、とても良き友人であり、楽し気な友でありますね」
「ははは、ああ、そうだな。それで、オーキス。話を戻すが、この転送装置を使い王都からの脱出は可能なのか?」
「はい。王都の結界は三重のシールドに守られていまして、魔導の障壁、科学のシールド、錬金の結界となっております。それらを同時に貫通するのは古代の知恵をもってしても不可能ですが、旦那様は裏技を用意しておりますので。それを使い、一気に突き抜けます」
「なるほど、さすがは父さんだ。常に最悪の事態を考えて抜け道を用意していたんだな」
「ええ。では、追手が屋敷に訪れる前に全てを終えましょう。フィナ様、ご助力をお願いします」
「え? あ~、はいはい」
フィナは意識を転送装置からオーキスに移し、身体をこちらへ向けた。
彼女の動きに合わせオーキスが手の平を差し出すと、その上に光の独楽が生まれる。
その独楽をフィナヘ投げる。彼女は指先をスッと引いて光の紐を生み、その紐を使って独楽を受け取る。
そして、紐に絡まった独楽をホイッと上にあげると、無数のモニターがフィナとオーキスを取り囲んだ。
私は一連の流れに呆れ交じりの声を漏らす。
「また、わけのわからない仕様を……」
「え、そんなにわかんない?」
「ふふふ、フィナ様は素晴らしい素養がございますね」
「ふふん、あんがと」
二人だけにわかるやり取りを行い、彼女らは指先を使いモニターを忙しなく操作しつつ言葉を掛け合う。
「うわ、この結界を同時に突き破るのはちょっと骨だなぁ~。オーキスさん、裏技って?」
「転送の繭の時間を操作し、結界の効果が薄い状況下を呼び起こして転送を行います」
「あ~、なるほど、簡易時空移動ね。だけど、時間転移にケントはともかく私たちは耐えられないけど?」
「極微小時間であれば、多重転送を用いることで問題は解決されます」
「転送に転送を被せて、転送媒体の負荷を下げるのね……これって、アステ=ゼ=アーガメイトのアイデア?」
「ええ、その通りでございます。それに元々、この転送装置は時間移動の際の保護力を強化されたものですから」
「そうなの? たしかにトーワの遺跡の転送装置よりも汎用性もあり、そういったところは優れてそうだけど……う~ん」
「ご安心ください。実際にそれらは証明されております。この装置の特徴のおかげで、過去の地球から安全に勇者を召喚できたという実績がございますから」
「あ、そうだよね。過去の地球人はタイムワープしたんだから、普通ならそれに耐えられず塵になるはずだろうし」
「ええ。ですが、彼らが無事召喚されたのはこの転送装置の特徴だけではありません。ヴァンナス王家の召喚術に守られた部分もあります。そこから旦那様は学び、多重転送のアイデアを産み出したのです」
「なるほどねぇ……チッ、ホントに先行ってんな まぁいい、それはすぐに追いつくとして。転送に費やすエネルギーは?」
「問題ありません」
「時空に干渉するための設定は~っと……これだと負荷が大きい。ちょっと弄るよ」
「え? ですが、これは旦那様の設定で――」
「よし、これで安全性が増した。時空間の干渉におけるカスケード効果をより一層抑えられる。オーキスさん、そっちでもチェックしてくれる?」
「ええ……問題ありません。素晴らしい……」
「ん?」
「いえ、何でもございません。それでは、あとは私が」
「うん、お願い」
フィナは自分を囲んでいたモニターを消して、私たちのそばに寄り、転送台に上がるように促す。
「はいはい、みんな転送台に乗った乗った」
「乗るのはいいが、一体何がどうなっているんだ? 私たちには君とオーキスがやっていたことがさっぱりなんだが?」
「そう? じゃ、簡単に説明するね。転送の繭に包まれた状態で繭の外側の時間を進めるの。これで、短時間の時間移動が可能。もちろん、安全対策も取った。この状態で結界が薄い時間帯を狙って、結界を突破するというわけ」
「ええっと、つまり、今は玄関に鍵が掛かっているが、時間を移動して、玄関が開いてる時間帯から外へ出るということか?」
「ま、そんなとこ」
「その時間移動は安全だそうだが……どの程度飛ぶ?」
「時間を逆行すると時間の辻褄が合わなくなるから二日先くらいに。その頃には結界が解除されてるだろうから。そうでしょ、オーキスさん?」
「ええ、まだまだ三重結界の同時運用は難しく、二日も持ちませんから。ですが、転送に問題なくとも、その転送先に少々問題が発生しております」
「何かあったの?」
「遺跡から強力なレスターが発生しており、それが周辺の時空間に干渉し、また、転送を阻害しています。そのため、転送地点は遺跡から少々手前となってしまいます」
「どうしてそんなことに?」
「わかりません。遺跡についての情報は詳しくないので」
「嫌な予感がするなぁ。どうする、ケント?」
「転送は安全に行われるんだ。理由はわからずとも、今は最も遺跡から近い場所に移動しよう。それで頼む、オーキス」
「かしこまりました、ケント様」
オーキスは最終プロセスに入る――そこに外からの爆発音が響く。
「い、今のはっ?」
「どうやら、警備隊が屋敷にやってきたようですね。屋敷の結界は長くは持ちませんので、皆さまをお送り次第、私も加勢に向かいます」
「いや、すぐに脱出しろ!」
「それは出来かねます。執事として、屋敷を守らなければなりませんから」
「だがっ」
「ご安心くださいませ。私を含めアーガメイトに仕える者は、皆、あのアステ=ゼ=アーガメイトを守護するためにいるのです。あの程度の敵、問題ではございません」
彼は自信と誇りを抱く瞳を私に見せた。
そこには虚勢も動揺もない。
私の知る、いつもの落ち着いた老紳士がそこにいる。
「わかった。だが、いよいよとなったら、屋敷を放棄して全員脱出するように! これは、君の主としての命令だ!」
この命に、オーキスは少し頬を緩ませる。
「ふふ……畏まりました、旦那様」
皆は転送台に乗る。
だが、転送台はそれほど広くなく、ぎゅうぎゅう詰めになってしまう。
その中でカインが顔を赤く染めながらフィナに声を掛けている。
「フィ、フィナ君、できれば後ろを向いてほしいんだけど」
「え、なんで?」
「その、えっとだね……胸が……当たってる」
「胸? ……ああ~、ごめんごめん、それじゃ後ろ向くね」
フィナは後ろを向く。
だがしかし、後ろは後ろで、彼女のお尻がちょうどカインの股間の下あたりに触れている。
カインはなるべく当たらないように腰をグイっと動かし、身体をくの字に折る妙な体勢になっている。
太めのカインにはかなり堪える姿勢だ。
その様子を親父が恨めしそうな目で見る。
「旦那、先生は役得ですな……」
「あはは、当の本人は困っているようだがな」
そこにレイが柔らかな言葉を差し込む。
「ふふ、ヴァンナスを敵に回してこれからどうなるかわからないという状況なのに、皆さんからは余裕を感じられるね」
「そうだな。私たちは苦難を何度も乗り越えてきた。だから、仲間たちと一緒なら、なんだって乗り越えられる。そう、感じられるんだ」
私はそう言って、研究所があると思われる方角へ顔を向ける。
顔には大切な仲間を思い寂しさが浮かぶ。
それを心配して、エクアがそっと言葉をかけてくる。
「ギウさんのことですね?」
「ああ。まだ、実感はないが彼は……」
「ケント様……」
百合さんの雰囲気からギウは、もう、いない。
彼は、私が失意を胸にトーワに訪れて、初めて出会った友。
彼はずっと、私のそばにいて支え続けてくれた。
釣りの場所を教えてくれて、料理を振舞ってくれて、城の片づけを手伝ってくれて、私を守るために戦ってくれた。
そんな彼を、何の前触れもなく失ってしまった。
そこには、友を失った悲しみはない。
あまりの出来事で、現実感がいまだない。
「だけど、ギウは、もういないんだな……」
呟いた言葉が一気に現実という感覚を呼び起こした。
私は涙を一筋落とし、すぐに拭い去る。
そして、私にどう言葉をかけていいかわからず口元を惑わしているエクアへ声を掛けた。
そのエクアも瞳には涙を浮かべてる……。
「な~に、百合さんは言っていた。ギウにはもう一度会えると。その時に、その時に、その時に……」
何を話せばいいのだろうか?
お礼?
別れの言葉?
わからない。
でも、もう一度会える。その時になったら、その時の私の心を彼にぶつけよう。
私は僅かに潤んだ銀眼をオーキスへ向ける。
「オーキス、君も無茶をするなよ」
「もちろんでございます」
「うん、では、また会おう……転送を」
オーキスは無言で会釈して、モニターに指先を当てる。
すると、景色がぼやけ、光が瞳を染めると次に暗転。
闇から光差し込むと、私たちは荒れ果てた大地の上に立っていた。
「ケント様、今の数字は?」
「父と……初めて出会った日だ。私の誕生日でもある」
「それで……あれ、誕生日通り過ぎてますけど?」
「ああ、それがどうかしたのか?」
「どうして教えてくれなかったんですかっ? ちゃんとお祝いしないと!」
「別に誕生日の祝いなど。もう、十分大人だしな」
この声に、カインとレイと親父が口先を尖らせる。
「何を言っているんですか。友達がいて、生まれた日を祝いたいと言っているんですから受け取るべきですよ」
「そういうところはアステ様に似て無頓着だね、兄さんは」
「それに旦那の実年齢は十二なんだから、まだまだ誕生日を大事にする年でしょうよ」
「ウグッ、実年齢を出されると弱るな」
私は照れを誤魔化すように頭を掻いた。
その様子を見て、オーキスがにこやかに笑う。
「ふふふ、どうやらケント様は良き友人に巡り合えたようで」
「オーキス、頼むから人前でそういうのはやめてくれっ」
「申し訳ございません。ケント様は私にとっていつまでも坊ちゃまですので、つい」
「だから、坊ちゃまとか言うんじゃない」
「これは失礼。そのケント様のご友人ですが、あちらの方は好奇心旺盛なようで」
「へ?」
私はオーキスに促され、後ろを振り返った。
振り返った先には、フィナが転送装置の上に乗って、黒薔薇のナルフを浮かべながらうんうんと唸り声を上げる姿があった。
「これが、魔導と科学の融合による転送装置。凄い。転移の際の干渉波は機械の計算による補正で行い、干渉波自体は魔導の力で分散しているんだ。転送ポイントにある過剰レスターを別種の魔導の力で押しのけてる。出力は科学だけの装置よりも劣るけど、汎用性は圧倒的に上。それにこれは、あ、ここも、」
「フィナ…………」
「ふふっ、とても良き友人であり、楽し気な友でありますね」
「ははは、ああ、そうだな。それで、オーキス。話を戻すが、この転送装置を使い王都からの脱出は可能なのか?」
「はい。王都の結界は三重のシールドに守られていまして、魔導の障壁、科学のシールド、錬金の結界となっております。それらを同時に貫通するのは古代の知恵をもってしても不可能ですが、旦那様は裏技を用意しておりますので。それを使い、一気に突き抜けます」
「なるほど、さすがは父さんだ。常に最悪の事態を考えて抜け道を用意していたんだな」
「ええ。では、追手が屋敷に訪れる前に全てを終えましょう。フィナ様、ご助力をお願いします」
「え? あ~、はいはい」
フィナは意識を転送装置からオーキスに移し、身体をこちらへ向けた。
彼女の動きに合わせオーキスが手の平を差し出すと、その上に光の独楽が生まれる。
その独楽をフィナヘ投げる。彼女は指先をスッと引いて光の紐を生み、その紐を使って独楽を受け取る。
そして、紐に絡まった独楽をホイッと上にあげると、無数のモニターがフィナとオーキスを取り囲んだ。
私は一連の流れに呆れ交じりの声を漏らす。
「また、わけのわからない仕様を……」
「え、そんなにわかんない?」
「ふふふ、フィナ様は素晴らしい素養がございますね」
「ふふん、あんがと」
二人だけにわかるやり取りを行い、彼女らは指先を使いモニターを忙しなく操作しつつ言葉を掛け合う。
「うわ、この結界を同時に突き破るのはちょっと骨だなぁ~。オーキスさん、裏技って?」
「転送の繭の時間を操作し、結界の効果が薄い状況下を呼び起こして転送を行います」
「あ~、なるほど、簡易時空移動ね。だけど、時間転移にケントはともかく私たちは耐えられないけど?」
「極微小時間であれば、多重転送を用いることで問題は解決されます」
「転送に転送を被せて、転送媒体の負荷を下げるのね……これって、アステ=ゼ=アーガメイトのアイデア?」
「ええ、その通りでございます。それに元々、この転送装置は時間移動の際の保護力を強化されたものですから」
「そうなの? たしかにトーワの遺跡の転送装置よりも汎用性もあり、そういったところは優れてそうだけど……う~ん」
「ご安心ください。実際にそれらは証明されております。この装置の特徴のおかげで、過去の地球から安全に勇者を召喚できたという実績がございますから」
「あ、そうだよね。過去の地球人はタイムワープしたんだから、普通ならそれに耐えられず塵になるはずだろうし」
「ええ。ですが、彼らが無事召喚されたのはこの転送装置の特徴だけではありません。ヴァンナス王家の召喚術に守られた部分もあります。そこから旦那様は学び、多重転送のアイデアを産み出したのです」
「なるほどねぇ……チッ、ホントに先行ってんな まぁいい、それはすぐに追いつくとして。転送に費やすエネルギーは?」
「問題ありません」
「時空に干渉するための設定は~っと……これだと負荷が大きい。ちょっと弄るよ」
「え? ですが、これは旦那様の設定で――」
「よし、これで安全性が増した。時空間の干渉におけるカスケード効果をより一層抑えられる。オーキスさん、そっちでもチェックしてくれる?」
「ええ……問題ありません。素晴らしい……」
「ん?」
「いえ、何でもございません。それでは、あとは私が」
「うん、お願い」
フィナは自分を囲んでいたモニターを消して、私たちのそばに寄り、転送台に上がるように促す。
「はいはい、みんな転送台に乗った乗った」
「乗るのはいいが、一体何がどうなっているんだ? 私たちには君とオーキスがやっていたことがさっぱりなんだが?」
「そう? じゃ、簡単に説明するね。転送の繭に包まれた状態で繭の外側の時間を進めるの。これで、短時間の時間移動が可能。もちろん、安全対策も取った。この状態で結界が薄い時間帯を狙って、結界を突破するというわけ」
「ええっと、つまり、今は玄関に鍵が掛かっているが、時間を移動して、玄関が開いてる時間帯から外へ出るということか?」
「ま、そんなとこ」
「その時間移動は安全だそうだが……どの程度飛ぶ?」
「時間を逆行すると時間の辻褄が合わなくなるから二日先くらいに。その頃には結界が解除されてるだろうから。そうでしょ、オーキスさん?」
「ええ、まだまだ三重結界の同時運用は難しく、二日も持ちませんから。ですが、転送に問題なくとも、その転送先に少々問題が発生しております」
「何かあったの?」
「遺跡から強力なレスターが発生しており、それが周辺の時空間に干渉し、また、転送を阻害しています。そのため、転送地点は遺跡から少々手前となってしまいます」
「どうしてそんなことに?」
「わかりません。遺跡についての情報は詳しくないので」
「嫌な予感がするなぁ。どうする、ケント?」
「転送は安全に行われるんだ。理由はわからずとも、今は最も遺跡から近い場所に移動しよう。それで頼む、オーキス」
「かしこまりました、ケント様」
オーキスは最終プロセスに入る――そこに外からの爆発音が響く。
「い、今のはっ?」
「どうやら、警備隊が屋敷にやってきたようですね。屋敷の結界は長くは持ちませんので、皆さまをお送り次第、私も加勢に向かいます」
「いや、すぐに脱出しろ!」
「それは出来かねます。執事として、屋敷を守らなければなりませんから」
「だがっ」
「ご安心くださいませ。私を含めアーガメイトに仕える者は、皆、あのアステ=ゼ=アーガメイトを守護するためにいるのです。あの程度の敵、問題ではございません」
彼は自信と誇りを抱く瞳を私に見せた。
そこには虚勢も動揺もない。
私の知る、いつもの落ち着いた老紳士がそこにいる。
「わかった。だが、いよいよとなったら、屋敷を放棄して全員脱出するように! これは、君の主としての命令だ!」
この命に、オーキスは少し頬を緩ませる。
「ふふ……畏まりました、旦那様」
皆は転送台に乗る。
だが、転送台はそれほど広くなく、ぎゅうぎゅう詰めになってしまう。
その中でカインが顔を赤く染めながらフィナに声を掛けている。
「フィ、フィナ君、できれば後ろを向いてほしいんだけど」
「え、なんで?」
「その、えっとだね……胸が……当たってる」
「胸? ……ああ~、ごめんごめん、それじゃ後ろ向くね」
フィナは後ろを向く。
だがしかし、後ろは後ろで、彼女のお尻がちょうどカインの股間の下あたりに触れている。
カインはなるべく当たらないように腰をグイっと動かし、身体をくの字に折る妙な体勢になっている。
太めのカインにはかなり堪える姿勢だ。
その様子を親父が恨めしそうな目で見る。
「旦那、先生は役得ですな……」
「あはは、当の本人は困っているようだがな」
そこにレイが柔らかな言葉を差し込む。
「ふふ、ヴァンナスを敵に回してこれからどうなるかわからないという状況なのに、皆さんからは余裕を感じられるね」
「そうだな。私たちは苦難を何度も乗り越えてきた。だから、仲間たちと一緒なら、なんだって乗り越えられる。そう、感じられるんだ」
私はそう言って、研究所があると思われる方角へ顔を向ける。
顔には大切な仲間を思い寂しさが浮かぶ。
それを心配して、エクアがそっと言葉をかけてくる。
「ギウさんのことですね?」
「ああ。まだ、実感はないが彼は……」
「ケント様……」
百合さんの雰囲気からギウは、もう、いない。
彼は、私が失意を胸にトーワに訪れて、初めて出会った友。
彼はずっと、私のそばにいて支え続けてくれた。
釣りの場所を教えてくれて、料理を振舞ってくれて、城の片づけを手伝ってくれて、私を守るために戦ってくれた。
そんな彼を、何の前触れもなく失ってしまった。
そこには、友を失った悲しみはない。
あまりの出来事で、現実感がいまだない。
「だけど、ギウは、もういないんだな……」
呟いた言葉が一気に現実という感覚を呼び起こした。
私は涙を一筋落とし、すぐに拭い去る。
そして、私にどう言葉をかけていいかわからず口元を惑わしているエクアへ声を掛けた。
そのエクアも瞳には涙を浮かべてる……。
「な~に、百合さんは言っていた。ギウにはもう一度会えると。その時に、その時に、その時に……」
何を話せばいいのだろうか?
お礼?
別れの言葉?
わからない。
でも、もう一度会える。その時になったら、その時の私の心を彼にぶつけよう。
私は僅かに潤んだ銀眼をオーキスへ向ける。
「オーキス、君も無茶をするなよ」
「もちろんでございます」
「うん、では、また会おう……転送を」
オーキスは無言で会釈して、モニターに指先を当てる。
すると、景色がぼやけ、光が瞳を染めると次に暗転。
闇から光差し込むと、私たちは荒れ果てた大地の上に立っていた。
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