銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
326 / 359
第二十七章 情熱は世界を鳴動させ、献身は安定へ導く

名を継ぐ者

しおりを挟む
――アーガメイトの屋敷


 煙のカーテンを借りて、身を隠し、かつての我が家の裏門へとやってきた。
 裏門をくぐるとすぐに屋敷の警備兵が門を閉ざす。それと同時に屋敷全体が結界に覆われ、さらに警備兵は剣を構えて敵に備える。

 私たちは、寒空の下で凛と咲き誇る冬花ふゆばなの道を通り抜けて、裏口から屋敷へ入る。
 入るとすぐにフィナが屋敷内を見回して、廊下を照らし出す魔導灯を見つめながら話しかけてきた。


「昔ながらの貴族屋敷って感じ。魔導灯もあるし。オバディアは電気が普及してるんじゃなかったっけ?」
「それは貴族や富豪が集まる住宅街のみだ。父の家はそこから大きく外れているからな。料理をする際も水は蛇口ではなく、屋敷内にある井戸から水を汲み、甕に溜めているものを使っている」

「そんなに手間がかかるならさっさと引っ越しちゃえばいいのに。あんたの親父って効率重視っぽいけど意外と懐古趣味? それとも、この屋敷に何か思い入れが?」
「さてな。私はそう言った話を聞いたことがないが……」


 と、言いつつ、廊下を先導するオーキスへ視線を振る。

「旦那様は幼少期からずっとこの屋敷で過ごしておりましたが、深い思い入れはございません。もちろん全くないとは言いませんが」
「それでは?」

「ここは庶民が暮らす地域に近く、王家の監視の目を届きにくい場所。また、監視がいたとしても大変わかりやすい。なにせ、ご近所は古くからの知り合いばかりですから」

「なるほど。父さんは、いや、アーガメイト一族の主派は常に王家の目を気にしていたということか」
「ええ、その目をご近所の方々が封じて下さったおかげで、様々な点で動きやすうございました。その一点が、王都からの脱出路と繋がるわけです」

 オーキスは地下のワイン倉庫へ足を向けた。
 私は彼の意図する言葉に気づく。

「この先は……そうかっ、父さんは王家の監視の目を盗み! だから、あれを持ち出せたのか!」
「はい、ご賢察の通りです。ケント様」



――ワイン倉庫
 
 ここに、私、エクア、フィナ、親父、カイン、マスティフ、マフィン、レイ。
 そして、執事のオーキスがいる。
 ワイン倉庫にしては広い倉庫だが、さすがにこの人数だと手狭に感じる。
 酒好きのマスティフは一角にあったワイン樽を見て、珍しく声を上擦らせていた。

「こ、こ、こ、これはっ! クッシングのワイン! それも三十四年もの!? 幻の最高級ワインが一樽丸ごととは!」

 この声にマフィンが反応し、オーキスへ視線を振る
「ほ、本当ニャか!? 本物なら、この樽一つで城が一つ買えるニャよ!!」
「もちろん、本物でございます。他の樽や瓶も銘品揃い。お時間があれば、皆さまに振舞いたいのですが……」

「そうよ、のんびり構えてる暇はないんだからっ!」

 フィナはマスティフとマフィンの頬を叩くように声を放った。
 二人は互いに明後日の方向を向いて誤魔化している。

 フィナは鼻息をフンッと鳴らし、オーキスへ顔を向ける。
「それで、オーキスさん。こんなワイン倉庫に呼び込んで何をするつもり? どっかに秘密の抜け穴でも?」
「はい、秘密も秘密。最高の抜け穴がございます。そうでありましょう、ケント様」
「ああ、フィナが飛んで喜びそうな抜け穴が」

「私が? ……そう言えば、あんたが過去に行ったとき! じゃあ、ここに!!」
「ふふ、その通りだ」


 私の笑みに、フィナは片眉を跳ねて応える。
「この区画はアーガメイトの縄張り……さしずめ、王都内にあるアーガメイトの領地ってわけか。だから離れたくないんだ。ここなら王家の宝物庫から古代人の遺物をこっそり盗み出すのに都合がいいもんね」

「盗んだわけではない。持ち出しただけだ。それにあれは、元々ヴァンナスのものではない。古代人のものだ」

「よく言う~。あんたの親父って堅物そうに見えて結構ヤバい人だわ」
「ふふふ、それは誉め言葉として受け取っておくよ。では、オーキス、すぐに『転送装置』を呼び出してくれ」


 そう、このワイン倉庫には転送装置が隠されている。
 今から七年前の過去へ転送されたとき、私は父とオーキスの手を借りて自分の時間軸に戻ることができた。

 
 だが、オーキスは首を横に振って、こう言葉を返す。

「残念ですが、私には起動権限がございません。権限はアーガメイトの名を引き継ぐ者だけです」
「アーガメイトの? 父か?」
「私の瞳にはもう一方ひとかた、映っておりますが」
「え……私か? そうか、父はあの時、こんなことを言っていたな」


――七年前の過去

 父はワインボトルの納まる棚に向かって言葉を発する。

『ケント、今から言葉にすることをよく覚えておけ』
『はい、わかりました』
『クラウンシステム発動。認証コード・アステ=ゼ=アーガメイト。412.0923』

――――

 私は父と同じように、ワインボトルの納まる棚に向かって言葉を発する。
「クラウンシステム発動。認証コード・アステ=ゼ=アーガメイト。412.0923」

 私がそう言葉を出すと地下室に光の線が走り、どこからともなく声が響くが……。


――コードエラー。声紋エラー。生体認証エラー――


「あれ? オーキス?」
「そのコードは旦那様のものでございます。どうぞ、ケント様の認証コードを」
「私の? そう言われても、私は認証コードなど」
「旦那様の認証コードは、ケント様を初めて創り上げた日の日付です」
「え?」


 私は小さな驚きと疑問の宿る声をオーキスにぶつけた。
 彼は言葉を返さずに、ただ私をじっと見る。
 何も伝えずとも、私には答えがわかるだろうと、目で訴えている。

「……ああ、わかった。やってみよう」

 再び、ワイン棚に向かって言葉を発する。
「クラウンシステム発動。認証コード。ケント=ゼ=アーガメイト。413.0525」


 地下室に光の線が走り、声が響く。


――遺伝情報一致。セキュリティ解除。展開します――


 不思議な声が閉じるとワイン棚の一角が消え、そこに大きな空間が生まれた。
 その空間にはトーワの遺跡にあった転送装置とは色違いの転送装置。
 大理石のようにつるつるとした円盤は黒ではなく、青――青い円盤に上下を挟まれた転送装置が存在していた。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

過労死コンサル、貧乏貴族に転生す~現代農業知識と魔法で荒地を開拓していたら、いつの間にか世界を救う食糧大国になっていました~

黒崎隼人
ファンタジー
農業コンサルタントとして過労死した杉本健一は、異世界の貧乏貴族ローレンツ家の当主として目覚めた。 待っていたのは、荒れた土地、飢える領民、そして莫大な借金! チートスキルも戦闘能力もない彼に残された武器は、前世で培った「農業知識」だけだった。 「貴族が土を耕すだと?」と笑われても構わない! 輪作、堆肥、品種改良! 現代知識と異世界の魔法を組み合わせた独自農法で、俺は自らクワを握る「耕作貴族」となる! 元Sランク冒険者のクールなメイドや、義理堅い元騎士を仲間に迎え、荒れ果てた領地を最強の農業大国へと変えていく、異色の領地経営ファンタジー!

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

処理中です...