銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

文字の大きさ
325 / 359
第二十七章 情熱は世界を鳴動させ、献身は安定へ導く

忠節の元剣士

しおりを挟む
――王都オバディア内・昼

 
 私たちは百合さんに救われ、からくも転送で研究施設から脱出した。
 転送先はどこかの大通り。
 突然姿を現した私たちに街の人々が驚いている。また、研究施設の方向から聞こえてくる百合さんとネオ陛下たちの戦いの音が木霊し、王都の人々を怯えさせる。

 さらにはレイの姿を目にして、周囲はにわかに騒ぎ始めた。
 それをレイが鎮めている。

「申し訳ありません。特別な任についておりますので、どうかお静かに」

 彼が民衆を相手している間に、私は場所を確認するため視線をそこかしこに飛ばす。
 巨大な石造りの建物に挟まれた大通り。
 目の前には巨大なデパート。

「レーウィン百貨店? ここはエクセル通りか」


 私が場所の名前を口にしている傍で、フィナは黒い薔薇の形をしたナルフを浮かべ親父と会話を行っていた。

「チッ、やっぱり王都の結界に転送が阻害されて、王都外に転送が行えない。三種類の結界を組み合わせて共鳴転送を妨害するなんて。こんなことができるのはアーガメイトねっ」
「あの、フィナの嬢ちゃん?」

「ん、なに?」
「いっそのこと、地面に向かって転送して世界の反対側に出るってのはどうだ? 嬢ちゃんのナルフならそれくらいの出力を出せるだろ」

「ナイスアイデア、って言いたいけど、王都の道路に使われている素材には魔石の粉が練りこまれてて転送を阻害してんのよ。共鳴転送さえ阻害する材質って、なんなのこの都市はっ?」
「さすがは世界に冠たるヴァンナスの都だな。防備に隙なしってわけだ」

 
 エクアはカインに尋ねる。
「先生は王都に詳しいんですよね。どこか抜け道とかは?」
「さすがにそれはわからないな。この通りから南に下れば門があるけど、警備がいるだろうし。その門も三枚構えだからねぇ」


 マフィンとマスティフは路地裏に目を飛ばしている。
「あっちは行き止まりニャね」
「いや、マンホールがあるぞ。その先が広ければ、下水から脱出できるかもしれん」
「絶対嫌ニャ!」

 皆の声に聞き耳を立てつつ、私は視線を道の先に飛ばす。
 視線の先には人込みをかき分けて、こちらへ向かってくる警備隊の姿が見えた。

「どうやらこの騒ぎを聞きつけて警備隊がやってきたようだ。しかも、シエラ付き」
「それにゃら、別方向に逃げるニャ」

 フィナがその別方向にナルフを浮かべる。
「こっちからも警備が来てるっぽい。かなりの人数」
「にゃ~、最悪ニャ!」
「とりあえず、路地裏に逃げて、下水はやめて壁伝いに上に向かいましょ」


 仕方なく、路地裏の方向へ逃げ込もうとした。
 しかし、シエラたちが人込みに揉まれた警備隊を置き去りにし、建物の壁を地面の如く駆け抜けてこちらへ迫ってきた。

「みつけた~」
「よっし、首を刎ねるぞ~」


 フィナは唾を飛ばし、私が答える。
「最悪じゃん! えっと、一、二、三……七人に白線つきが一人いる!」
「この人込みでの戦闘に、警備隊までいる! これは骨が折れるぞ!」



――ケント様がお困りならば、執事として黙っているわけにはまいりませんね――



「え?」

 黒い影が風のように横切り、建物の壁を駆け上がっていく。
 そして、迫っていたシエラの半分を、光の太陽テラスの輝きを受け止め煌めくサーベルで突き刺し地面へ落した。
 
 さらに、残りのシエラたちを踏み台としつつサーベルで身体の一部分を切りつけ、白線持ちのシエラの肩をサーベルで穿って蹴りをお見舞いし、後方へ吹き飛ばす。

 そして、くるりと体を回転させて、私の目の前にスタッと降り立ち、サーベルを後ろに隠し、片手を胸に当てて会釈を行う。


「お久しゅうございますね、ケント様。レイ様」
「君は、オーキス」
「まさか、あなたが助太刀に来るなんて」

 私の前に、アステ=ゼ=アーガメイトの執事であるオーキスが立っている。
 彼の姿は私が王都から離れた時と何ら変わらず、白髪と真っ白な鼻髭をこさえたダンディズム溢れる老年で、私よりも背が高く、とても冷静で落ち着いた物言いをする。

 常にアーガメイトに仕える執事服を身に纏い、その装いは僅かばかりの意匠が施された黒色の燕尾服に、クロスを描くような茶色のネクタイ。そして真っ白な手袋を着用している。
 さらに、普段は手にしていないサーベルを持っていた。

 
 私は仲間たちにオーキスのことをアーガメイトに仕える執事とだけ説明し、彼に疑問をぶつける。
「なぜ、君が?」
「旦那様が亡くなったいま、屋敷のあるじはケント様でございます。つまり私の主はケント様。主のために執事として当然のことを行ったまでです」
「当然って……」

 瞳をシエラたちへ寄せる。


「いたいいたいいたい!」
「ちょっと、なんでこんなに痛いの~!?」
「こんな傷、すぐに再生するはずなのに~!

 オーキスにサーベルを突き立てられたシエラたちが痛みに悲鳴を上げている。
「彼女たちに何をしたんだ、オーキス?」
「私の持つサーベルは旦那様の特別製でございます。ナノマシンを体に宿す者に対して特別な効果を発揮します」
「そ、そうなのか……」

 思考が状況に追いつけず、言葉が上擦る。
 すると、私の体をドンと押してフィナが前に出る。

「オーキスさんだっけ? そのサーベルも凄いけど、あんたも凄くない?」
「執事たる者、主を守るために身を呈せねばならぬこともありますから」
「いやいや、シエラたちって勇者レベルだよ。それを軽く」

「軽くではありませんよ。不意打ちと、あとは攻撃の瞬間にいくつかフェイントを織り交ぜております。あちらのお嬢様方は相当な実力をお持ちですが、経験が浅いようでしたので」
「いや、それを差し引いても、滅茶苦茶強い気が……」
 

 フィナの疑問にレイが答える。
「あまり知られていないけど、オーキスさんは元剣士だからね。その実力はアイリに並ぶよ」
「うっそ、マジで? すごっ。ジクマって人もそうだったけど、生粋のスカルペル人でも勇者レベルに達する人がいるんだ。オーキスさんを調べれば……」

「フィナ、そんにゃのは後にするニャ」
「うむ、警備隊がまだ残っておる」

 このマフィンとマスティフの声にオーキスはとても柔らかな声を返す。
「ご安心くださいませ。すでに手を打っております。ケント様、お手を拝借」
「え? ああ」

 オーキスと手を繋ぐ。
「では、皆さまもケント様と繋がるように手をお繋ぎください。大量の煙幕を張り、この場を去ることにしますので」


 彼は懐から小さな鐘を取り出し、チリンと鳴らす。
 すると、大通りを挟む高層階の建物の窓から大量の煙玉が降ってきた。
 煙に包まれながら、私はオーキスへ問い掛ける。

「ごほごほ、これは?」
「皆さまが研究所に忍び込んだと思われた時点で、王都の各地点で準備しておりました」
「えっ?」

「本来ならば研究所に直接お迎いに上がるべきでしょうが、さすがに研究所の警備を掻い潜るのは困難でございましたので」
「いや、十分すぎる。オーキス、君は実に頼りがいのある男だ」
「アーガメイトに仕える執事として当然のことをしたまで。では、屋敷へ向かいましょう」
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件

fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。 チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!? 実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。 「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

処理中です...