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第三章
第172話 ポチ紹介
しおりを挟むヒデさんとブロンが待つ家の扉を開けて声をかける。
「ただいま―!」
私の声を聞いて一目散に駆け寄って来たブロンが、鼻をひくひくとさせて服についた匂いを嗅ぐ。
『おかえり―!ふんふん……おねえちゃんから甘い匂いがする』
甘い匂いに胃袋が刺激されたのか、ブロンの可愛い口の端から涎がポトリと落ちた。
バターをふんだんに使用した焼き菓子だったからか、微かに服に残り香がついており苦笑する。
「お土産を貰ったからあとで食べようね。それより皆に大事な話があるの」
足元をくるくると走り回るブロンに声をかけてリビングへと向かう。
リビングではソファに腰を下ろしてコーラを飲んでいたヒデさんが、笑顔で出迎えてくれた。
「あ、ユーリさん。おかえりなさい」
「ただいま」
私は背中にかけていたポチをソファの横に立てかけて、亜空間から取り出したお土産の焼き菓子をテーブルに置いて腰を下ろした。
すると、ポチに目ざとく気がついたヒデさんが瞳を輝かせて尋ねてきた。
「あれ?ユーリさん、その剣はどうしたの?今まで色んな剣を見てきたけど、なんか纏うオーラが違うっていうか……神々しい感じがする。格好いい」
いつもは剣を使う時だけ手元に置いてあったのだけど、ポチは意思を持っているしご先祖様であるしょうたさんが大切にしていた剣だったということもあり、何となく亜空間に仕舞えずに背中にかけていた。
ポチと意思の疎通は出来ないままだが、なぜか今どんな感情なのかは伝わってきた。
ポチの現在の感情は喜び?いや、一瞬だけどドヤっている感情が流れてきた。
ヒデさんに格好いいと言われたのが嬉しかったみたい。
言葉を交わしていないけど、ここまで感情がストレートだと分かりやすくて助かる。
私は苦笑を零しながらヒデさんに剣を見せて紹介した。
「紹介するね。この子はポチ。しょうたさんが大事にしていた剣だよ。縁あって領主様から頂いたの。ポチ、彼はヒデさん。しょうたさんの親友だよ」
しょうたさんの名前を聞いたポチが全身を震わせて応える。
その感情は一言で言うと歓喜に近いだろうか。
突然激しく震え出したポチを見て、恐ろしいものから逃れるようにソファに縋りつくヒデさん。
「うわっ!何!?ユーリさんが動かしているの?……にしても、よく器用に震わせられるよね」
「あはは!私が動かしているわけじゃないよ。あのね、ポチは意思を持つ剣なの。じゃあ、テーブルに置くから見てて」
ソファに縋りつくヒデさんを横目にポチをテーブルに置く。
その周りをブロンが興味津々にうろついているが、今はポチが意思を持っていることを証明するのが先だ。
私はポチに向かって話かけた。
「ポチ。彼はヒデさん。しょうたさんの親友だよ。仲良くしてくれる?」
私の声に反応してポチがカタカタと全身を震わせて応える。
「ぅおっ!動いたっ!手品?……いや、本当に剣が意思を持っている、のか?」
ソファに縋りついたままではあるが、恐る恐るテーブルに置かれたポチを覗き込んで呟いたヒデさんは、次第にポチに興味を示したのか、再び瞳を輝かせてポチに質問を投げかけた。
「ポチ?だったっけ?僕は秀幸。皆からはヒデって呼ばれてる。しょうちゃんといつもつるんでいたんだ。本当に僕の言葉がわかるなら二回震えてくれるかな?」
ヒデさんの問いかけに、ポチは嬉しそうに全身を二回震わせて応えた。
「……二回震えた。凄い。本当に意思を持っているんだな。……だけど、会話を交わせないのが残念だ」
確かに、会話を交わせたとしたら、もっとしょうたさんについて色々と話が聞けたかもしれない。
ヒデさんだって、きっと私と同じような気持ちを抱えているのだろう。
そう思うと本当に残念でならない。
「よし。魔道具を作ろう」
唐突にヒデさんが呟く。
彼に視線を向けると、やる気に満ちたヒデさんが拳を握りしめていた。
何が彼のやる気にスイッチを入れたのかわからないが、ヒデさんが元気になってくれたのならこの際どうでも良いことだ。
私は安堵しながら、ぶつぶつと呟いて二階へ上がっていくヒデさんの後ろ姿を見送って焼き菓子を口にした。
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