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第三章
第171話 家族会議(リュシアン視点)
ユーリが屋敷を去り、急遽家族会議を開くこととなった。
口火を切ったのは妻のヘレナだった。
「リュシアン。ユーリちゃんがミシェル様の娘だというのは本当だったのね。あんなに素直で愛らしい子を蔑ろにするなんて、あの野郎をどうするの?まさか、何もしない、なんてことはないわよね?」
普段は儚げでおっとりとしているヘレナだが、その分怒らせると家族の誰よりも怖い。
水属性を持つ彼女は、冷気を操ることが出来る世界でも珍しい魔法の使い手だ。
怒りで感情を抑えられないのか、ひんやりとした冷気が執務室に漂い始めて慌てて注意する。
「落ち着きなさい。冷気が漏れているぞ」
ハッと我に返ったヘレナが目を閉じて大きく深呼吸を繰り返す。
それから目を開けると、申し訳なさそうに眉尻を下げて言った。
「ごめんなさい。でも、わたくしの尊敬するミシェル様の娘を蔑ろにされて怒りを抑えられなかったの。……気をつけるわ」
その昔、ヘレナは病弱で長く生きられないだろうと医師に告げられていた。
そこへ、偶々ミシェルの癒しの能力を聞きつけたヘレナの父親に懇願されて完治させたことから、ヘレナはミシェルを神のように敬うようになった。
その縁で私とヘレナが婚約したというわけだ。
ミシェルが隣国エストロッジ国へ嫁ぐと決まった時は、それはもう言葉では言い表せないほどに落ち込んだのは言うまでもない。
かく言う私も大事な妹を隣国に嫁がせるのは反対だったが、ウィルフレッドの熱烈な申し入れに異議を唱えることも出来ずに受け入れたことを今では心底後悔している。
「ミシェルを蔑ろにしたことを許せるはずがない。今は内密に情報を収集しているところだ。……だが、ロージス家にはミシェルの息子が居る。事を荒立ててダニエルに迷惑をかけるわけにはいかない。すまないが今は堪えてくれ」
私の話を聞いていたヘレナが小さく息を吐き出して頷く。
「……そうですわね。感情で動いてはダニエル様に迷惑をかけてしまいますわね。それよりも今は、ユーリちゃんが幸せに生きていけるように陰ながら手助けしていく方法を考えないといけませんわね」
ヘレナの言うことはもっともだ。
ユーリはルイスを助けたポーションの件でも、決して口外しないようにと言っていた。
きっと、自身が目立ってしまうことを避けたいのだろう。
とても十歳とは思えない大人びた考えを持っていることから、彼女が出来るだけ目立たないように平穏に暮らしたいという気持ちが伝わってきたことを思い出す。
「そうだ。今の我々に出来ることはユーリの幸せを守ることだ。あの子の小さな望みを叶えてやるのが我々の努めだ。皆、くれぐれもあの子の気持ちを蔑ろにするような言動は控えるように」
「ええ、わかりましたわ」
「それがユーリの願いならそういたしましょう」
ヘレナとヘンリーは即答したが、リュークは渋々返事をした。
「……はい」
ルイスは複雑な表情を浮かべたまま無言で頷いた。
「……」
ルイスの気持ちはわからないでもないが、あの子の気持ちを想うなら今までの暮らしを続けてもらうのが良いだろう。
堂々と可愛がれないのは辛いが、それもあの子の幸せを守るためなら致し方ない。
私は複雑な表情を浮かべたままのルイスに視線を向けた。
「ルイス。妹が出来て嬉しい気持ちはわかる。だがな、あの子は貴族に縛られない自由な暮らしを望んでいる。我々があの子の気持ちを蔑ろにして束縛する権利はないのだよ。一緒に暮らせないが、家族であることは紛れもない事実だ。共に見守っていこうではないか」
ずっと寝たきりで諦めていた人生に光を与えてくれた存在であるユーリ。
そのユーリと血の繋がりがあると知ったルイスの喜びようは尋常ではなかった。
だからこそ、ユーリの意思を聞かされた時のルイスの落ち込みは半端なかった。
ルイスの気持ちも大事にしたいが、こればっかりはどうしようもない。
「……はい」
俯いたままポツリと呟いたルイスを、内心申し訳ない気持ちで静かに見つめた。
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