転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第三章

第176話 店舗契約

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 自宅から近い場所に空き店舗が見つかり、私はホッと胸を撫で下ろす。
 木造建築の二階建ての店舗はそこそこの広さがあり、一階を店舗、二階は居住スペースとして使えるようになっていた。
 
「家から近いし家賃も安いからどうかなって思ったんだけど、ヒデさんはどう思う?」

 私に尋ねられたヒデさんが、広い店舗を見渡して満足そうに頷く。

「家から近いのは嬉しいな。それに、この広さで家賃が安いのは助かる。奥のスペースを工房にして手前を店舗にしたら、しばらくは僕一人でも対応は出来そうだ」

 ヒデさんは一人で店を切り盛りするつもりでいるようだ。
 いくら何でも無理があるだろう。
 私は慌てて頭を横に振る。

「いやいや、従業員を雇おうよ。そのために資金を出すって言ったのに、それじゃあ店舗を借りた意味がないじゃん」

 それでもヒデさんは、納得がいかないのか申し訳なさそうに眉尻を下げたままポツリと呟く。

「え……でも、今の僕には人を雇う余裕はないしこれ以上ユーリさんに負担をかけるのは……」

 ヒデさんが私を頼るのが申し訳ないと思う気持ちはわかる。
 だけど、ヒデさんのやり方では店舗を構えて従業員を雇うのは難しいだろうことも私は理解していた。
 私はヒデさんに負い目を感じさせないように笑みを浮かべて告げた。

「軌道に乗ったら返してくれたらいいよ。領主様に経営に詳しい人と信頼出来る従業員を紹介してもらえるか手紙で相談しておいたから、ヒデさんは心おきなく魔道具造りに励んでよ。きっと領主様も喜んで応援してくれると思うから」

 領民の暮らしが豊かになると知ったなら、領主様ならきっと喜んで手助けしてくれるだろうという確信があった。
 手紙には、これまでヒデさんが造ってきたものをつらつらと詳細に書き連ねておいた。
 もちろんイラスト付きで。
 絵心はないけど、それでも私にしてはなかなかの出来だと思う。
 まあ、そんなことはさておき、今はヒデさんを説得するのが先だ。
 俯いてしまったヒデさんに、私は諭すように語りかけた。

「何を始めるにしても初期投資はかかるものだよ。大丈夫。ヒデさんなら初期投資くらいすぐに回収出来るよ。それに、私はどこかの悪徳業者のように利子を取るつもりなんてないし、利益が出ないうちから返済しろなんてことは言わないよ。他所からお金を借りるより私の方がよっぽど安心で安全だと思うな」

 私の言葉を聞いて顔を上げたヒデさんが、オウムのように繰り返す。

「……悪徳業者……利子……」

 ヒデさんにとって、その言葉は少しばかり衝撃的だったようだ。
 顔色を青ざめさせて口をギュッと引き結んだヒデさんを見て、私はふと彼が未成年だったことを思い出す。
 中身が成人した私と違い、ヒデさんは純粋な高校生だ。
 社会人未経験の彼には、この話は少しきつかったかもしれない。
 それと同時に説得するチャンスだと考えた私は、多少大袈裟に話を盛って説明することにした。

「社会に出たことがないヒデさんにはわからないだろうけど、日本にも悪徳業者って結構いたんだよ。ただ、あまり公に報道されることがなかったってだけ。それにさ、世間を知らない人間が甘い誘い文句に載せられて借金を背負うことになるなんてこともよくある話なのよ。ヒデさんにはそんな経験してほしくないな」

 多少話を盛ってあるとはいえ、先ほど話したことは事実だ。
 軽い気持ちで楽して稼ごうとした青少年たちが、気づかないまま犯罪に手を染めて取り返しのつかないことになった事案もあった。
 本人は大金を稼げればそれで良かったのだろうけど、あまりにも安易に考え過ぎだ。
 そして、善悪の区別がつかない青少年たちを利用しようとする大人たちに対しても、私は苛立ちを募らせていた。

 私は、見た目はまだ十歳の子供だけど、中身は成人した大人だ。
 大人のずるくて汚い一面を見て理解しているつもりだし、実際目の当たりにしたこともある。
 皆が皆、悪いとは思っていないが、金銭が絡むのであれば尚更慎重に考えるべきだと思う。
 
 私の真剣な眼差しを受けてヒデさんが口を開いた。

「……忘れていたけど、ユーリさんの中身は大人だったんだよね。説得力があって納得したよ。……わかった。ユーリさんの言葉に従うよ。ありがとう」

 どうやら理解してくれたようだ。
 私はニッコリと微笑み返すと、店舗の契約やその他の準備に取り掛かった。


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