転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第三章

第175話 ファンヒーターもどき

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 温暖な気候とはいえ、真冬ともなれば寒さはそれなりに厳しさを増していた。
 そんなある日のこと、ヒデさんが満面の笑みを浮かべて魔道具を見せて言った。

「じゃじゃーん!ちょっと遅くなったけど、魔道具が完成したよ」

 そう言って床に置いて見せてくれたのは、前世でよく見たファンヒーターだった。
 といっても、ボタンは無く赤い魔石が埋め込んであるだけの簡素なものなのだが。
 なんちゃってファンヒーターもどきの前に立ち、ヒデさんがドヤ顔で説明をし始めた。

「この赤い魔石に魔力を流せばこの部分から暖かい風が出る仕組みになっているんだ。じゃあ、ちょっとやってみるから」

 赤い魔石に魔力を流すと暖かい風が勢いよく出てきた。

「わっ!暖かい!それに思っていたよりも音がしない!」

 記憶にあるファンヒーターと比べても動作音は非常に静かな上に、短時間で室内が暖まっていることに驚いた。
 私の驚いた表情を見て、ヒデさんが自慢気な顔をする。

「でしょ?もっと音がすると思っていたんだけど、使用しているのが魔石だからなのか想像していたより静かなんだよね。あと、コストを抑えられたのが良かった。これなら利益を確保出来ると思う。ようやく商売として目途がつきそうで安心したよ」

 明らかに安堵の表情を浮かべたヒデさんに、私はこれまでのヒデさんの苦労を思い出して苦笑する。

 便利な魔道具を造るには素材は欠かせないし、モノによっては素材が高額だったり手に入らなかったりと供給が安定しないこともあって一定の利益を確保するのが難しかった。
 ちなみに、コーラも量産は難しいので販売に至っていないことを補足しておく。
 それと、冷蔵庫は数量限定で販売しているものの、良心価格に設定しているため利益はほとんどないらしい。
 いずれ庶民にも購入してもらえるように価格を考えて試行錯誤しているみたいなのだが、如何せん人を雇う余裕がないこととヒデさん一人で魔道具造りをしているため、時間がいくらあっても足りないとのことだった。

「ねぇ、資金を出すからそろそろ人を雇ったらどうかな?このままだと新たに魔道具造りをするにしても集中出来ないでしょう?」

「……う~ん。それはそうなんだけど……ユーリさんにお世話になりっぱなしっていうのもなぁ……」

 眉尻をへにょりと下げて口ごもるヒデさんに、私は諭すように語りかけた。

「そんなことないよ。私だってヒデさんに色々と助けてもらっているし、ヒデさんのおかげで生活も便利になったと実感しているのだから。それに、庶民の暮らしが便利になれば良いなって私も思っているの。ヒデさんの庶民に寄り添った考え方は尊敬しているしその手助けになるのなら私にも手伝わせてほしい」

 以前ヒデさんは、便利な魔道具をより安価で一般に広めたいと言っていた。
 私もその考えには大賛成だ。
 だけど、そのためにはある程度の資金と人材が必要となる。
 私には冷蔵庫やファンヒーターを造る知識も技術もないけれど、幸いにもブロンとメイスのおかげで潤沢な資金が手元にある。
 せめてそれくらいはさせてほしい。
 そんな想いで提案してみたのだけど、ヒデさんには一度断られていた。
 しかし、今回は私も引くつもりはない。

 カミール領に来てから数か月、ヒデさんのやり方を黙って見守っていたけれど、彼のやり方では事業を拡大するのは疎か、このままではいつまで経っても魔道具を一般に普及させるのは難しいだろうと思うようになっていた。
 ヒデさんも一度断ったものの、どうしたら良いのか分からずに困っていたようだ。
 私の申し出を受けて明らかに安堵の表情を浮かべたヒデさんは、おずおずとした様子で尋ねてきた。

「……じゃあ、ユーリさんに甘えようかな。実はちょっと困っていたんだよね。僕、魔道具造りは苦じゃないんだけど、料金設定とか交渉とか苦手で……お願いしてもいいかな?」

「もちろんだよ!人には得手不得手があるんだから出来ることをしたら良いと思う。無理して苦手なことをする必要はないし、それを補える人を雇えば済む話だしね。資金に関しては心配しなくて大丈夫だから安心して私に任せて」

 頼ってくれたのが嬉しくてまっ平の胸をとんと叩く。
 ヒデさんは申し訳なさそうに眉尻を下げていたけど、困った時はお互いさまだ。
 
 次の日から人員の確保や店舗探しに走り回った私は、忙しくも充実した毎日を送った。


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